vs赤血球(レッキングブラッド)

「しっかし、なんなんだよコイツ……?」


 ゾン子は死体をつんつん蹴っている。どこかで見たような既視感。止まるんじゃねえぞ。うるせえ地の文に入ってくんな!


「まぁああたカンパニーか」


 それは正解。いい加減学習機能を学習し始めた脳足りんである。


――止まるんじゃねえぞ。


 呼ばれた気がしてゾン子は振り返った。真っ赤な男がいた。明らかにクリーチャーどもと同類だった。ゾン子は見なかったことにする。


「止まるんじゃねえぞ!」


 しかし、現実は消えてくれない。ゾン子は砂浜を蹴って走り出す。


「おい待て! 止まるんじゃねえぞっ!!」

「どっちなんだよもおおお!!」


 男は大柄で、しかも筋肉質だった。しかもどこか暑苦しい。あっという間に追いついてゾン子の身体を引きずり倒す。


「おお、二体も倒したのか! お前強いんだな!」

「いやん、はーなーしーてぇ~、っ!!」


 普通に頭を叩かれた。脳味噌がぐらりと揺れる。意識が飛びかねない威力だった。


「てめ、女の子の頭だぞ!」

「はっはっ! お前もただの化け物だろ!」


 悪びれもせず。だが、事実には相違ない。ゾン子は口を出せなかった。

 だから、手を出した。

 化け物らしく水の刃を。


「ぐおっ!?」

「にっひっひ! 化け物の味はどうだい?」


 両手の指をわきわきさせながら化け物は上機嫌だ。袈裟切りに鮮血をぶちまける男は、それでもタフに立ち上がる。


(はっ、その出血は命取りだぜ)


 肉体から離れた血液は、水のタリスマンで支配出来る。

 指を這わす。血の槍第二弾。が、不発。そんな間抜け顔ど真ん中を右ストレートが打ち抜いた。


(おいおい、この出血だぞ……!)


 ハイネスレッド。このクリーチャーの血液は特別製。これだけ血を失ってもそのパフォーマンスは衰えない。さらに、その血はとっくに気化していた。頭の中がぼんやりと重くなる。

 ブレイキングレッド。

 肋ごと内臓を破壊する蹴りとともに、ゾン子の視界はブラックアウトした。







「あっちゃあ~! やりすぎたかな?」


 派手にぶっ飛ばして海に沈んでしまった。生死問わず死体を連れてこいとの指令を受けている。実質、デッドオアデッド。海に飛び込もうと準備運動をしていると。


「んん…………なんだありゃ?」


 まるで間欠泉のように水の柱が上がった。海は水で、だからゾン子のテリトリーでもある。

 ゆたり。

 ゆたりと。

 水柱な上で女は踊っていた。なにかを祈るように。なにかを捧げるように。クリーチャーは黙って見ているだけではない。しかし、水柱はかなりの高さとなっていて手出しが出来なかった。


「おうら! 降りてこい! 正々堂々戦いやがれ!」


 口しか出せない。

 物言いに、ゾン子の舞踊が止まる。こくりと首を傾げて、最高に人を馬鹿にする表情で見下ろした。


「やっだ、よ~ん!」


 クリーチャーが吹き飛んだ。背後からの攻撃。これは――空気弾。嫌な直感に横に転がると、すぐ横を強靭なドリルが通り抜けた。掠っただけで皮と肉が千切れ飛んだ。


「これ、は……?」


 手出しの出来ない水の上。ゆたりゆたりと舞踏を捧げるのは、屍の神。その身に幾千もの魂を宿し、神懸かりによって降ろしたこの権能は。

 クリーチャーの死体が起き上がる。


「おたくら中々ユニークなのな! 僕ちん気に入ったよ」


 血液が気化して、三角錐の動きが鈍る。大振りのドリルを掻き潜りながら徒手空拳で応戦する。タフだ。そのスタミナには相当に自信があったのだろう。

 男は正々堂々向かい討った。

 死体相手に、どこまでも無益な戦いを。







 三時間と少し経った。

 陽気に踊るゾンビは、戦士がたおれるのを無感情に見下ろしていた。

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