vs血液(レッドブラッド)

「強化変異クローン、カリカチュア」


 レグパは騒乱の元凶を口にした。カンパニーには屍兵化した研究者を送り込んでいる。ある程度のセキュリティの情報ならば入手可能だった。共有した感覚から、その知識を直に吸収する。


「脱走した多くとは別に、協力関係を築いたものもいる。与えられた役目は、大方屍神の捕獲だろう。漏洩を警戒してロクな情報を与えられていない……ただの使い捨ての道具だな」


 攻略法もなしに突破されるほど屍神は柔ではない、とレグパは分析している。精霊に干渉するタリスマンの存在は元より、やはりという属性は戦闘において最上位の脅威となるだろう。

 それらを全て差し置いても、レグパとしては遅れを取るつもりはなかったが。彼は生粋の(死体だが)戦士だった。


「さあ、聞こえていただろう! 使い捨てられると分かってまだ挑むか!」


 不自然な葉の音が。

 潜伏していたが姿を現した。数時間も隙を伺っていたクリーチャーに、レグパは決して隙を見せなかった。襲ってこないならば討つに及ばない。しかし、大人しくやられてはやらない。そんな駆け引きも戦士の息を上がらせるに能わない。

 そして、そんな駆け引きの出来る相手は、とみなすに十分だと捉えている。

 レグパは倒木を削って、組み合わせていた。舟を作っていたのだ。それだけではない。削り、研ぎ澄まされた逸品。戦士としての本領か。それは鋭い天然の槍。


(水の精霊との親和性が高いアイダが相手なら、絶好の獲物だろうな)


 その姿を見て、レグパは考えずにいられない。

 赤黒い外皮が全身を覆う。この匂いは、血だ。血は水で、であれば水のタリスマンを操る妹分にもってこいだった。表面を巡る血流からは隆々の筋肉がみてとれる。


「――――ッ」


 大振りの一撃を、レグパの蹴りが弾いていた。敵対行動。初動は見切れなかったが、この荒さなら対応は可能。

 レグパの反撃一発の間に、クリーチャーの必殺が二回。それで互角の攻防だった。だが、体力勝負ならば圧倒的にレグパに分がある。鈍った足に合わせて、レグパはその横をすり抜けた。


「無手にて貫けるとは思わん」


 天然の、それでも知識と経験で尖らせた乾坤の槍。


「し――――ッ」


 唸る剛腕。クリーチャーの外皮を槍が突き破り、その肉体を食い破る。木槍が砕け、破片が内側から弾けた。

 まさに必殺。投擲の姿勢のまま固まるレグパは、無傷。


「……なんなんだ、コイツら。どうやら長居は禁物らしいな」


 頭上に舟を掲げて砂浜まで走る。

 生い茂る森林を抜けた先は、海。

 妹分が横たわる、血の海だった。

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