塔の守り人形、人形の守り人
秋楓
塔の守り人形、人形の守り人
「あなたはいつまでここにいるの?」
人この子が言う。
諭すように私は言う。
「主が離れていいと言うまで」
人の子が言う。
「じゃあ、わたしがはなれてもいいっていったらはなれる?」
私は首を振る。
「お前は私の主ではない。よって、私はここから離れない」
人の子は興味をなくしたように黙る。しばらくの間私の身体を眺めていたが、日が沈み始めたため村に帰ると言い去って行った。
「あなたはいつまでここにいるの?」
人の子が言う。
「主が離れていいと言うまで」
人の子が少し怒ったように言う。
「いつまでそんなことを言ってるのよ。現れない人のこと待たなくてもいいんじゃないの?」
私は首を振る。
「それでも、私はここで待たなければいけない。この塔を守るために」
人の子は、呆れたような顔をして村へと帰った。
「あなたはいつまでここにいるの?」
人の子が言う。
「主が離れていいと言うまで」
人の子がほほ笑む。
「この話、何回したのかな?」
私は人の子の目を見て言う。
「何回もだ」
「そうだね、数えきれないぐらいしてきたね」
人の子は、幾度となく繰り返してきたことを終えると村での出来事を話し始めた。
春にまいた種が芽を出したとか、となりの家の長男が結婚したとか。私には関係のない話をしてきた。
話を終えてすっきりしたような顔をした人の子は私にさよならをいい去って行った。
「あなたはいつまでここにいるの?」
人の子が言う。
「主が離れていいと言うまで」
いつもの会話の後、人の子はいつもと違うことを聞いてきた。
「じゃあ、あなたの言う主が返ってこなかったらどうするの」
「そのときは、私が壊れるまでここにいる」
「壊れるまでここにいる必要なんてあるの?」
人の子は腰に手を当てて言う。
「あなた、もうずっと動いてないだろう。草にまみれているじゃないか」
言われて、私は己の身体を見る。人の子が言う通り身体に草が這っている。
「それに、もう満足に動けないだろう。あなたも私たちと同じで、体にガタが来るからね」
たしかに、所々反応が遅い箇所がある。しかし、直している暇などない。
「私はここを守らなければいけない」
「知ってるさ。ずっと昔からの付き合いだからね。っても私が付き合わせてるだけだけどね」
人の子は笑う。
「そこで、あなたに朗報さ。その身体、私が直してあげよう」
人の子は足元の荷物の中から工具を取り出し、私に突き出す。
私が何かを言う前に人の子は作業を始めてしまった。その作業は日が暮れるまで続く。
「あなたはいつまでここにいるの?」
人の子が言う。
「主が離れていいと言うまで」
「ねえ。それなに?」
小さな人の子が大きな人の子に聞く。
「おまじないさ。この人と、私を繋ぐための。おまじない」
小さな人の子が私を見る。そのあと、大きな人の子を見る。
「じゃあ。わたしもそのおまじない、いってもいい?」
「いいけど、今はだめ」
小さな人の子の顔が丸くなる。
「なんで?」
大きな人の子が小さな人の子の頭をなでる。
「このおまじないは、今は私とこの人のおまじないだからさ」
「じゃあ、いつならいいの?」
大きな人の子は困ったように笑う。そして、誤魔化す様に家に帰ろうと小さな人の子を促していいた。
「あなたはいつまでここにいるの?」
小さかった人の子が言う。
「主が離れていいと言うまで」
塔の守り人形、人形の守り人 秋楓 @unknowun
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