・激務と休暇と、お泊りと
第10話「彼等の朝」
昨日のワイバーン撃墜に関しては、詳細なデータがクサハェル達からもたらされた。どうやら、普段の生活圏から迷い出た個体らしく、群で今後襲来する危険はなさそうだ。
だが、問題は
それについては皆、例の巨大な
ドラゴンは存在するだけで、大自然に影響を与え、
「あっ、迅矢さん。おはようございますっ! もうすぐご飯ですからね、待っててくださいっ」
朝、まだ眠い頭で迅矢は食堂へと降りる。
彼は迅矢に気付くと「おはよう」と
「おはようございます……うう、眠ぃ」
「ほっほっほ、若いのにだらしないのう」
「
「ほうほう、どこのネジかわかったのかのう」
「ああ、すんげえ内側の奥の奥……もう、分解整備みたいなことになってよ」
昨日の早朝、迅矢は出動に際して新たな翼を得た。
X-2心神……最新鋭のステルス実験機だ。部品の状態で運ばれてきたこの機体を、ストレガは魔法で組み立てた。あっという間に部品の全てが舞い上がり、混じり合う風の中で姿を象る。
だが、彼女はうっかりネジを一本入れ損ねた。
そのことで、迅矢は昨夜遅くまで整備班とてんてこ舞いだったのだ。
ぼやくような迅矢の話しに、フンと鼻で笑う声。
見れば、テレビのニュースを見ながらヘリオンが
「やれやれ、その程度で
「ンだと、ああ? ヘリオン、手前ぇなあ……ネジ一本でも、俺達パイロットにとっちゃ死活問題なんだよ!」
「おや、それはそれは。まあ、あのストレガが魔法で組み立てたんだ、それくらいの
「洒落になんねえよ……あと、
ドッカと自分の席に腰を下ろせば、すぐに千小夜が皿を並べてくれる。
食堂のテーブルは、十人程が座れる大きさだ。そして、キッチンと直接
テレビでは朝のニュースで、昨日早朝の謎の発光現象を報じている。
光の屈折現象だと専門家が発言しているが、あれは竜の吐いた火球だ。
洋上だから遠慮なく叩き落としたが、遅れていればあのワイバーンは本土に上陸していただろう。都市部の上空で暴れられたら、手のつけようがない。
そういう意味では、迅速な対応だった。
「はいっ、ヘリオンさん。コーンポタージュです、熱いですよぉ」
「ありがとう、千小夜。今日も綺麗だね。それに、とても
「まあ、ふふふ……ありがとうございます」
思わず迅矢は、ケッ! と毒づく。
なにが綺麗だ、とても美味しそうだ、である。
そして、彼は思い出したようにヘリオンをからかい始めた。自分でもそこまで食って掛かるつもりはなかったのだが、後輩が昔からゲームや漫画が好きで、思い出したのである。
「あれだよなあ、ヘリオン……俺ぁ、知ってるぜ? お前……処女しか自分に近付けさせない、変態なんだろ!」
バロンが「むむ?」という顔をした。
だが、それをヘリオンが手で制する。
味噌汁に口をつけてから、美味を深い溜め息で表現して、迅矢はさらに言葉を続けた。
「スケベな野郎だぜ……千小夜ちゃん、気をつけな!」
「あ、はい……えっと、その話って多分」
「ああ、いいんだ千小夜。迅矢、もう少し聞かせてくれるかな? 僕がスケベな変態だというのは……とても興味があるね」
意地の悪い笑みを浮かべているが、ヘリオンのカップを持つ手は震えていた。
どうやら、彼を怒らせることに成功したようだ。
それを迅矢は、
「処女が大好きだなんて、
「……迅矢。そろそろいいかな?」
「おっ? なんだなんだ、反論があるのか? いいぜ、言ってみな!」
「君の話してる幻獣は、ユニコーン。
最後に小さくヘリオンは「
迅矢はどうやら、勘違いをしていたようである。
言われてみれば確かに……ユニコーンとかいう馬だったような気がした。自分が間違ってたこと、それなのにドヤ顔で振る舞っていたことが思い出されて、顔が熱くなる。
