5『第4相ダイジェスト』

甲「さて、ダイジェストも後半戦だ。今日も張り切って行こう」

乙「あれ、今日はダラダラ前口上しないんですね」

甲「愚痴は山ほどあるんだけどねぇ……今回はダイジェストの中で一番長いとこを解説しなきゃならないんだ。あんまり無駄に文字数を割きたくないんだよ」

乙「確かに、それに加えて展開も早いですからね」

甲「という訳で始めるよ。しっかり付いて来てねー」





Q1 この相はどんな展開が起こる?


乙「前相のラストはかなり急展開でしたね」

甲「ああ。幾度も悪夢で彷徨った廃屋で目を覚ました石井は、姿の見えない誰かの声に操られるままに、『なにか』を捕らえる事になる」

乙「自由の効かない体で、しかし迷いのない動きで月明かりの下に引きずり出したのは……同僚である鏑木でした」

甲「驚愕によって体の主導権を取り戻した彼だったが、それで状況が良くなるとは限らない。その一瞬の隙を突いた鏑木は、石井の拘束を振り払う」

乙「揉み合いになる2人の前に現れたのは『声』の片割れ。その正体が三吾美恵だったことを知り、石井の混乱はさらに深まってしまいます」

甲「だが同時に、彼女にとっても石井の意識が戻っている事は計算外だった。名を呼ばれ混乱する彼女を尻目に、鏑木はビルから飛び降りる」

乙「彼を追った先の公園で、石井は己の想像を超えた真実と向き合うことになるのです」

甲「週刊誌で見かけたゴシップ……ふたりして居酒屋でニュースを見たH市バラバラ殺人。その実行犯が鏑木であること」

乙「プロローグA『死線越境午前2時』の真相ですね」

甲「そして、自分たちに投与された薬の持つ、ふたつの顔」

乙「彼の悪夢、そして鏑木の凶行は全て、薬によって意思を支配された事で起きたものでした。更にもう一側面を明かそうとする鏑木でしたが――」

甲「追いつかれた三吾によって、その口を封じられてしまう」

乙「それもただ殺されるだけではく、薬を与えられ続けた者の末路を石井に見せつけながら、彼は最期を迎えるのです」

甲「そして静寂の戻った公園に、またひとつ影が現れる……インカム越しに石井を操っていたその人物こそ、彼の主治医である藤沢芳也。更に連れて行かれた先で待っていたのはBE=SANGO社長、三吾啓示だった」

乙「彼らによって明かされたのは、命を再びこの世に呼び戻すというもう一つの薬の効能――石井は彼らの勝手な都合で、知らない間に第1の被検体としてその体を使われていた事を知らされます」

甲「物語は彼の日常が崩れるより遥か以前から始まっていた、ということだ……しかしまだ3分の1も追いかけられてないのか。やはりこの相は長くなってしまうね」

乙「ええ。詰め込み過ぎたら読む方も疲れるでしょうから、ここらで一度間を置きましょう」





 ※     ※     ※





甲「……どう考えても3000文字で収まらないな。少しペース上げようか」

乙「にしたって、キーポイントまで解説出来そうもないですね」

甲「ゆーてこの相で明かされる事って、殆どが今後の鍵だからね。流れを追うってのは、キーポイントを網羅する事と同義だよ」

乙「逆に言えば、焦点を絞って取り上げても無意味か……なら、例外的に今回は無しということでご了承いただきましょう」

甲「ちょっと狡い気もするけど、続けよう。友人を目の前で人ならざる者に変えられ、確かな怒りを覚える石井は2人に食って掛かるが……体に残留していた薬の成分が彼らの言葉に反応し、あっさりと動きを止められてしまう」

乙「抵抗する手段すら封じられた彼に出来る事と言えば、捨て台詞を残してその場を去る事くらいでした」

甲「そして残されたふたりによる不穏な会話を最後に夜が明け、石井はこの状況から『逃げる』算段を立て始める……仇はどうしたって声が聞こえそうだ」

乙「確かに主人公らしからぬ動きに見えますが……彼は正義の超人でもなんでもないんです」

甲「三吾や藤沢の地位や富、それによって動かせる力を前に、彼の自己評価はどうやったって無力で矮小な存在だ。孤立無援、碌な抵抗の術すら持たない。自分がそんな状況煮立ったとして、なお彼らに立ち向かおうと奮い立てるかい?」

乙「……仕事を辞め、家を引き払い、遠くの地へその身を移す事で、このまま傀儡になり続ける事を拒もうとした石井。しかしその選択を嘲笑うかのように、薬の副作用が体を襲います」

甲「それは何を口にしても満たされる事のない、無限の空腹。新たな住居も決められないまま帰宅した彼は、とうとう廊下で倒れ込んでしまう」

乙「しかしそんな彼を救ったのは……意外な人物でした。いつの間にか玄関先に立っていた三吾美恵によってを与えられ急場を凌ぐことが出来た石井は、咄嗟の機転によってそれを冷蔵庫へと保管します」

甲「彼の狙いはその正体を突き止め独自に入手することで、三吾親子や藤沢の戒めを逃れる事にあった。翌日、早速成分の分析に乗り出すが――」

乙「その正体を知ると同時に、彼は警察によって留置場へと連れられてしまいます」

甲「まぁ、一般人がいきなり検査機関に調なんぞ持ち込んだら、普通騒ぎになるよね」

乙「苛烈な取り調べによって一夜にして心を挫かれ、明日に不安を覚える彼でしたが……そこでまたしても、予期しない人物によって助け出されることになります」

甲「翌朝、石井はあっさりと釈放される。それは彼の上司を装った藤沢芳也の手によるものだった」

乙「寄ってたかって自分を陥れた敵が、今度はあの手この手で自分を救う――そんな不可解な状況に疑問を覚える彼でしたが、そこにはもちろん理由がありました」

甲「彼らは『蘇生薬の完成』という目的を一にする集団だが、決して一枚岩ではなかったということだ。独善的……ってわけでもないんだけど、まぁともかく――石井から見れば共犯者にしか見えなかった関係性は、その水面下で明確に袂を分かっていた」

乙「それは『過程』の問題と言い換えられました。目的を達するべく邁進する三吾啓示が積極的に取ると、それに反目する娘の美恵と藤沢芳也が結託して推し進める

甲「そして、それら全ての正否を左右する鍵は、石井が失った記憶の中にある。故に彼は陥れられつつも、最後の一線では3人に守られていた」

乙「己の記憶を取り戻し、不完全である薬を完成させる事。それこそが食人の戒めから解き放たれ、迫りくる死のカウントダウンを止める……それが普通の人間生活に戻る為に残された、たったひとつの手段でした」

甲「藤沢の説明を聞いたところで、素直に納得も承服もしがたい。だが飲み込まない事には行く末そのものが閉ざされる。かくして石井は反抗でも逃走でもない、第3の道を歩む決断を下すのだった」





 ※     ※     ※





甲「……第4相のあらすじとしてはこんなところか。なんとか3000字以内に収まったねえ」

乙「これまでのダイジェストを仕上げる時間の3倍は掛かってますけどね……改めて見ると、情報詰め込み過ぎでしょこの相……」

甲「まったくだ。次回はもう少し整然と、そして簡潔に纏めたいもんだね」


乙「それでは」

甲「また次回。もう夜明けだよ……」

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