02.ゲーム開始

 驚いた。

 余りにもリアルな感覚に、間違えたか誤作動でダイブアウトしたのかと思った。

 それほどまでに圧倒的な情報の量だった。



 しかしそれも一瞬だった。

 明らかに現実ではありえない真っ白な空間に立っている。

 これは既にゲームの中の世界だ。

 だというのに現実の自身の体と遜色ない感覚を脳が感じている。

 これは当たりのゲームを引いたかも知れない。



 目の前には《ようこそエクスパンド・エボルブ・オンラインへ》の文字。



「わ!!!」



「!!!」



 いきなり後ろから声をかけられてびっくりした。

 あわてて後ろを振り返ると肩ほどまでの金髪を持った若干アニメ風の欧米美人な女性が笑顔でいる。

 NPCか?

 ゲーム開始直後にキャラクタークリエイトやチュートリアルもなしに始めるわけがない。

 とするとチュートリアル用のNPCだろう。



「驚きました? 私このゲームのチュートリアルや、ゲーム内で起こった問題等での対応をさせて頂きます。AIのアリスと申します。ようこそエクスパンド・エボルブ・オンラインの世界へ。」



 いたずらが成功したからだろう、笑顔で自己紹介された。

 目の前の文字に注目させておいていきなり後ろからはないと思う。

 単純なだけに危なくはないが初めての相手に対してこれはいいのか?

 心臓に悪いぞ運営。



 しかし驚いた。いや、ドッキリの方にではない。そんなものはとっくに収まっている。

 驚いたのはNPC、アリスだったな、の表情や行動の豊かさである。

 なんというか自然なのだ。それにただのAIだったらわざわざ驚かしたりはしないだろう。

 恐らく彼女はいたずらが好きな性格・・なのだろう。

 ほかのゲームではこんなAI見たことないぞ。

 流石に昔あったような同じことを繰り返すことしかしないということはないが、せいぜいがいくつかの行動パターンと会話、表情、あとは決まったクエスト用の固定のスムーズな動きをプレイヤーに対して柔軟に行うくらいである。

 もしかするとアリスもそれが多少スムーズになっただけかもしれないが、それだけではない気がする。



「どうかされました?」



 しばらく考え事をしていたせいだろう。アリスが心配して尋ねてくる。



「ああいや、随分と個性的だなって……」



 すると言葉の意味を察した・・・のか納得の表情を浮かべた。



「そうでした。初めてお会いする方々は驚かれるかもしれませんね」



「私たちには高性能なAIが利用されていますので通常の人々とほとんど同じ様に思考することが出来るようになっています」



「よろしければ、このゲームでは私達のことを通常の人々と同じように接していただくようにお願いいたします」



 アリスは笑顔でそう言うと手を胸の前に持って行き丁寧にお辞儀をする。



 おそらく『私達』にはこのゲームに登場する全てのNPCが含まれているのだろう。

 これだけ丁寧に言われると断れる人はいないんじゃないだろうか。

 まあ、もっとも自分はこの時点でこのゲームのNPCに対して、いや、この人達に対しては現実と同じように対応しようと思っている。

 なにより、そのほうが面白そうだ。

 

 

「丁寧にありがとうございます。分かりました。そうします。そちらの方が楽しめるでしょうし」



「これからよろしくお願いします」



 彼女の前に手を出して挨拶をする。

 これからチュートリアルをやるわけだし、プレイ中に合うこともあるかもしれない。挨拶はしておこう。



 返事を返すと彼女はこちらの対応に満足したのか笑顔で手を握り返してくれた。



「はい、よろしくお願いします」



 そもそもNPCに見えないから変なことにはならないとは思うが良好な関係でいられるように気を付けよう。

 ああ、きちんとした挨拶って気持ちいい。

 すべすべの手もきもちいい。

 ゲフンゲフン。

 何もやましい気持ちはない。

 美人さんから手を握られたからって浮かれてなんかいない。

 いないったらいない。



「・・・・・・」



 いかんいかん折角仲良くなれたのに変に思われたくないぞ。

 なんか気づかれている気もするが気にしないようにしよう。



「それでは早速ですが、このゲームについて説明させていただきます。もし説明の中で分からないことがあればお気軽にお聞き下さい」



 彼女も気を使ってくれたのかそのままスルーしてくれたようだ。

 その気遣いが目にしみる。



「お願いします」

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