vs膝(ジャックジャンプ)

 熱血クリーチャーは何故負けたのか。その答えは明らかである。水柱に浮かぶゾン子に手が出なかったことだ。

 ただただ死体と戦い続けるだけで埒が明けるわけがない。死体を操るゾン子を打倒しなければ決着はつかなかった。しかし、遥か高さに踊る外道。物理的に届かない。


「あべしっ!」


 もし、物理的に届くのならば。

 強烈な打撃がゾン子の側頭部を穿った。海面に叩きつけられる。新たなクリーチャーは、水面十メートルの高さを一足に飛び越えてきた。そう、に。


「んだそりゃあ!?」


 ゾン子、驚く。

 男はにたりと笑っていた。海上を跳び跳ねるその下半身は、蛇腹のように折り畳まれては、ぴんと伸びる反動で身体を弾く。水滴に濡れる輪郭を囲う髪はジグザグに決まっていた。


「よう、化け物」

「ちっ、来やがれ怪物」


 死体少女の指が蠢く。クリーチャーの蛇腹が跳ねる。

 水圧がゾン子の身体を押し上げ、水の柱がいくつも男の殺到した。だが、器用に足を傾けながら縦横無尽に跳ね回る標的には当たらない。手中に堕とした死体どもデッドマンズも海上では使い物にならない。ゾン子は舌打ちと共に大波を浮かべた。


「うっは、やっべ」


 垂直跳び。

 迫る大波を軽々飛び越える。唖然と見上げるゾン子。降ってくるクリーチャーの両手にはナイフがきらり。手刀で迎え撃つゾン子だが、その首筋から鮮血が噴き出した。


「はい、一丁。ピースピース!」


 海中に墜落する標的。カメラ目線で浮かべる笑顔。その視線の先には、異様なオブジェクトがカメラを構えていた。標的の殺害は完遂。証拠もバッチリなら死体は不要。海の藻屑など気にも止めずに海面を跳び跳ねる。止まると沈むのだ。結構重労働である。

 異形のクローン、奴らには十分な情報が与えられていなかった。

 死体は、なのだ。

 不意に日光が遮られて、スプリングニーは振り返った。デカい。さっきの波よりもずっと大きい。そんな大波が振りかぶる。全力の跳躍。それでも大波の頂点までがやっとだった。タダでさえ海面で踏ん張りが効かないのだ。届いただけでも奇跡に近い。その大波の上で、始末したはずの標的がにたりと嗤っていた。伸びきった足を引っ掴んで、海面に叩きつける。


「化、け、物――――ッ!」


 見た目以上の怪力だった。その腕力だけでコンクリートに叩きつけられるような衝撃があった。そして、大波の水圧が肉体を粉砕する。その勢いは止まらない。砂浜まで滅茶苦茶にして、大破壊を繰り広げる。


「うっぷあ」


 砂浜に頭からダイブしたゾン子が呻きながら砂を吐き出した。果たしてなんだったのか。よく分からない内に決着がついてしまった。


「あーだりー」


 仰向けに転がる。太陽が眩しい。そんな景色。

 黒い搭のようなものが聳え立っていた。


「……なんだありゃ?」


 さっきの攻防でも、その存在は確認できていた。が、具体的になんなのかさっぱり検討がつかない。多分、物知りな兄貴分が訳知り顔で解説してくれるだろう。

 そんな期待を抱いて、ゾン子は優雅な昼寝に洒落込んだ。



――そして、刺されて死んだ。

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