第2話 美少女勇者と旅立ちます!
「ちくしょおぉぉぉぉぉ! 異世界転生なんて冗談じゃねぇ! 俺はもう二度とゲームが出来ねえのかよ!」
本気で涙を流して泣いている俺。それをあわてた様子で見ている美少女。なんだこのカオスな構図は。
「お、落ち着いてください!」
必死に俺をなだめる美少女の目はどこか俺を憐れんでいるような目だった。やめてくれ! そんな風に俺を見ないでくれ、頼む。そういう視線は慣れていないんだ。
当然だろう、今まで俺を忌避するような視線を浴びてきたんだ。だからそういう視線は違う意味で心に刺さるんだ。
「す、すいません!」
俺は彼女に、首筋をチョップされていた。ヤバい、意識が朦朧とする。バトル漫画かよ、と思いつつそのまますぐに俺は気を失った。
目が覚めたら、俺はまたベッドの上にいた。
「あっ、目が覚めたんですね。よかった」
声がする方へ目を向けると、先程の美少女がまたもや心配そうな視線を向けている。
俺は不覚にもドキッとしてしまった。くそ、どんな顔していても可愛いな。
「大丈夫ですか?」
「え? ああ、うん、大丈夫だよ」
緊張のせいか声が上ずってしまう。俺は深呼吸をして自分を落ち着かせる。
さて、どうしたもんか。女の子と話した経験がほとんどない俺にはどうすればいいのかさっぱり分からん。
取り敢えずこの世界の事について色々聞きたいんだけど、この子知り合いっぽいし、いきなり知り合いから変な質問されたら超不自然だよな。
……ここで俺はひとつの作戦を思いついた。
「どうかしたんですか?」
「いや、なんでもないよ。ただひとつだけ質問してもいいか?」
「はい、どうぞ」
「君は誰?」
「えっ? ……じょ、冗談ですよね?」
「いや冗談とかじゃなく本気なんだけど」
「本当に?」
俺は首を縦に振った。
「そんなぁ!?」
これが俺の作戦である。どうやら上手くいったみたいだ。ちなみに俺の作戦を分かりやすくまとめるとこんな感じだ。
1. 向こうは俺を知っている。俺は向こうどころかこの世界の事を何も知らない。
2. だったら記憶喪失を装って聞き出せばいいじゃないですか!
天才的な発想だ。彼女には悪いが俺の情報源になって貰おう。
「何にも覚えてないんですか!?」
「何にも」
「一緒に冒険したことも?」
「全然全くこれっぽっちも」
彼女が泣きそうな顔でこちら見てくる。心が痛い。正直、罪悪感に押しつぶされそうだ。けど許してくれ、俺が異世界で生き残るためには必要なことなんだ。
……よし作戦続行だ。
「えーと、それで君は誰なんだ?」
まずは名前から聞き出す。それにしても究極のコミュ症であるはずの俺が人の名前をこんなにあっさりと聞けるとは、暇つぶし程度にだけど俺がギャルゲーをやってて本当に良かった。まさか、異世界で役に立つとは思ってなかったが……。
「……分かりました」
ようやく落ち着いてくれた。まだ目尻に涙が溜まっているが、まあこの際気にしないでおこう…。
「私の名前はエール、ミスラ・エールです」
「エール、か……」
なんというか、神様っぽい名前だなぁ。というかどっかの神話でエールって神様のことじゃなかったっけ。
ゲームばかりやっていると、そんな余計な知識ばかりが身に付いてしまう。
「 何か思い出しましたか?」
「いや、全く」
「そうですか……。あ、じゃあ次は私たちのことを色々と話しますね 」
おお、それはとてもありがたい、是非とも話してもらおうじゃないか。
「それじゃあよろしく頼む」
「まず、私は2年ほど前から勇者をしています。私とあなたはその頃出会い、今は二人でパーティーを組んで、王都でギルドに加入しています」
「ちょっと待て。俺ってただの村人じゃないの?」
「一応その通りですけど、それには訳があるのですが、今話すのはやめておきましょう」
「な、なるほど? まあ分かった」
「話を戻します。私たちはある目的のために冒険をしています。それは、魔王を討伐することです」
うん、知ってた。こういうファンタジー系の異世界転生って大体は魔王討伐しなきゃならないんだよな。もはや定番だな。ほら、こ〇すばとかだってそうだったし。
しかし、よくある展開と言ってもそれを実際に体験するとなると絶望感半端ねえな。こんな夢も希望も無い世界で、ハーレム作ってハッピーライフ送ってる主人公共の気が知れない。
「……なるほど、大体分かった。じゃあ次は今の状況について聞いてもいいか?」
