第7話「貴方に翼を」
その日の夜は、
目覚まし時計を5時にセットしての、
日課として7
それも明日からだと決めたが、深い眠りが突然終わってしまった。
「っ! 携帯かよ……!?」
枕元のスマートフォンが、薄暗い中で鳴り出した。
クサハェルからの直通で、緊急の出撃要請だ。
即座に身を起こした迅矢は、手早く着替えて部屋を出る。
幽霊のバロンは
生身の迅矢は、転がるように階段を駆け下りた。
「敵か? また例の、ケースDってやつ……な、の、か? ……ありゃ?」
「あっ、おはようございますっ。出動、みたいです。今回はわたしも
階段を降りたエントランスでは、
ニコリと
千小夜は、神社の
やはり彼女もストラトストライカーズの一員なのだ。
確か、タッグネームはプリースト……
「千小夜ちゃんも、出るのか?」
「はい。わたしはヘリオンさんとコンビを組んでるんです。いつも迷惑かけっぱなしで……わたし、どんくさいから」
「あの、なんかいけすかないボウズか」
そう口にした瞬間、背後で声がした。
「いけすかなくて悪かったね、人間」
振り向くとそこには、眠そうな目を
だが、その性格はお世辞にもいいとは言えない。
会ってまだ一日しか経っていないが、迅矢の中では要注意人物だ。
「さて、千小夜。行こうか」
「は、はいっ」
「今日は上手くやるんだね。足を引っ張られると、僕もいい迷惑だ」
「がっ、頑張りますっ!」
二人はエントラスを出て、外へ。
まだまだ空は暗く、星が
急いで靴を履くと、迅矢も玄関を出る。
そこで彼は、驚きの光景に目を見開いた。
「飛ばすよ……千小夜。せいぜい振り落とされないようにするんだね」
「ひああっ! も、もぉ! ヘリオン君っ」
ヘリオンの小さな肉体が、光とともに
闇夜の中にまばゆい光芒を膨らませ……
ヘリオンは千小夜の
同時に、蹄の音も高らかに星空へと舞い上がる。
すぐ頭上から、バロンの声が降ってきた。
「なんじゃ、若いの。知らなかったのか? ヘリオンは
「みたい、だな……そっか、それで俺のことを、人間
「ま、プライドばかり高い若造だが、腕は立つ。タッグネームはキャバルリィ。プリースト、千小夜とペアで戦うストラトストライカーズの一員じゃよ」
「千小夜ちゃんも戦うのか……てっきり家事全般をやってくれる、メイドさん的な娘だと」
「あの
よく見れば、ふわふわ浮かぶバロンには足がない。
下半身がもわもわと煙のように揺れているだけだ。
「ほれ、若いの! 急がんか!」
「俺は飛べねえよ! くっそ、先に行ってくれ! 車で追いかけるっ」
「ワシのビートルを使うなら、台所に
「わーってるよ! ったく、忙しい仕事だぜ、こいつはよ!」
飛び去るバロンと別れて、迅矢は宿舎の中へ取って返そうとした。
だが、それは扉が開いて中から美しい少女が出てくるのと同時だった。
白い帽子に白い服、白亜に輝く姿はストレガだ。彼女はいつも通りの
そして、迅矢へすっと手を伸べた。
「飛びます」
「飛びます、って……う、うおおおっ! ま、待てっ! なんだこりゃ、またかよ!」
「そうです、また魔法です」
「そういうのを聞いてるんじゃねえ!」
あっという間に迅矢は、無様な格好で宙に運ばれてしまう。
ふわりと浮かぶストレガの横に、尻からぶら下がるようにして飛ばされてしまった。みっともないことこの上ないが、箒に跨ると股間が痛くなるのでなんとも言えない。
そして、ストレガはヘリオンと千小夜が飛び去った方角でもなく、バロンが向かった空港を目指すでもない……全然違う方向へと加速を始める。
「お、おいっ、
「今は作戦行動中です、ウォーロック」
「わーったよ、ストレガ。どこに向かってる?」
「洋上です。
「敵はそこか!」
「全然違います。……貴方にも、翼が必要ですから」
「俺の……翼?」
ストレガは前だけを見て進む。
横に浮かんだまま、ふと迅矢は思い出した。
あの日、巨大な
「あの時も、こうしてくれてたんだな」
「あの時、とは?」
「俺達が初めて会った日さ。なあ、ストレガ……
確かにストレガは言った。
結果的に助けた、羨ましくて見ていたと。
彼女の
「そのままの意味です。死にゆく
「なんでまた」
「私は、魔女です。魔女は死にません……絶対に、死ねないんです。そういうイキモノですから」
「……死にたいのか?」
迅矢の言葉に、ふとストレガが考え込むような素振りを見せる。
「よく、わかりません。ただ、多くの死を見過ぎました。
「不老不死、か……800歳だもんな」
「貴方はでも、
パイロットには諦めることなど許されない。
自分がベストを尽くすことで、多くの人間を救えるからだ。それで自分が助からなかったとしても、平和を
そんな迅矢の不屈の精神に、どうやらストレガはチャンスをくれたらしい。
改めて迅矢が感謝の気持ちを感じていると……洋上に大きな貨物船が見え始めた。
「予定通りですね。では……ウォーロック、貴方に翼を。……生まれなさい、翼。閉ざされた未来を
ストレガは呪文を唱えたりはしない。
だが、
そして、その中の何個かが浮かび上がる。
空中で開放されたコンテナから、無数の機械の部品が飛び出した。
それは、タクトを振るうように両手を広げたストレガの魔法で、空気を切り裂く楽器となって歌う。バラバラに分解されて運ばれてきた、それは風の楽団。その全てが必要な要素で構成された、単一の目的をもった純粋なカタチだ。
誕生の
あっという間にストレガは、無数の部品を空中で組み立てた。
迅矢はもう、驚かない。
むしろ、本当に魔法をみているのだと、奇妙な興奮を感じた。
「ウォーロック、貴方の翼です」
「こ、こいつぁ……俺にこいつで飛べと?」
「この子は一度、捨てられました。未来を奪われたのです。ですが、クサハェルが手配して、高野山を経由して今ここに……貴方の翼となって生まれ直したのです」
「……俺をコクピットまで飛ばしてくれるか?」
それは、天空へと振り上げられた剣のよう。
鮮やかなトリコロールカラーに、ステルス戦闘機特有の直線と曲線が
迅矢は、本来ここにある筈のない機体に絶句していた。
肩越しに一度だけ振り返れば、箒の上のストレガは強く
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