北海道の昔ばなし『斜里の老狐』

 昔、斜里に一匹の老狐が住んでいた。狐はいつも、漁場の蔵の屋根でモフモフと昼寝をしていた。

 アイヌの猫達は、この老狐を神様として敬って、誰もイタズラする者はいなかった。

 ところがある日、漁場吟味の役猫が見回りにきた時、狐を見つけると、自慢の鉄砲で撃とうとしたので、アイヌ達は

「あれは神様にゃ。撃つのはやめた方がいいにゃ」

と、言って止めたが、役猫は

「あんな狐が神様のはずがにゃい!」

と、狙いをつけたが、火縄の火が消えてしまった。腹をたてた役猫は、火をつけ直して、また狙ったが、やはり火は消えてしまった。

 ある日、いつものように蔵の屋根でモフモフと寝ている狐に

「ふふふ、ぬし足さし足にゃ」

と、忍び寄り棍棒で殴り付けた。

 狐は急所を打たれて、くるくると屋根を転がり落ちると、ぱっと一羽の鳥になって何処かへ飛んでいってしまった。

 それをみた役猫は

「にゃ、にゃんだあれは」

と、おそろしくなって家に帰ったが、その晩から、身の毛もよだつナニモノかにおびえるようになった。

 それからは、何をしても悪いことが続き、とうとう

「そのほう、漁場吟味の役職を辞めるにゃ」

「そ、そんにゃ~」

ということになった。

 ある日、元役猫が鉄砲で鳥をうったら、その弾がとんでもない方に飛び、猫に当たってしまった。あやうく死罪となれところだったが、相手の傷が浅かったので許された。これもモフモフしていた老狐の祟りといわれている。


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主に猫で綴る世界の昔ばなし 今村広樹 @yono

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