「はい、どうぞ。何なりとお聞きください」
「まず、ここはどこなのかと、この世界のことが知りたい」
「ここはビルンという町の宿屋です。それとこの世界についてですが、一言で言えば魔王軍との戦争中です」
戦争とは、これまた物騒なワードが出てきたな。まあ、途中からなんとなくは予想していたけど。
「OK、大体分かった」
「それと一つ言わないといけないのですが、あなたはこの街に残ってもらいます」
「えっ?」
「当然でしょう、今あなたは記憶喪失なんですよ、危なすぎるじゃないですか」
確かに、ど正論だな。俺は完全なる役立たずの足手まといだし、正直言って魔王と戦うなんてまっぴら御免だし、これはこの状況を利用してここに残る方が得策だ。
「分かった、俺はここに残――」
俺が残ると言おうとしたとき、彼女の顔を見てしまった。その顔はとってもつらそうで、必死に涙をこらえているのが伝わってくるほど悲しそうな顔をしていた。さっきとは違う痛みが心にささる。
……全く、我ながらお人好しなんだなぁ。
その顔を見るのが辛かったから、俺はこう口にしてしまうのだった。
「残るわけないだろ。もちろん俺は行くぞ、君と一緒に」
「え、ちょ、何言ってるんですか!? 私の話ちゃんと聞いていましたか!?」
「聞いていたさ、でも、知ったことじゃねえ。なにがなんでも、俺は君と一緒に冒険がしたいんだよ!」
「シンティ……」
部屋の中が静寂に包まれる。お願い、黙らないで。
というか、よくこんな恥ずかしい台詞を言えたもんだ。俺の黒歴史ランキングでもトップに残りそうだ。でもまあ、しょうがないだろ。
「いやいや、ダメですよ! この世界はとっても危険なんですから!」
口調は怒っているようだけど、心なしか顔が嬉しそうだ。俺はこんな風に、喜んだ顔が見れたからもう満足。
「んなこことは、百も承知だよ。それに、もし俺が危険な目に会ったら助けてくれるんだろ、勇者様」
「それは、そうですけど……分かりました。旅の同行を許可します。ただし一つだけ、危なくなったらすぐに助けを求めてください、いいですね」
「了解した。じゃあそうと決まれば、早速行きますか」
そう言って俺は彼女を部屋から出させて支度を始める。
……これでよかったんだよな。別に後悔している訳じゃないが、やっぱり怖いものは怖い。やっぱり残るべきだったか? いやいや、もうやるって決めたんだ。頑張らないとな。
そうこうしているうちに着替えが終わった。……なんか、グ〇ブルのグ〇ンみたいな装備だな。俺は部屋にあった鏡を見て、目を見開いた。普通、異世界転生って見た目が変わるものなのに、何にも変わってない。
「おいおい、マジかよ……」
確かに俺は神様とキャラメイクしてないけど、何にも変わってないって酷くないか?
まぁ金髪でも不良と思われないってところが唯一この見た目で異世界に来た利点だな。
俺がそんなことを考えていると急にドアをノックする音が聞こえた。
「準備ができましたか?」
うわっ、ビックリした。急に話しかけないでよ。
「大丈夫だ、問題ない」
いっぺん言ってみたかったこの台詞。人と話さないから言えなかったんだよな……。
「入りますよ」
そう言って部屋に入ってきた彼女も装備をつけていた。なんか、ゼ〇ダの伝説の英傑の装備みたいでカッコいいし、素が可愛い子は、何着ても可愛いな~。
「よし、じゃあ行くか、勇者様」
「はい」
俺たちは宿屋を出た。町の中はずいぶんと活気がある。とても魔王に脅かされてるとは思えない。
俺たちは町の大通りを歩き、町の門に着く。途中、色々な店を見たが、文字が読めないので全部無視してきた。
「準備は出来ていますか、シンティ?」
「バッチリ、多分、おそらく平気」
「だんだん自信をなくさないで下さい」
「お、おう大丈夫だ、よっしゃ行くか。勇者様」
「言い忘れてましたが私のことはエールと呼んでください」
「分かったよ、エール。それじゃあ、これからよろしく頼む」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
緊張と、不安と、興奮でとてもドキドキしている。ここから、俺の冒険譚が幕を開けるのか。俺は、大きく深呼吸をして扉の前に立ち、両手で力いっぱい開くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます