vs肘(ドリルクラッシャー)

 手分けして舟を探そう。

 そう言われて、ゾン子はもう一眠りできるとご満悦だった。揺れるゴムボートの上では眠りが浅く、死体の身でも睡眠を欲していた。

 惰眠、とも言える。


(いやあ、絶好の昼寝日和だぜ!)


 砂浜で大雑把に横になる。こうしてみるとただの死体と変わらない。のび君顔負けの早寝が、今のゾン子のマイブームだった。

 痛みは遅れてやってくる。

 ミンチという表現すら生温い。心臓を中心に、ドリルが肉体を消し飛ばしていた。



「ギィィィイヤアアアアアアア――――!!!!」



 即死。復活。即死。

 血飛沫噴水天まで昇る。飛び散った肉片がひくひく蠢き、砂浜に溶けた鮮血が浮かび上がる。その異様な光景に、襲撃者は反射的に距離を取った。


「なんだこの標的は…………」


 男は、両腕の肘から先が円錐状になっていた。丸く見開かれた目、特徴的にカールした前髪。


「うっわ、マジドリルっ!」


 死体は目を輝かせた。ドリルとは、即ちロマンである。一味違う死体であるゾン子は、ロマンを解する死体だった。


「何なんだ、お前…………」


 男は警戒する。殺した相手が復帰してきたのだから、当然だろう。しかし、それ以上にこの死体少女の構えが。


(見様見真似、レグ兄の構え……!)

(コイツ、出来る……!)


 実は戦闘にストイックな男が胸を踊らせる。鮮血撒き散らし青白い顔の女。血の砂浜に男は足を踏み入れた。

 だが、迂闊とは言い難い。この距離がドリル男の最適な間合い。ゾン子は臆さず動かない。受けて立つ、という意思表示。


「ふっ――――覚悟はいいか、標的」


 肘のドリルがうねりを上げる。

 ともすれば、彼女の兄貴分ならばその粋に免じて武力で立ち向かっただろう。


「いいゾン♪」

「いざ――――っ…………?」


 しかし、標的は外道だった。

 水のタリスマン。染み込んだ鮮血は復活に抗う。そして、。砂浜に染み込んだ自身の血液。それを槍のように男に殺到させた。


「はい、ドーーン!」


 鮮血の槍が男を串刺しにする。だからこれは、トラップだ。水のタリスマン、復活に敢えて血を外した機転。それは、某海老ボクサーとの戦闘経験が活きている証。

 性根が腐った女も成長する。


「はっ、楽勝だぜ」


 卑怯上等の騙し討ちが汚く決まり、ゾン子は会心の笑みを浮かべた。

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