第3話 異世界に来てまで死にたくねえ!

 ―――町から出て一体どのぐらいの時間が経ったのだろうか。俺は今、森の中を真っ直ぐ、ひたすら歩いている。


「どうしてこうなった?」


 ――数時間前――


 町の外に広がっていた世界、それは―――普通の森だった。俺んちの近所の裏山みたいな感じの普通の森。

 いやいや、待て待て、おかしいだろ。普通はこういう異世界ファンタジーとかって町の外には、強そうな魔物がいたり、見たこともない植物や地形、迷宮ダンジョンとかで溢れているものだろう?


「何しているんですか?行きますよ」


「え?行くって何処に?」


「ここから、北に50kmほど離れた場所に、魔物に襲われた村があるそうなので、そこへいこうかと」


「ご、50キロ……。じゃあもう今すぐ出発しようぜ」


「はい。では、ついてきてください」


「お、おうよ」


 実は結構ドキドキしている。やっぱり見た目は普通の森でも中にはモンスターとかがいたり、未知の植物を見つけたりできるかもしれないだろ。

 そんなことを考えながら、俺は森の中へと足を向けるのだった。


 ―――そして、現在―――


 ――何にもない。恐ろしいモンスターも何もいない。行けども行けども普通の森。クソが、ほんのちょっとでも期待した俺の気持ちを返せ。


「今日はここで野宿することにしましょう」


 気づけば俺は、少し広めの空間に出ていた。というか、辺りがもう薄暗い。


「野宿って言ったって、こんな拓けたところ、もし魔物とかに集団で見つかったら一巻の終わりじゃないか?」


「その点については大丈夫です。私が周辺の森の木に結界を張ったので」


 結界とか張れちゃうんだ、スゲー。てか、俺って何が出来るの? 自分のこと全く知らないじゃないか。


「シンティ、テントを張ってください」


「ヘーイ」


 まずは準備をしないとな。早くしないと、飯抜きとかになりそうだから。

 とりあえず勘でやってみたけど、案外上手く行くもんだな。


「食事にしましょう」


 ああ、やっとか。今日一日ずっと歩いたせいでもうヘトヘトだ。

 飯を食べながら、俺は先ほどの疑問を彼女にしてみる。


「なあ、俺って何が出来るの?」


「……そういえば言い忘れてましたね。これを見てください」


 そう言って彼女が渡してきたのは、一枚のカードだった。


「これはギルドカードと言って、ギルドに加入している人全員に配られその人のステータスが記録されています」


 なるほど、これを見れば彼女のステータスとやらが分かるのか。

 俺は彼女のギルドカードに目を通す。そこにはこう記されていた。


 名前 ミスラ・エール

 性別 FEMALE

 職業 勇者

 RANK 12

 ステータス値

 力 3474

 身の守り 2952

 素早さ 4751

 魔力 2336

 魔法防御力 3611

 習得スキル数 86

 習得魔法数 104

 適正魔法属性 火 水 風 雷 土 闇 光

 固有スキル・魔法数 42(スキル18 魔法24)


 ……もはやすごいのかどうか分からない。そうだ、俺のステータスも見てみないと。勇者と一緒に冒険しているぐらいだから、俺もそれなりに強い、と信じたい。


 名前 ダイ・シンティ

 性別 MALE

 職業 村人(商人)

 RANK 3

 ステータス値

 力 105

 身の守り 89

 素早さ 214

 魔力 92

 魔法防御力 127

 習得スキル数 5

 習得魔法数 3

 適正魔法属性 闇

 固有スキル・魔法数 0


「……ゴミじゃねえかぁぁぁぁ!」


 え、弱っ、勇者のパートナー、弱っ! こんなんでいいのか勇者のパーティ。

 俺が肩をガックリ落としていると、エールが話しかけてきた。


「あ、あの、そのカードのステータスはギルドに行かないと更新出来ないので、あくまでもそれは2年前のステータスなんです。だから、元気出してください」


 ああ、すごい必死にフォローしてくれて、なんて優しんだ。俺みたいな奴に対して。やばい、自分で言ってて涙が……。

 まあ、せっかくフォローしてくれたんだから、感謝しておこう。


「ありがとう、でも大丈夫だから。じゃあ、俺はもう寝るね」


 そう言って俺が寝ようとして、テントの中に入った瞬間――――


 ドッッガァァァァァァン!!


