合縁奇縁! 幼女と蹴落とす監獄攻略

 11番コロニー。ゾン子、三度目の投獄である。


「だーしーてー!」

「あほかいまんねんぱあでんねん」

「……さっきからずっと気になってたんだけど、その話し方なにさ」

「キャラ付け」


 鉄格子の向こうで猫みたいな伸びをするウサ耳幼女。今まで会った幼女とは違うタイプだった。しかし、彼女らはカンパニーが誇る極悪殺人サイボーグ『アルファベットシリーズ』の一画、Z型ゼロである。同期した脳内ネットワークにより、ボディが違えどもその人格は同一である。

 ゾン子はさりげなく身を屈める。すぅっと目線を上に。さりげなく、さりげなく。そうやって覗いたパンツはイチゴ柄だった。少し残念そうに天井を見上げる。


「……世の中、思い通りにならないもんだね」

「自業自得」


 ウサ耳幼女が紐を引くと、上からタライがゾン子に直撃した。

 こんな感じで丸一日。

 刑務作業もなく、ゾン子はそのまま放置されていた。その間、やたら大きな物音が響いていたが、まあ、多分関係ない。ゾン子は隅っこにぽつんと置かれた便器の上で、梅昆布茶をずずっと飲み干す。蛇口を捻ればいくらでも出てくるのだ。サービスのいい独房である。

 と、突然の爆発。

 頑丈な鉄格子は傷一つついていないが、その周りの壁は綺麗に消し飛んだ。天井が丸ごと落ちてきて潰れる。と思いきや、便器の水が逆流してコンクリートの塊を押し返した。


「もう滅茶苦茶かよ……」


 割れた湯飲みを寂しそうに見つめるゾン子。ウサ耳幼女は木っ端微塵のセラミックパーツに。

 刑務所自体が崩壊しかねないような大惨事だったが、潰れたのはゾン子の収監されている棟だけのようだ。囚人は恐らく大多数は即死だろう。奇跡的に生き残った囚人は我先にと逃げ出すが、激しい銃撃音の末にどいつもこいつも沈黙していった。その騒ぎのなか、ゾン子は奇妙なものを発見した。


(なんだ、この黒いの……?)


 真っ黒な人間が逃げる囚人を襲っている。しかし、容赦ない銃撃と、ばら蒔かれる電撃は無差別に死をばら蒔いている。ゾン子は伏せるように横になった。そのすぐ近くをガトリングガンの銃身が通り抜けた。

 死体の死んだふり。

 しかし、有名になりすぎてはその手は通じない。顔を蹴り起こされると、揺れる猫の尻尾が視界に入った。見覚えのある猫耳幼女。



「せぇの――――


 だぁい、ぎゃく、さつ、げえむ!!!!」







「ぎぃいいいにゃああああ――!!!!」


 無差別に暴れるサイボーグの群れのど真ん中を、必死の形相のゾン子が通り抜ける。殺戮兵器、アルファベットシリーズ。その脅威が遺憾なく発揮され、囚人たちと謎の黒い人間がまとめて虐殺されていく。ゾン子も三回死んだ。


「嘘だろ嘘だろ嘘だろ!!? こんな死刑アグレッシブ過ぎるわッ!!」


 抗議の声は届かない。破壊の轟音に塗り潰される。ゾン子の収監されていた棟からは破壊の手が広がり、犠牲者は次々と増えていく。


(どうせカンパニーの刑務所に収監されるような奴は、ロクでもねえクズばっかだけどさ! あたしを巻き込んでんじゃねえぞ!!)


 ロクでもねえクズは地面を滑るように走る。蛇行するようなダッシュで、アルファベットシリーズが次々と同士討ちを始めた。密集しすぎだ。ほくそ笑むゾン子だったが、しばらくして気付く。


(あれ、なんか黒いのついてきてない…………?)


 見るからに犯人っぽいシルエットの奴等がずらっとついてきている。しかも、アルファベットシリーズは能動的に同士討ちを始めていた。周囲は地獄、後ろも地獄。であれば前に進むしかない。


(いやいやいやおかしいだろ! なんなんだよこの状況!)


