第5話 勇者強すぎるし、俺は前途多難だし、こんなんで大丈夫かよ!
もう目が疲れてきた。それに、なんだか眠い。やばい、もう限界。
俺はそのまま目を閉じた。
その時――
「シンティ!!!!」
その声と共に俺は目を覚ます。今の声、エールか? けどなんで? 気絶してたはずなのに。気づいた時には、エールは俺の視界に入っていた。
あ、そうか。そういえばかなりの時間が経っていたな。それにあれだけ派手に暴れまくったらそりゃ目も覚めるわ。
彼女は持っていた剣を飛竜の顔に突き刺す。飛竜は鈍い声を出して後ろにのけ反る。そしたらエールはこっちを向いて、俺の元に来た。
「本当に申し訳ありません……、大丈夫ですか?」
とても優しい声、でもどこか震えている。顔もとても泣きそうになっている。
俺は
「大丈夫だ、俺のことは心配しなくていい。だから、あの飛竜は任せてもいいか?」
「っ……!はい、任せて下さい!」
彼女は安心したのか、微笑んでそう言った。やっぱり、笑っている顔が一番綺麗だし、可愛いな。
エールは立ち上がり、右手を前に出した。
「アスカロン!」
彼女がそう言った時、右手に赤い魔法陣のようなものが現れ、そこから一本の槍を取り出した。なんというか、めちゃめちゃ
俺がそんな事を思っていると、視界から一瞬でエールがいなくなった。そして、飛竜のすぐ隣にまで近づいていた。
「足速すぎんだろ!?」
飛龍はエールに勢いよく噛み付いた。
が、エールはそれをあっさり避け、飛竜の首元にカウンターで突き刺した。
槍が
飛竜はその場に倒れ、ピクリとも動かなくなってしまった。
「い、一撃……」
強すぎる。俺があれだけ苦労しても倒せなかった飛竜をたった一撃で倒すなんて、これが勇者の強さなのか。
「お待たせしました」
そうこう考えているうちにエールが戻って来ていた。どうやったのか、さっきまでついていた血がキレイさっぱり無くなっている。
ところが、俺の隣にまで来たエールが急に膝をついて、崩れてしまった。
「お、おい!? エール、大丈夫か!?」
「……うぅ、うわぁぁぁぁぁん!!」
「!!?」
突然のこと過ぎて何がなんだか分からない。ただ一つ分かることは、俺は今、エールに抱きつかれているという謎の状況に置かれているということだけだ。
嬉しさと、恥ずかしさが入り交じって何とも言えない気分になる。というか、今俺の心臓バクバクいってる。やばい、超緊張する。
「お、落ち着けって」
俺はとりあえず、エールの肩を掴んで引き離そうとした。が、彼女の力が強すぎて、ピクリとも動かない。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「なんで謝るんだよ、お前は何も悪いことはしてないぞ」
「だって、私のせいであなたがとても危険な目にあってしまって……」
「何言ってんだよ! あれは俺が勝手にやった事だから、お前が責任を感じる必要なんて全くないんだよ!」
「でも、でも……」
「あーもう、融通が効かないな! ほら、この通り俺の傷は完全に治ったんだよ! もうこれ以上気に病むことなんてないんだよ、分かったか?」
「それでも、あなたがそんな目にあったのは私の力不足や、注意不足が原因です」
「それを言うなら、俺は自分の力不足で死にそうになったし、自分の注意不足のせいでお前が飛竜の攻撃を食らってしまったんだから、謝らなきゃいけないのは俺の方なんだよ」
「……でも、私には罰が与えられなきゃダメなんです」
ほんとに強情なんだから…全く、どうすれば諦めてくれるんだ。
というかさっきから、当たってるんだけど…柔らかいな〜、これはこれでもうこのままでもいいんじゃないか?
…っは!いやいや、ダメにきまってるだろ。命の恩人に対して
俺は頭をブンブン振って煩悩を取り払う。
……あ、そうだ良いこと思いついた。
「分かった。じゃあ俺がお前に罰を与える。だから、これでチャラな」
やっと力を緩めてくれたので、エールを体から引き剥がす。
「はい、お願いします……」
そう言ってエールは目を閉じる。どうやら覚悟を決めたみたいだ。
俺は
「「痛!?」」
お互いの声が揃う。
いや、エール頑丈すぎるんですけど。流石俺の33倍の防御力。
「あの、これは一体……?」
「ん? いやもう罰は終わったんだけど、何? まだなんかあるの?」
「いえ……、けどこれで終わりというのは……」
「いいんだよ。俺がそれで全部許すと言ったんだから。とにかくこれで万事解決な」
俺は微笑んで、立ち上がって再び寝る準備をするために、先程の広場へ向かって歩き出す。
「……」
少しだけ後ろを振り返ってエールを見ると、彼女は納得いっていない様子で座り込んでいる。
とにかく、これで今後の課題が見えたな。とりあえず、俺自身がもっと強くならないと、エールを守れるくらい。
エールだって、ほんとに無敵ってわけじゃないんだ。今回みたいになることがきっとまたあるんだ。
強くなろうとか言ったけど……うん、今日はもう無理。明日から頑張ろう。
「あー疲れた、寝るぞー!」
自覚はないが、かなり疲れていたのだろう。テントに入ってすぐ、俺は寝入ってしまった。
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