ホップステップスペースファンタジー
石田篤美
ホップステップスペースファンタジー
広い宇宙、そんなに急いでどこへ行く……。
地球からずーっとずーっと遠く離れたところに、宇宙人たちが暮らす惑星がありました。
学校も会社もない。警察もいなけりゃ政治家もいない。そんな星でも、みんな仲良くぐうたらに暮らしていました。
毎日UFOに乗って宇宙空間をドライブ。楽しいったらありゃしない。
「おや?」
そんな中、一つ目の宇宙人・フィッシュウォッシュはある衛星で小さな花を見つけました。
「これは珍しい。マンドラル草じゃないか」
マンドラル草はめったに咲いていない美しい花です。
「彼女に渡したら、きっと喜ぶぞ」
フィッシュウォッシュは、その花を持って帰りました。
翌日。彼は街のカフェに、彼女のミドリーを呼びました。
三つ目と触角がチャームポイントの、とても可愛らしい女の子です。
「やあミドリー。久しぶりだね」
「本当よフィッシュウォッシュ。で、今日はどうしたの?」
「うん。実は君に渡したいものがあるんだ」
そう言うと、フィッシュウォッシュはズボンのポケットから一本の花を取り出しました。そうです。昨日のマンドラル草です。
ミドリーはびっくり仰天。でも、何だか嬉しそうです。
「これをあげるから、結婚してくれないかな」
「……ええもちろん。フィッシュウォッシュ、私はとっても嬉しいわ」
二人はお互いの手を取り、じっと見つめあって、あつーいあつーいキスを……。
「お楽しみのところすみません。ちょっといいですか?」
おっと、邪魔者が入りました。
赤いギザギザ頭の宇宙人です。いったいどうしたのでしょうか。
「そのマンドラル草、返してもらえませんか?」
「え? それはどうしてだい?」
「実は僕たち趣味で映画を撮ってるんですけど、次の現場に向かう途中、撮影用の小道具を落としてしまって……」
「それがこの花だって? いいよ、返すよ」
「え? いいんですか。だってそれはプロポーズの……」
「いいのさ。そんなものがなくたって、僕らの愛は本物さ。ね、ミドリー」
「ええ、フィッシュウォッシュ」
二人は快く、花を返しました。
「素晴らしい映画を作ってね」
「ありがとう、ありがとう」
ギザギザ頭は二人にお礼を言うと、UFOに乗って帰っていきました。
彼を見送った後、ミドリーは溜息をつきます。
「ああショックだわ。せっかくのプレゼントだったのに」
「仕方ないさミドリー。それより君にはもっと素敵なモノをあげるよ」
「いやん」
二人は手を繋ぎながら、夜のホテル街へ消えていきました。
一方、ギザギザ頭は仲間のところまで戻ってきていました。
「ガキタン監督、おかえりなさい。さあ、早く映画の続きを取りましょう」
「さわやかなスポーツ映画を!」
「……いや、それはやめて、別のを撮ろう」
「え? どんな映画だ?」
「マンドラル草をめぐる、あつーいあつーいラブストーリーさ」
その映画は名誉のある賞を貰いました。
そして宇宙は、ピンクの世界に染まったのでした。
ホップステップスペースファンタジー 石田篤美 @isiadu_9717
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