心の神に祈れ
第18話「天空の城はガソリンスタンド」
そして、そう多くはないが銀の弾丸が事件を解決したこともある。
その間ずっと、ストレガは以前と変わらず空を飛んでいた。
『どうした、若いの? ここ最近、空は空でも
無線機を通じて、バロンが声をかけてくれる。
ここ最近、ワイバーンの出現が
小八洲島は南下し始めているが、今日はとうとう東北地方に出現した。迅矢はバロンとの巧みな連携でこれを仕留めたが、内心ではずっと願っていた。
乾きに
ワイバーンはドラゴンに近い
だからこそ、迅矢は期待していたのだ。
またドラゴンが出たら、その時こそ……だが、その瞬間は訪れなかった。
「こちらウォーロック、そんなにかねえ……ドワーフ」
『見ててハラハラする程じゃ。それに……嫌な殺気を感じるかのう』
「はは、お見通しか……っと、やべぇな。小八洲島までもたねえぞ、こりゃ」
X-2
東北まで飛んでのドッグファイトで、かなりの燃料を消耗してしまったようだ。それに、外付けのドロップタンクは慣例通り、戦闘突入と同時にパージしてしまった。
因みに、支援団体が回収してくれるから一安心である。
なんでも、ダウジングや占いの方がレーダーよりあてになるそうだ。
『こちらドワーフ、右に同じくじゃ。どれ、スタンドに寄ってくかのう』
「は? おいおい、冗談はよせよ
『おや、若いのは知らんのか? 給油なら空の上にも……もともとその予定じゃ』
「そういや、燃料は気にするなってクサハェルが。空中給油機でも飛ばしてくれるもんだとばっかり。でも、スタンドだって? ハッ、この大空のどこにガソリンスタンドが」
だが、バロンは愉快そうに笑っている。
そして、彼のTa152H1フォッケウルフが高度を取り始めた。
追従するように上昇すれば、雲海の上へと突き抜ける。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
「なっ、なんだありゃ!?」
『ホッホッホ、最近はアレコレ怪異に慣れたじゃろうが……なぁに、初めて見た時は誰でも驚くもんじゃよ』
そこには、城が浮いていた。
有名なアニメ映画のあれだ。
そして、小さい頃に何度か見ただけの迅矢でも、同じ
「ラピュタは本当にあったんだ……じゃねえよ! おいっ、爺さん!」
『そうじゃ、あれが天空都市ラピュタ……かの冒険小説家ガリバーは、ストラトストライカーズの母体となった組織の人間じゃよ』
「なんかもう、すげえな」
『各国のストラトストライカーズを支援するため、定期的に航路を巡ってるんじゃ。どれ、着艦するかのう』
そういえば、迅矢は以前から不思議だったのだ。
心神は元々、
このラピュタで補給するために、着艦作業が必要なのだ。
「しっかし、デケェ城だな……城、だよな? 真ん中あたりはアニメの通りだが」
『古代人が作ったもんじゃからのう。今は改築や増築を繰り返し、この有様じゃ』
目算で直径は5km前後だろうか? その中央には、荘厳な王宮がそびえている。周囲を囲む森の外側には、
どうやらここで暮らしている人間もいるようだ。
日本の神社仏閣があると思えば、教会もあるし高層ビルも建っている。それでいて、中華様式の建物もモスクらしきものもある。広い地球の国境を取っ払って、一緒くたに寄せ集めたような風景だ。
しかも、その裏手にある滑走路がまた凄い。
「な、なあ、ドワーフ……あれは」
『フォッフォッフォ、恐いか若いの? 着艦手順は一応訓練にあった
「いや……なにが凄いってこれ、空母の航空甲板そのまま張り付けてあるじゃねえか」
バロンの説明では、あれは旧大戦中の帝国海軍が保有していた、大和級三番艦……幻の
戦時中も日本はストラトストライカーズへと戦力を供給、協力体制を取っていた。
戦争でいがみ合っていても、空での怪異には一致団結していたのだ。
そして、信濃は潜水艦による攻撃に偽装して自沈させられたのち、ラピュタに運び込まれて空港代わりにされているという。今見ても巨大なその飛行甲板は、原子力空母をアメリカが作るまで地球最大だったのだ。
「ま、降りてみますか……ドワーフ、そこで見てな!
