第7話 エルフって怖ぇ!

 今になって思い返せば、あの子が妖精種エルフだと気づくことは出来たはずだ。俺たちのことを度々「人間」と呼び、人間離れしたエールと互角に戦えるほどの強さ。

 ついでに言えば、結構美人。やはり、エルフ美人説は正しいのではないだろうか。もはや、美人じゃないエルフというのはこの世にいないのでは?

 ……って、こんな事考えてる場合じゃねえ!


「シンティ、逃げて下さい」


「は?いやいや、何言ってんの?女ひとり残して逃げられる分けないだろ!」


「彼女はエルフですよ!あなたにはまだ荷が重すぎます!」


「なら、尚更なおさら俺だけ逃げるわけには行かねえだろ」


「今回ばかりは私の言うことを聞いて下さい! 飛龍とはわけが違ます!」


 なんで今回に限ってこんなに頑固なんだよ。エルフってのがどのくらい強いのか知らないけど、2対1だぞ。俺が大した戦力になるとは思わないが、囮くらいにはなれるし、負ける要素が――


「危ない!!」


「え?」


 突然、目の前にエールが飛び出してきた。そしてその瞬間、エールの背中から血が噴き出した。真後ろにいた俺の体にその血がかかったが、正直何が起きてるのか全く理解出来てない。

 エールは力なくその場に倒れた。倒れたエールの方を見ると、その体、それも心臓部に1本の矢が刺さっている。

 もし、エールがいなかったら、今俺がこうなっていた? というかなんで俺の事なんて庇ったんだ?

 そんな事を考えてると、今度は俺の頬を猛スピードで掠めた。後ろから物凄い音がしたから、振り返って見ると、直径50センチはある木がへし折れていた。今は頬を掠った程度だったけど、こんなのまともに食らったら……。

 それを想像したら、全身から血の気が引いた。


「ふむ、外したか。やはり目が見えないと精度が落ちるものだな」


 目が見えてなくてこれかよ。無理だよ、こんなの、勝てるわけが無い。

 俺は、森へ向かって全速力で逃げた。死ぬのが怖くなって逃げ出した。

 あのエルフから少しでも遠くへ、瞬間加速アクセルモーメントを何度も使って、少なくとも10分以上は走った。もうここがどこだか分からないけど、いくらエルフでも、ここまでくれば流石に追って来れないだろ。

 それに、もう足が限界だ。さっきからずっと活性化オートリペアを使っているけど、全然治らない。

 そういえば、あの場にエールを置いてきてしまった。ごめんエール、許してくれ。でも、エールですら一撃で死んじゃうような相手にどうやったって勝てるわけないだろ。


『いえ、あの状況で逃げ出したのは良い判断です。別に私はあなたを責めたりはしませんよ』


「ほら、エールだって許してくれてるじゃないか……え? えぇぇぇぇぇぇ!?」


『静かにして下さい。あのエルフに気づかれてしまいます』


「え、ちょ、なんで? なんでエールの声が聞こえるの? だってエールは死んだはず……」


『勝手に殺さないで下さい! 私は生きています。今はテレパシーであなたの脳内に直接声を送っています』


 そうか、テレパシーか、それなら声を出さなくても聞こえてるか。


『あの怪我でどうやって生き延びたんだ?』


『私は常に回復魔法がかかってる状態なので、あなたが逃げた時には、もうほとんど治ってましたよ』


『まじかよ……、じゃあなんですぐに追いついてくれなかったんだよ』


『あのエルフが私を死んだと思い込んでるので、せっかくだからそれを利用させて貰いました。それに、あなたも気づくのが遅いです。逃げ出してからずっとテレパシーを送っていたのに、全然気づいてくれなかったじゃないですか』


『いや、そんな事言われても、あの時は頭の中がごっちゃになってて……。というか、俺はこれからどうすればいいんだ?』


『そうでした。いいですか、よく聞いて下さい。今あなたがいるのはあの広場の少し北です。あの広場にはここと繋がる転移門ゲートがあります。まずはここに来てください』


『OK、分かった。すぐに行く』


『では、一旦テレパシーを切ります』


 エールの声が聞こえなくなった。えっと、まずはあの広場に行くんだっけ? よし、じゃあ早速行こう。もう足の痛みも無くなったし。

 俺は立って再び走り出す。


 ほんとに直ぐ近くだったな。走って1分程度で着いたぞ。そういえば、聞いてなかったけど、転移門ゲートってなんだ?

 当たりを見回してると、一際ひとぎわ明るい所があった。走ってその近くまで行った時、俺は確信した。


「うん、100%これだ」


 地面に描かれた赤い色の六芒星の魔法陣、中心には鷹のようなマークが描かれてある。すごい怪しい。


「のんびりしてる場合じゃない、あのエルフに見つからない内に、早く行かないと」


「誰に見つからないって?」


「!!?」






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