4『第3相ダイジェスト』

甲「さて、ゴールデンウイークも折り返しを迎えた今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか」

乙「やたら嬉しそうですね……」

甲「だってさー、自分が働いている脇目で他人が休み満喫してるって無性に羨ましくならない?何、9連休って……立場上年末年始だってそんな長い休みないっつうのこっちは」

乙「性格悪いですよ。恨んだところで自分の休みが増える訳じゃあるまいに……」

甲「いいよねえ。君はもう休みとか――いや、失敬。そんな睨むなよ」

乙「……だったら、早く解説に移りましょう。この相から一気に物語のギアが上がるんですから」

甲「そうだね。ここから物語は最初の山場を迎える。しっかり付いてきてくれると解説する側も書いている側も冥利に尽きるな」

乙「本編の意義を損なわないように、ここからはやや抽象的かつ飛ばし気味の解説となります。詳細な展開が気になる方は、ぜひそちらを一読いただければ!」

甲「それがこのダイジェストの存在理由だからね」




Q1 この相はどんな展開が起こる?


甲「さて、前回の終わりに言った通り、ここから主人公である石井の日常が急激に非日常からの浸食を受け始める」

乙「……その端緒となるのが、同僚である鏑木の唐突な失踪ですね」

甲「ああ。この相は職場への無用な混乱を避けたい上長『唐津 信一郎からつしんいちろう』によって、彼と親しかった石井にのみ事態が明かされるシーンから始まる」

乙「彼の『端末』……と、ダイジェストでは解説してませんでしたね。この物語における通信端末、スマートフォンのようなものをイメージしていただければ概ね合っています」

甲「当初はPDAと携帯電話を組み合わせたガジェットとして設定されてたんだけど、まさか時代に追いつかれるとはねぇ。何年プロット塩漬けしてたんだか」

乙「まぁ、遅筆は脇に置いておいて、話題を戻しましょう。捜索の第一歩として彼の端末に電話を掛けるも彼からの反応はなし」

甲「続けて実家へと掛けた石井は、そこで初めて彼の恋人『白石 楓しらいしかえで』の声を聴く事になる」

乙「恋人じゃなくて、婚約者……ああ、ここで知り合ったのか」

甲「……彼女との協力を取り付けながら事態の深刻化を感じ始める石井だったが、その予想と反して、事態はすぐに動いた」

乙「ええ。その日の帰り、石井は電車のホームで鏑木らしき人物を偶然見つけるのです」

甲「だが結局彼の姿を見失った上、よりにもよって三吾美恵に事態を察知されてしまう。結果、秘密裏に解決を図っていた唐津課長の目論見ごと粉砕されてしまうんだ」

乙「更に彼らの努力を嘲笑うかのように、鏑木は翌日あっさりオフィスに姿を見せます」

甲「再会した場所も皮肉が効いてたね。彼の失踪を隠蔽し水面下で解決しようとした唐津課長への制裁を告げる告示の前、そこで事態は一応の収拾を迎えた」

乙「ですが勿論、それは鏑木の気まぐれによる放浪といった無意味なものではありませんでした。いくつもの引っ掛かりを覚えた石井は、会社から離れたバーで事の仔細を訊ねるのですが……」

甲「それが新たな事態の引鉄となり、その瞬間石井の生活に長い事上塗りされていた仮初の平穏は、べりべりと音を立てて剥がれ落ちていく」

乙「その中からまず姿を現したのは、幾度も見ては記憶の奥に沈んだでした。しかし今回、石井は朝のベッドではなく――確かな現実として、その場で意識を取り戻す事となるのです」





Q2 この相のキーポイントは?


甲「鏑木が受けていた治験と、石井の関係性。そして何故彼が悪夢の中で『001』と呼ばれているのか……かなぁ。まぁ明晰な読者諸兄におかれては、殆ど答えのようなものだけどさ」

乙「この相は物語全体におけるとしての側面が大きいですからね」

甲「とはいえ、また新たな謎や鍵も撒かれている。敢えてダイジェストでは触れていないけど……悪夢の舞台に立っていた、石井と鏑木以外の存在だ」

乙「ぼかし方が難しいな……まず第一に、なぜ『その人』がふたりの前に現れたのか。そして未だ声しか聞こえない『もうひとり』はいったい誰なのか――」

甲「プロローグからの情報をしっかり整理すれば、シルエットを掴むことは難しくないけどね。ただその行動目的も理由も、治験の詳細もまだ掴みきれはしないと思う」

乙「各々の立場と目的について、色々想像を膨らませながら楽しんでもらえれば嬉しいですね」

甲「あとはその渦中のド真ん中にいながら、誰よりも情報を握っていない石井が今後どういった行動を取るのか、だ。彼は勇者でもなければ賢者でもない。冒頭でも紹介した通り、少しだけ特異な経歴を持つ、単なる一般人だ。あぁ、それと――」

乙「それと?」

甲「そろそろの正体も分かって来たんじゃないかな。特に今回迂闊に過ぎたし」

乙「……そこはノーコメント、ということで。ここは本編とは切り離された時空という体ですから」

甲「そうじゃなかったら私も今頃どうなってるか分からないしね。この対談は、あくまで外編だ」


乙「それでは」

甲「また次回」

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