ずっと大好きだよ、ご主人様

 あれから、どれくらい時間が過ぎただろう?

 ボクが今いるのは、たくさんの犬や猫達が眠っている霊園。今のボクは誰かに姿を見られる事も、声を聞かせることもできないけど、意識だけはある。

 ボクはここで他の犬や猫と、毎日楽しく遊んでいるよ。ご主人様は元気にしてるかなあ?


 ご主人様は年に数回、帰省した時には必ずここに来て、今何をしているかを教えてくれる。ボクはいつもそれを楽しみにしている。

 次はいったいいつ会えるかなあ?今年はお正月とボクの命日にお参りに来てくれたけど、五月の連休は帰ってこなかったみたい。そうなると、次はお盆かな?

 今は六月。二カ月先が今から待ち遠しい。

 今日は梅雨の中休み。ポカポカといいお天気で、何となく空を見上げてみる。

 あ、蝶々が飛んでいる。そう言えば昔、ご主人様と二人で追いかけた事があったっけ。

 懐かしい出来事を思い出しながら目で追っていると、蝶々が飛んで行った先から、誰かが歩いてくる。あれ?あの人って…


「久しぶりだね、ハチミツ」


 ああっ、ご主人様だ!

 わーい、わーい。ご主人様だー!

 今日はどうしたの?長いお休みでもないよね。なぜ今帰ってきたのかは分からないけど、次会えるのは二が月先だと思っていたボクは、突然の来訪に大喜びだ。ご主人様にはボクの姿は見えないけど、尻尾を振ってお出迎えする。


「ハチミツ、今日は大事な報告があるの。この子のこと、覚えてる?」


 するとご主人様の後ろから、一人の男の子?それとも童顔の男の人?そんな人が現れる。この人、どこかで見たような気がするなあ。


「こんにちはハチミツ」


 そう言った瞬間、ボクはハッキリと思い出した。この子、いつか公園で遊んだ男の子だ。ご主人様の事を好きだって言った、とっても良い匂いのする男の子。

 思わぬ登場にビックリしていると、ご主人様が言ってくる。


「私達、結婚する事にしたの。それで、どうしてもハチミツに伝えたくて」


 結婚?ええっ、ご主人様結婚するの?相手はあの時の男の子⁉

 そっか、結婚かあ。出会ったばかりの頃は小さかったご主人様が結婚なんて、とってもとってもビックリだよ。

 ふふふ、主人様幸せそう。もう泣いていないんだね。ちゃんと前に進めているんだね。

 男の子と笑い合うご主人様を見ると、ボクは嬉しくなってきた。この子ならきっと、ご主人様を泣かせたりしない。二人で幸せになれる。だって二人は、とっても仲良しなんだから。


「ハチミツは、僕のことを認めてくれるかな?」

「大丈夫だよ。ハチミツもきっと、おめでとうって言ってくれるよ」


 もちろんだよ。二人とも、とってもとってもおめでとう。

 それから二人はボクのお墓の周りをお掃除して、花を添えてくれた。ありがとう二人とも。ボクはもう同じ時間は過ごせないけど、二人が笑う時はボクだって笑うし、嬉しい時はボクも嬉しい。ボクの心は、二人とずっと一緒だよ。

 お参りを済ませて帰る二人に向かって、ボクは大きく「わん」って鳴いてみた。すると――


「――えっ?」


 ご主人様が足を止めた。それに男の子も。

 ボクの姿は見えなくて、声も聞こえないはずなのに。二人とも振り返って、じっとボクの方を見ている。


「霞さん、今…」

「八雲くんも聞こえたの?ハチミツの声」


 どうしてボクの声が聞こえたのか、どうしてはっきりとボクのいる方に目を向けられたのかは分からない。もしかしたら神様が気を利かせてくれたのかも。


「私達、幸せになるから」

「ハチミツも見守っていてね」


 ご主人様と男の子はもう一度手を合わせた後、今度こそ帰って行く。ボクは二人の姿が見えなくなるまで、小さくなっていく背中をずっと見ていたんだ。

 声が聞こえなくても、姿が見えなくても。ボクはいつでもご主人様の事を想っているよ。

 これからも幸せにね。ずっと大好きだよ、ご主人様。



                               完

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