バロンは新聞で顔を隠して笑っていたし、千小夜は顔が真っ赤だった。
「だっ、だだ、誰が童貞だコルァ!」
「君以外に誰がいるんだい?」
「ぐっ……わ、悪かったよ! けどな、ユニコーンだかペガサスだか知らねえが、いちいち
「その、人間様っていうのをいつも君達人間は口にするね。これこそ、何様だい?」
「何様ってそりゃ……んー、そりゃ……お互い様? か?」
「ふむ……まあ、確かに僕も君なんかの
なんだかいちいち引っかかる物言いだ。
だが、皆がご飯と味噌汁、焼いた
そうこうしていると、ガチャリと食堂のドアが急に開いた。
千小夜の悲鳴を聴きながら振り向いて、迅矢は絶句してしまう。
「ストレガさんっ! 服! 服を着てくださいっ!」
「……おはようございます、プリースト」
「また寝ぼけてますね、もぉ……どうして
「今期のアニメ、チェックすべき作品が、多いんです……それに、新作のゲームを」
「わかりました! わかりましたから!」
そこには、下着姿のストレガが立っていた。
真っ白な肌に、黒いスケスケのレースが鮮やかに際立つ。
眠そうなジト目で周囲を見渡して、彼女は止める千小夜にも構わず自分の席に座った。クイと宙で手を動かせば、彼女へ向かってテレビのリモコンが飛んでくる。
リモコンを空中でキャッチすると、ストレガがチャンネルを変えた。
『今だ、ハヤテ! シンカリアン、超進化変形!』
『オーケー! シャショッタ!』
いきなり朝からアニメである。
それをぼんやり
駄目だ、完全に目が死んでいる。
綺麗な
そんな彼女の手から、ヘリオンがリモコンをひったくる。
再びチャンネルが、ニュース番組に切り替わった。
『さて、次のニュースです。防衛省は昨夜遅く、未確認の飛翔体に対してスクランブル発進したパイロットが、未帰還であることを明らかにしました』
ちょっと気になるニュースを聞いた気がした。
それで迅矢は、食い入るように画面を見詰める。
だが、またすぐに画面はアニメに戻ってしまう。
『いくぞっ、トッキューソード!』
『いいぞ、ハヤテ! トドメだ!』
どうやらストレガは、こんな寝ぼけた状態でもアニメが見たいらしい。
少しイライラしながらも、再びヘリオンがリモコンを手に取る。
「ストレガ、少しは社会のニュースにも気を配ったらどうかね。嘆かわしい!」
「……俗世には興味ありません、キャバルリィ……ああ、シンカリアンが終わってしまいます」
ふらふらと立ち上がって、ストレガはどうやら直接テレビを操作するようだ。
だが、ニュース番組は
それで
テレビに屈むストレガの、形良い尻がずっと向けられているので、迅矢は思わず目を
「あ、テレビ……ええと、電源……電源は、どこでしょうか」
「まったく! 千小夜、珈琲のおかわりを。ストレガ、君も早く朝食を食べ給え。片付かなくて千小夜が困るだろう」
「……あ、うん。そう、ですね……シンカリアンは、DVDを買うので、大丈夫でした」
もぞもぞと自分の席に戻って、ご飯山盛りの茶碗を受け取る。いわゆる『
だが、どうもストレガは
半分寝てるような状態で、彼女はヒョイパクと朝食を食べ始めた。
バロンが新聞を
まるで家族のような時間が、不思議と迅矢にも心地よかった。
「さて、若いの。週末の予定はあるかね?」
「あ? なんだよ、バロン。男に言われて嬉しい
「なに、
「……マジか、それ」
不自由はない暮らしだが、この小八洲島はあまりにも
まず、コンビニがない。
ネット環境はあるが、それしかない。
夜に遊び歩く場所もなく、買い物すら限られた店しかない。
そんな迅矢に、久々の俗世での
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