第三話 四人のヴァルキュリア
「あ、貴方は……誰ですか?何しにここへ?」
侵入者が現れ、聖女・アマリアは、怯える。
何者なのか。
なぜ、ここへ現れたのか。
目的は、何なのか。
アマリアは、理解できない。
侵入者が、不気味に見えて仕方がないのだ。
「……私は、帝国を滅ぼす者です。貴方を連れ去りに来ました。とでも言っておきましょうか」
ラストは、淡々とした口調で、語る。
やはり、どこか、不気味で仕方がない。
目的を明かしたが、その言い方は、意味深だ。
アマリアは、逃げようとするが、ラストは、静かにアマリアに迫った。
「こ、来ないでください!!帝国を滅ぼすつもりなら、貴方を食い止めます」
「意志が強いねぇ。やっぱり」
「え?」
アマリアは、後ずさり、掌の上でロッドを出現させる。
手の上で、武器を出現させることは、帝国兵は、不可能だ。
たとえ、魔法や魔技でも。
ヴァルキュリアでなければ、不可能なのだ。
その力を発動できる彼女は、やはり、特別な力を持つ者なのだろう。
アマリアは、怯えながらも、ラストを止めると宣言する。
その瞳は、強い意思を宿しているのだろう。
そんなアマリアの姿を目にしたラストは、アマリアの事を知っているような口ぶりで語る。
アマリアは、驚き、動揺した。
「やっぱり」とは、どういう意味なのだろうか。
その時だ。
帝国兵達が、アマリアの部屋に入ったのは。
「誰だ!!」
「そこを動くな!!」
帝国兵達は、異変を察して、部屋に入ってきたのだろう。
ラストを目にした瞬間、帝国兵達は、ラストに襲い掛かる。
ラストは、華麗に、よけるが、フードが外れてしまった。
だが、ラストの素顔は、誰も見れなかった。
なぜなら、仮面をつけているからだ。
目元と左側を追っている仮面が。
短い金髪のラストは、にっと笑う。
それも、不気味に。
帝国兵達は、背筋に悪寒が走るが、それでも、ラストに斬りかかった。
「そりゃっ!!」
ラストは、四本の短剣を投げる。
短剣は、帝国兵達の額と心臓に突き刺さる。
帝国兵達は、そのまま、ゆっくりと、仰向けになって倒れた。
「ひっ!!」
帝国兵達が、殺され、アマリアは、手で口を覆う。
恐れを抱いているのだろう。
残虐な殺し方をしたラストに対して。
だが、ラストは、容赦なく、アマリアの元へ迫り、短剣を首につきつけた。
「おとなしくしてください。殺されたくなければ」
ラストは、アマリアに告げる。
動けば、殺すと言いたいのだろう。
短剣は、ギリギリのところで止まっている。
もし、アマリアが動けば、ラストは、アマリアの喉を切り裂くかもしれない。
アマリアは、ラストの言う事を聞くしかなかった。
ヴィオレットは、広場で、ヴァルキュリア達と戦っている。
攻撃を仕掛けるヴァルキュリア達。
だが、ヴィオレットは、反撃せず、ただ、かわすばかりであった。
「逃げてんじゃねぇぞ、ヴィオレット!!殺し合いをしようぜ!!」
「待て、ベアトリス!!勝手に行動するな!!」
逃げ続けるヴィオレットに対して、苛立ちを露わにしたのは、黄色の髪の少女だ。
彼女の名は、ベアトリス・マーテナ。
二十二歳の地の精霊人。
斧を振り回しながら、ベアトリスは、ヴィオレットに迫ろうとする。
彼女を殺すつもりのようだ。
だが、赤い髪の少女は、ベアトリスを止めた。
それも、強引に。
「そうだよ、ベアトリス~。これだから、野蛮な女は」
「はぁ?お前に言われたくねぇぜ、ライム。この性悪女が」
ベアトリスをののしっているのは、緑の髪の少女だ。
彼女の名は、ライム・ミシェッタ。
十四歳の風の精霊人であり、手にしている武器は、クロスボウ。
小柄なライムは、自分よりも、背の高いベアトリスをののしる。
それも、小悪魔のように。
ベアトリスは、苛立ち、ライムをにらみながら、反論した。
「ちょっとぉ。私のヴィオレットを殺さないでくれるかしらぁ?ヴィオレットはぁ、私のものなんだからぁ」
青い髪の少女が、二人の前に立つ。
まるで、ベアトリスとライムの邪魔をしているかのようだ。
彼女の名前は、セレスティーナ・レインディ。
年齢は、十八歳。
水の精霊人であり、カードを手にしている。