「!? なんだ、今の!?」


 鼓膜が破れるかと思うほどの、爆音が俺の耳を襲う。ヤバイ、今ので音が何にも聞こえない。ハッ、そうだ、外のエールは無事だろうか。

 急いでテントから出ると、そこには、剣を構えるエールがいた。


「危険です、中にいて下さい!」


 何かしゃべっていたようだが、今の俺には何も聞こえなかった。ただ、エールが俺の上を見上げているので、俺もその方向を見てみる。俺の後ろにいたそれを見て、俺は大声で叫ぶ。


「な、なんじゃぁぁぁありゃぁぁぁ!?」

 俺の後ろにいたやつ、それは、赤い鱗と翼がある、ドラゴンだった。カッコいい、ってかこれあれじゃん、リオ〇ウスだろ、もう完全に。

 俺が、リオ〇ウスを見て呆気にとられていると、体が急に後ろに引っ張られた。どうやらエールに服の襟を引っ張られたみたいだ。


「ちょ、苦しい、離して!」


「何ボケッとしているんですか! 死んでしまいますよ!」


 あれ、声が聞こえるようになってる。というか、死ぬとか、大げさすぎでしょ。俺まだ、攻撃すらされてないのに。

 俺が視線を元いた場所に向けると、そこには、大きな穴が出来ていて、炎が燃え盛っていた。

「あのー、ちなみに、俺があそこにいたら今ごろは……」


「木っ端微塵でしたね」


「あ、危ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! まじで、助かった、ありがとうございます!」


「感謝ばかりしていないで、あなたも構えてください、次が来ます」


 俺は、焦って自分の剣を構えた。今思ったが、剣って以外と軽いもんだなぁ。あ、そうだそういえば、


「あれ、何?」


「見ての通り飛竜です。でも、あれはまだ子供のですが」


「あれで子供とか冗談キツイぞ」


 俺が苦笑いしていると、上にいた飛竜がこっちに突っ込んで来た―――けど、飛竜は途中で止まってしまった。俺が、目を凝らして見てみると飛竜は何かに阻まれていた。


「ふう、なんとか間に合いましたね。まさか、飛竜が来るとは思いませんでしたから。けど、もう大丈夫です」


 そういえば、彼女は結界を張れるんだったっけ。それにしても、死ぬかと思ったぞ。全く、脅かしやがって。


「あとは、飛竜が無事解決です」


 俺が、飛竜のいるところを見ると、飛竜は結界に何回も、何回もタックルをしていた。おいおい、あれで結界割れたりしないよね……。

 ―――ビシッ、バキバキ、そんな音が聞こえ始めた。


「まずいです、結界が割れます!」


 バリィィィン!


「え、ちょ、ふざけんじゃねぇぇぇぇぇ!」


 結界を派手に割ったくせに、勢いが全く衰えてない飛竜が、今度こそ突っ込んで来た。


「危ない!」


 そんな声と共に、エールが俺を横に飛ばした。


「いてて、また助けられちまったな」


 俺が彼女の方に目を向けると、頭から血を流して倒れているエールがいた。俺は急いで彼女のところへと駆ける。


「おい、大丈夫か、しっかりしろ!」


 返事がない。生きてはいるが、どうやら気を失っているみたいだ。


「くそ、最悪すぎるぞ」


 そんな俺のことなんてお構い無しに飛竜がこっちに走って来る。俺は、エールを担いで全力で逃げる。


「うぉぉぉぉ! こっち来んなぁぁぁぁ!」


 ヤ、ヤバイ!このままじゃすぐに追い付かれる。何とかしてエールだけでも安全な場所に避難させていきたい。しょうがない、こうなったら、最終手段だ。


「ごめん!」


 俺はエールを近くの茂みに放り投げる。これで、エールは多分大丈夫だろ。問題は、俺がどうやって生き残るかなんだけどな……くそ、何か使える技とか魔法とかないのかよ。俺は森の中に隠れて、自分のギルドカードをもう一度よく確認する。


 習得スキル数 5

 習得魔法数 3


 やっぱり弱い。こんなんじゃ勝てるわけがない。いや、待てよ。俺ってば結局何が出来るのか知らないじゃん。詳細を教えろ詳細を。

 俺がステータスの項目を押すと、カードの文字が変わった。


 習得スキル

 ・瞬間加速アクセルモーメント

 ・活性化オートリペア

 ・硬化ハーディング

 ・超感覚シャープセンス

 ・声移しコピーボイス


 習得魔法

 ・闇霧グラビティミスト

 ・悪夢ナイトメア

 ・黒世界ノット・ワールド


 な、なんか強そうだな。というか、技とか魔法の使い方が一切分からんのだが、それにどんな能力なのかもわからん。スキルの方は見当がつくが魔法がよく分からない。俺が適当にタップしていたら更なる詳細が出てきた。


 ・闇霧グラビティミスト

 黒い霧を発生させ、触れた物の重力を二倍にする。 消費魔力 18


 ・悪夢ナイトメア

 当たった者を強制的に眠らせて、悪夢を見せる。ただし、強い精神力を持つものには効果がない。 消費魔力 30



 ・黒世界ノットワールド

 一定の範囲の空間から遮断される。

 消費魔力 全部(魔力量によって範囲や時間が変わる)


 ただの村人にしては強くね? けど、デバフ系ばっか。しかも魔力が90程度の俺からしたらあまり行使はできない。

 そういえば、この声移しコピーボイスってどんな技なんだ。


 ・声移しコピーボイス

 一度聞いた声をそっくりコピーする。


 へー、案外役に立ちそうだな。 よし、ここはしっかりと作戦を立ててから行くべきだな。



 ――――2分後――――


 よし出来た。完璧な作戦だ、これで勝つる。

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