熱烈熱愛! 薔薇の温室は鮮血の大海原
(ウルクススフォルムの拠点はこの『シーマン』のどこかの島。けど、特定にはまだまだ掛かりそうね……)
鮫釣りのお姉さんはのんびりその時を待っていた。出所不明の情報源に踊らされる不安はあったが、その意図は大筋読めている。
(大体の場所は掴めている。けど、具体的な島の場所までは特定出来なかった。だから、こうやって敵対組織に捜させるように動かしている。中々やり手ね)
意図が読めれば、この情報の信用度は格段に上がる。そして、こちらのデメリットは特に見当たらない。この情報を流した相手は、恐らくウルクススフォルムの敵対者であって、だからこそ変則的な協力関係であるものと推定する。
(敵が多いって嫌ねえ……のんびりやりたいものだわ)
針に鮫がかかるまでのこの時間が、今は堪らない至福だった。
「ところで、少しお伺いしたいのですがアレはなんなの?」
慣れない敬語だったのだろう。ボロが出てしまうことはご愛嬌だ。
青いワンピースの女性が指差すのは、遥か先に聳え立つ巨大な金属。あまりにも大き過ぎて、海面から余裕で顔を出している。鮫釣りのお姉さんは口元を押さえると、優雅に笑った。
「大海獣チンゴンですわね。『シーマン』の最近の名物ですのよ。もうすぐ陸地に上がりそうですけど、外壁を壊されたらこのコロニーは崩壊しますわ」
「あら物騒。でもどなたか戦ってますね」
「あらあら、頑張って~!」
「「おほほほほほほほ」」
鮫釣りは、とても優雅である。
「他にも、このホモ島には『薔薇の温室』と呼ばれる淑女の会がありますの。一度行かれてみては?」
「あー、それは多分やんちゃな弟分が丸ごと焼いてしまったとお聞きしたやつですねえ」
「あら、そうなの?」
「なんか肉が使い勝手が良いとかなんとか」
「「おほほほほほほほ」」
鮫釣りは、とても優雅である。
「あらあ? あらあら、あらぁ」
お姉さんが頬に手を当ててうっとりとする。ゾン子も一緒に覗き込むと、そこには巨大な鮫が二頭。お互い寄り添うように泳いでいる。
「あれま、アベックだ」
「あらぁ~尊いわぁ。さすがホモ島ね!」
鮫釣りお姉さんの隠された趣味である。
鮫の生態なんて知ったこっちゃないゾン子だったが、何となくオス同士なのを感じた。ゾン子は、大きいほうの鮫に目を向ける。白い鱗に赤い目、珍しいアルビノだ。その顔はどこか間抜けで愛嬌がある。
アルビノの鮫は、片割れの鮫に激しく頭を擦りつける。その仕草がどこか甘えているようで微笑ましい。小さいほうの鮫はヒレでぺしぺし叩くが、そのスキンシップもどこか愛らしい。小さいほうはどこか力がないみたいで、しばらく経つと完全に動かなくなった。死んだのだ、とゾン子には分かった。巨大鮫は死んだ鮫を大口を開けて咀嚼する。
「あら……残念、愛が燃え尽きてしまったのね。それでも二人はこれで永遠に一つになるのですわ。あぁ~尊い尊い」
ぴょんぴょん飛び跳ねるお姉さんを尻目に、ゾン子は手配書と鮫を見比べていた。ゲイ=シャーク。間違いなく、アイツだ。ゾン子は右手を伸ばしてぐぅっと握る。アルビノ鮫がメキメキと音を立てて潰れていく。まるで、海水に押し潰されるようだった。やがて、標的の鮫はペシャンコになって死亡する。
(珍しい鮫だとは思うが、これで星5レベルの依頼か…………?)
少し疑問ではあるが、深海よりも深い事情を考察するだけの頭はゾン子にはない。まさに打ってつけのハンターだった。だが、果たして間が悪かったのも事実だ。
「――――もし。どういうことかしら?」
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