そのカードが、彼女の武器のようだ。
セレスティーナは、ゆっくりとした口調で、二人を止める。
だが、その言葉は、ヴィオレットに執着しているようだ。
まるで、ゆがんだ愛情を抱いているように思えてならなかった。
「出た出た。本当、ヴィオレットが好きだよね。気持ち悪い」
「褒めないでよぉ」
「褒めてない」
セレスティーナの言葉を聞いたライムは、嫌悪感を露わにする。
それでも、セレスティーナは、気にしていないようだ。
いや、それどころか、褒められていると思っているらしい。
ライムは、ますます、苛立った。
その間に、ベアトリスが、ヴィオレットに襲い掛かる。
ヴィオレットは、すぐさま、かわすが、カレンが、魔技・バーニング・インパクトを発動する。
ヴィオレットは、回避しきれず、爆発に巻き込まれた。
「ぐっ!!」
爆発に巻き込まれたヴィオレットは、吹き飛ばされてしまう。
地面にたたきつけられるが、ヴィオレットは、すぐさま、立ち上がる。
体中焼け焦げた痕が、痛々しい。
それでも、ヴィオレットは、痛みに耐えて、構える。
痛みすら、押し殺しているのだろう。
「ヴィオレット、観念しろ」
「カレン……」
赤い髪の少女は、ヴィオレットに迫る。
彼女の名前は、カレン・ラスウォーネ。
ヴァルキュリアのリーダーでもある。
十六歳の火の精霊人だ。
カレンは、ハルバートをヴィオレットに向けた。
ヴィオレットを捕らえようとしているのだろう。
ヴィオレットも、鎌を振り回し、カレン達に向ける。
逃げるつもりは、ないようだ。
カレン達は、ヴィオレットに迫った。
だが、その時だ。
短剣が、カレン達に向かって、放たれたのは。
「っ!!」
カレン達は、短剣に気付き、武器で、弾き飛ばす。
一体、誰が、このような事をしたのだろうか。
警戒するカレン達。
周囲を見回すと、王宮の屋根にヴィオレットと同じ、ボロボロのフードをかぶった男性が、アマリアを抱きかかえて立っているのが見えた。
彼は、ラストだ。
ラストが、ヴィオレットを助けたのだろう。
「そこまでだ!!ヴァルキュリア!!」
「あ、アマリア様!!」
カレンは、アマリアがラストにさらわれたと気付き、驚愕する。
いつの間に、アマリアが、攫われてしまったのだろうか。
ヴィオレットに気をとられていたばかりに、彼女を守れなかったのだ。
悔やむカレン。
だが、ヴィオレットは、冷酷な表情を浮かべるだけであった。
「ヴィオレット、任務達成だ。引き揚げるぜ~」
「わかった」
ラストは、ヴィオレットに向かって、叫ぶ。
任務達成だと。
なんと、ヴィオレットは、囮だったのだ。
全て、アマリアを攫う為に。
カレンは、そう、悟ったが、ヴィオレットは、すぐさま、カレン達に背を向ける。
ラストも、いとも簡単に、屋根から飛び降りて、逃げ始めた。
「に、逃げるな!!」
カレン達は、すぐさま、ヴィオレットを追いかける。
ヴィオレット達を捕らえる為に。
だが、その直後、カレン達の周りで爆発が起こった。
「ば、爆発!?」
爆発により、体勢が崩れるカレン達。
煙が起こり、ヴィオレットの姿は、見えなくなった。
爆発は、連発して起こる。
これも、ヴィオレットが仕掛けた罠なのだろうか。
ヴィオレットを捕らえたいところではあるが、ヴィオレットの姿は、見当たらない。
完全に見失ってしまった。
「カレン様!ここは、どうしたら……」
帝国兵がカレン達の元へ駆け付ける。
このままでは、王宮全体が、火に包まれてしまう。
今は、火を消火するしかない。
ヴィオレットを追ったとしても、もう、彼女は、どこに逃げたのかは、わからないのだから。
「ヴィオレット、絶対に、許さない!!いつか、殺してやる!!」
カレンは、姿の見えないヴィオレットに向かって、叫んだ。
それほど、ヴィオレットに憎悪を抱いているようだ。
やはり、華のヴァルキュリア・ルチアが、ヴィオレットに殺されたからなのだろうか。
ヴィオレットは、カレンの叫び声を聞きながらも、振り向こうとせず、ラストと共に、王宮エリアを脱出しようとしていた。
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