 終いには、アルファベットシリーズが自爆した。爆風に黒い行列ごとゾン子が薙ぎ倒される。全身が焼ける感覚と、金属の破片が肉体をズタズタに裂いていく異物感。

 もちろん、即死だった。







「しっぱいしちゃったね」

「ねー」「ねー」「ねー」


 そんな舌足らずな声で目が覚めた。周囲にはずらりと幼年幼女。どいつもマニアックなコスプレみたいな格好で、不気味なことこの上ない。


「おのれーりぶーとー」


 その名前に、ゾン子はむくりと身体を起こした。あたりがどよめく。


「一体全体なに企んでたんだ?」

「だい、ぎゃく、さ「ああ、やっぱいいや。おイタが過ぎたんだそうだよな!」


 聞くと、とんでもないことに巻き込まれそうな気がする。ゾン子は首の骨を鳴らしながら周囲を観察する。暗い部屋だ。それなりに広いようで、暗さもあってか、壁や扉がここから見えないくらいだ。

 何体かの幼女サイボーグの目がぴかぴか光っている。照明用か。光源は、これらと怪しげな機械から点滅する小さな光だけみたいだ。


「で、今度はいつ脱獄させてくれんの?」

「あほ」「ばか」「たわけ」「のうてんき」「のうたりん」「ちんちくりん」

「おいちんちくりんはやめろ。言える立場じゃないだろうが」


 散々罵倒される。やはり大人しく逃がしてくれるつもりはないみたいだ。さて、どうしたものか。ゾン子が難しい顔で唸り声を上げる。顔だけで、大して難しいことは考えていなさそうだ。


(水気、ねぇな……正面突破は厳しそうだ)


 よく見ると、ゾン子の手元に大量の乾燥剤がばら蒔かれていた。なるほど、水のタリスマンの対策は万全のようだ。

 サイボーグ軍団が左右に割れる。まるでモーゼのように現れたのは、ボディが継ぎ接ぎだらけの幼女。どうやら象徴的なボディのようだった。


「しほーとりひきをしよー」

(なんか難しい言葉を使いだしたぞ……!)


 ゾン子、ビビる。


「我々は現在、ここを支配している『リブート』審判に抵抗を続けるものである。囚人を虐殺して遊ぼうという計画が、奴のせいでご破算だ。我々は断固として抗い続ける次第である」


 なんか、言葉まで難しくなってきた。ゾン子は早々に頭の回転を止め、なんとかこの憐れなたちの助力になろう、となんとなく感じてきた。

 なんとかは騙されやすい。


「正義は我々にある。是非とも、ともに戦おう! さすれば恩赦を与えよう!」

「おっ、なんかくれるのか!」

「さあ! いざ、大虐殺ゲームを!」

「なんか知らんがとにかくいえーい!」

「しゅくに」


 跳ね上がったゾン子か根性棒に叩き落とされる。理不尽である。


「敵の名は、グレゴリー=ブレンド」


 継ぎ接ぎ幼女が高らかに告げる。あらかじめ情報が与えられていたはずのゾン子が驚いた顔をする。なんせ、二十二人もいるのだ。ゾン子がまともに覚えているはずが無い。


「奴と、奴が使役するイントゥルジェンダを如何に打倒するかが肝要である」

「ほう、いんてる!」

「あの、くろいのね」


 インテル入っていない死体少女に、継ぎ接ぎ幼女が一瞬素に戻る。教えてあげる、優しい世界。


「あいつらが犯人か……確かに悪そうな色だった」

「奴等は『罪』を喰って成長する。まさにこの刑務所にうってつけの怪物だ」

「……あれ? ロボロボ軍団はどったの?」

「……制御権、奪われちゃった」


 幼女がしょぼん。周りの幼年幼女たちもしょぼん。よく分からないからゾン子もしょぼん。


「――と、とかく! 残存戦力で奴をとっちめろ!!」

(えぇ……マジでこんだけかよ…………)


 Z型サイボーグ、ぱっと見回しても十体だか二十体だかその程度だ。あの黒いのがどれだけいるのか分からないが、全て討伐するというのならば中々骨だろう。


「――ってえことは、だ。ボスを倒すのがセオリーってことか」

「そのとおり!」「めいあん!」「よっ、だいとーりょー!」


 煽てられてゾン子が天狗になる。精神年齢が近いためか、仲が良さそうだった。


「うし! ボスはどこだ? 隠れてんのか? 暴れてんのか?」

「おびきだす!」

「よぅし、方法は!?」

「――屍神アイダ。お前に発信器をつけている」


 喉の奥がひきつるような感触。その直後、派手に壁が吹き飛ばされた。引っくり返るゾン子が立ち上がると、悪戯餓鬼どもは既に逃げ出した後だった。

 知能レベルには、随分と差があるようだった。



「――――ふ。お前さんが例の屍神か。同僚がその肉体を欲しがっていての」


 黒いイントゥルジェンダをぞろぞろ引き連れて、初老の男は言った。



「捕らえろ――――だ」

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