『言ってくれるわい! 初めてでブルッてても笑わんぞ? 上手く行ったらおなぐさみ……なんなら一杯賭けてもいいわい』
「やな爺さんだね、ったく……っしゃ、アプローチ開始っ!」
迅矢の操縦で、心神は翼を
マニュアルは一応読んでたし、いつ空母に降りろと言われてもいいとは思っていた。だが、天空の城に降りるなんて、想定外だ。
そして、やらされてみて気付く。
それは空母に降りるよりも何倍も難しい。
「くそったれ、ラピュタはどんだけスピード出してんだ? すげえ速さで動いてやがる」
地球を巡回するラピュタのスピードは、予想以上だ。そのあとを追うようにして、着艦コースに乗る。減速する必要があるのだが、減速し過ぎるとラピュタに置いてかれてしまうのだ。
速過ぎず、遅過ぎず。
あとは、着艦用のワイヤーとフックを信じるのみ。
迅矢はやり直しのきかない領域へと、心神を押し出した。
そして、衝撃。
空母への着艦をパイロット達は『安全な墜落』と
魔法と加護に満ちた心神は、しっかりフックでワイヤーを掴んで停止した。
どっと汗が吹き出し、迅矢はシートに身を預けてマスクを外す。
「やれやれだぜ……しかも、爺さんは楽勝であっさり着陸ときてる」
バロンのアプローチは見事なものだった。心神よりスピードで圧倒的に劣るフォッケウルフは、この難しい条件では大変な筈だ。だが、気持ちよくタイヤを鳴かせて、静かに着陸を決める。見てて
だが、誘導員に従い機体を並べるや、隣で愛機を降りたバロンは悔しそうだった。
「やるのう、若いの! クラッシュするかと思ったわい」
「どうにかこうにか、さ」
「大した腕じゃ。どれ、一杯
そう言ってバロンは、
周囲ではすぐに、給油作業が始まる。
まるで
そんなことを考えていると、別の機体が航空甲板に着陸した。
それは機体ではなく、銀色の毛皮に覆われた巨大な
「はいっ、お疲れ様でした! 今、なにか食べ物をもらってきますねっ」
狼の背から降りたのは、
彼女は迅矢の視線に気付いて、ぽてぽてと駆け寄ってきた。
すらりと長身でスタイルがよく、顔はあどけない少女の面影がまだあった。
「こんにちはっ! 日本支部の方ですか? わたしはエルグリーズ、ワルキューレです! あっちは友達のフレキさん」
「お、おう……ふむ!」
迅矢は、満面の笑みのエルグリーズを改めて見渡した。
上玉だ、めちゃくちゃ美少女である。
年の頃は十代の後半か、もう少し上か。
聞けば、ストラトストライカーズのユーロ支部に所属しているらしい。迅矢が名乗ると、少し考え込む仕草の後に……エルグリーズはパァァと笑顔を輝かせた。
「霧崎迅矢さん! ひょっとして、ストレガちゃんの友達の迅矢さんですか!? わたし、お手紙でいつもその話を、ひあっ! あ、ちょっと、フレキさん、駄目ですぅ、今ちょっと大事な……はわわっ!?」
エルグリーズは、のっそり背後に立った巨大な狼にべろりと
狼なのだが、行儀よくおすわりする姿はまるで忠犬である。
エルグリーズは、まるまる
「さ、フレキさん! ごはんです。わたしもちょっと、なにかお腹に入れてきますねっ」
「ああ、それだったら……君、ラピュタは初めてじゃないよね? よかったら、俺を案内してくれないかな? メシ、奢るからさ。そのあと、よければ二人っきりで――」
「メシですか!? メシってご飯ですか!? わぁ、迅矢さん……
死せる勇者を導き、ヴァルハラへと誘う
迅矢は戻ってくるバロンをちらりと見て、隠れるようにちゃっかり彼女の手を引く。
「おや? 若いの、どこにいった? 便所か? っと、こりゃエルの狼じゃないかね。なんじゃ、お前さん……ご主人様はどうした? あっ、こら待て、これはいかん! これはワシのおやつじゃ、これ! はなさんか!」
バロンの悲鳴とじゃれつくフレキの鳴き声を背に、迅矢はエルグリーズの手を握って歩いた。艦橋部分からエレベーターで降りると、そこにはラピュタの町が広がっているのだった。
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