逆襲

「 で……その、自殺した赤井進英になんで目星をつけたんだ? 」


 車は森林の中の一本道をただ進んでいた。

 路傍には未だに多くの雪が残っている。


「 はい。私は東山高校内でのいじめがあったのではないか。そう考えています。

 そのいじめによって赤井さんは、死んだのです 」

 馬場が腕を組んだ。


「 で、……それで? 」

「 いじめがあったかどうかはまだわかりません。

 しかし。自殺があったというのに捜査資料が全くないんですよ 」


 中沢が眉をひそめた。

「 資料を……誰かが破棄した、と? 」

「 他にありますか? 」

 中沢と馬場は首を振った。


「 " 組織的な自殺の隠蔽 "……か……? 」

「 ということになりましょうね 」


「 さて次は自殺の隠蔽が誰によって図られたのか、ということです 」

「 ええと……当時の担当なんて資料がないからわからないんじゃねえか? 」

 竹下はたいそう満足そうな顔をした。


「 唯一の手がかりである自殺者ファイルに載っていないのですから、探すのは一手間必要です。

 人を当たればきっとわかるでしょう。ただし 」

「 ただし? 」

 馬場が竹下を覗き込んだが、中沢が指パッチンをした。


「 推測はできるってことですねっ 」

「 君っ、運転中に手を離すもんじゃないですよ 」

 中沢の応答に間髪入れずに竹下が注意した。

「 ……どこかの無免許運転よりかはマシだと思うんですよね…… 」


「 ーまあ、中沢君のご名答。当時の組織図から担当者になり得る人を洗いだしましたよ 」

 そう言って組織図を広げた。

 車内で広げるには大きい。


「 そしてここに 」

 竹下がビシッと指を指した。

 そこに書かれている人名が丁度隠れた格好である。


 馬場がボソッと言った。

「 ……片野長官だったな。そこは 」

 シーンと静まり返った車内に暖房が騒がしい。


 竹下が指を退けると"片野等"という文字が見えた。


 中沢も、馬場も、だんまりだ。


「 ふふっ 」

 馬場が竹下を見上げた。


「 ふふふふっ 」

 笑っている。

 竹下が、笑っている。


「 面白い。実に面白い 」

「 何が……面白いんですか。

 警視庁じゃない。警察全体を揺るがす事件ですよ 」

 馬場が竹下を見上げた。


「 東山高校が立件されなかったのは、校長と長官が友人だったからだそうですよ。

 お陰で色々と賄賂見つかってますよ……いま鑑定で調べていますよ 」

「 竹下さん……? 」


「 私はね、思うのです。

 警察ってなんのためにあるのかって 」

 中沢は鏡越しに答えた。


「 ……事件を……解決すること…… 」


 竹下は馬場を見た。

「 もうお膳立てはしましたよ…… 」


 馬場から汗が引いた。

 ー長官への下克上。


 竹下が続けた。

「 さあ、上の操り人形になりますか?

 それとも……本来の警察を取り戻しますか……? 」

 馬場の喉仏が、ごくんと動いた。

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赤いShine! 〜東京区内連続殺人事件〜 みけねこ @mi-san

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