第9話 このエルフいい人だったのか!
目が覚めた時、一番に入ってきたものは音だった。それも激しい爆発音。
「……」
驚きすぎて声も出なかった。なんだこれ、どういう状況?
明らかにさっきまでいた場所じゃない。暗いし爆発でよく分からんが、どこかの建物であることは間違いない。
俺が立ち上がって爆発のあった方へと走りだそうとした時、
「シンティ、避けてください!」
そう叫ぶ声が聞こえたと思ったら、前方から巨大な火の玉が飛んできた。
そして次の瞬間、その火の玉が真っ二つになって弾け飛んだ。
もう何がどうなってんのか分からない。とにかく、このままここにいたら命がいくつあっても足りない。
「無事ですか?」
そして気づけば目の前にいるエール。けれど全身ボロボロで、おまけに左腕から大量に出血している。
「あ、ああ、大丈夫だ。それよりもお前は平気なのか?」
「このぐらいなんでもありません。しかし流石は魔王ですね。尋常じゃない強さです。」
どうしてかは分からないが、エールは笑っていた。いつも見せる優しい笑顔ではなく、なんというか、狂気に満ちているような笑みだった。
俺はこの時、初めてエールに恐怖を覚えた。
「あなたはそこにいてくだい、あれは私が1人で倒します!」
そういい残してエールは俺の視界から消えてしまった。
「ちょっと待ってくれ、エール!」
追いかけようとしたが、何故か足が動かない。それだけじゃなく、だんだんと意識が遠のいて行く。
消えゆく意識の中で見えたのはエールが戦う姿。その相手は黒く、巨大な何か。しかし、エールは一方的にやられている。
そこまで見えたところで、俺は完全に意識を失ってしまった。
再び目が覚めると、そこは開けた場所だった。日が高く昇り、周辺には人の気配がしない。傷が完全に治ってる所を見ると、どうやら見捨てられたりとかはしてないらしい。
てことはさっきのは夢だったのか。それにしてもやけにリアルな夢だったな。
「シンティ!」
!? ビックリした! なんでいつもいつも俺の背後から急に声をかけてくるんだよ。
「大丈夫ですか!? 丸一日以上目を覚まさないから心配したんですよ!」
えっ、そんなに? そんな長いこと眠ってたのか? いや、言われてみれば死にかけたんだしそんなもんか。
「傷はバッチリ塞がってるから問題ないよ。心配かけてごめんな」
「いえ……、無事でよかったです。でも、あんな無茶は控えてください! 今回は治せたから良いものの、下手したら本当に死んでしまったかもしれないんですよ!?」
「ご、ごめんて。悪かったよ、反省してる」
「それならいいですけど……」
どうにか許して貰えたみたいだ。ふぅ、よかったよかった。危なっかしくてやっぱり連れて行けないなんて事になったら俺はもうお終いだからな。
「あ、そういえばあの後どうなったのか聞いてもいいか?」
「そうでしたね、それについて話さないと」
「いや、それについてはワタシから話そう」
突然横から声が聞こえた。
えっ? なんだこの声、誰だ? 全く聞き覚えがないんですけど。
そんなことを考えている間に、その声の主は隣に座り込んでいた。
「まだ名乗っていなかったな。ワタシの名前はメイビス、メイビス・エレフォルク。見ての通り
ああ、なるほど、あのエルフか。随分と声色が違うから全く気が付かなかったな。それにしても、改めて見るとすっげー美人。エールとはまた違った感じの可愛さというか、大人びているというか。
「先日は本当にすまなかった。操られていたとはいえあんな目に合わせてしまって、謝って許されるような事ではない事は分かっている。けど、本当にすまない……」
そう言って、深々と頭を下げるエルフ。…なんかデジャブった。つい最近こんな感じのやり取りをしたような気がする。
「い、いや、別にそんな事気にしなくていいよ。それに、あの時は操られてたんだから、しょうがない事なんだし」
「しかし、このままお咎めなしだとワタシが納得行いかない」
えぇー、またかよ! ったく、どいつもこいつも。なんで俺の周辺の人は皆頭が固いんだか。
うーん、どうしたもんか……。デコピンで押しきれなさそうな相手だし、誤魔化しが効くような相手でもないしな。
……なんか申し訳ないから出来れば『これ』は避けたかったんだけどな。
「じゃあ、罰というか、許す代わりに1つ条件がある。」
「どんな?」
「俺達の旅に同行してくれ」
「ちょ、シンティ、それは――」
「いや、いい」
何かを言おうとしたエールの言葉を遮って、エルフが言った。
「君が眠っている間に彼女から色々と聞いたよ。魔王を討伐するために旅をしているんだろう? だったら断る理由はないな」
「え?」
「何を驚いている、君達の目的は魔王を討伐すること、ワタシの目的は私を操っていた魔王軍の幹部を倒すことだ。目的は同じようなものだ。それに、もう私は君について行くって決めたからな」
「な、なるほど……」
ま、まさかの普通にOKだとは思わなかった……。まあでも、願ったり叶ったりだ。あのエールとほぼ互角に戦えるような強力な助っ人だ。絶対にいた方がいい。
「それじゃあよろしく頼むよ。エレフォルクさん」
「メイビス」
「え?」
「私のことはメイビスって呼んでくれ。いや、どうかそう呼んで欲しい」
そう言って、彼女は微笑んだ。
なんか前にもこんなことがあったような……、まあいいか。
「分かったよ。それじゃあこれからよろしくメイビス」
旅を再開する前に1つ分かったことがある。
それは何かって?
最初に会った時との印象の差がすごいからそう思うのかもしれないけど、このエルフ、めっちゃいい人なんだよ!
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