vs.Z(延長戦)

 

異世界死体・複製



・顔


青白い顔の少女。造形は悪くない。



・体格


156cm 45kg

痩躯の少女の姿。死体らしく所々腐っている。

データ通り複製したはずが、何故か質量が小さくなっている。



・服装


青いワンピース。新品。



・職業


死体。

証言にイマイチ要領を得ないので知能指数を上げた。



・能力


半不死身、魂のストックを三百保有している。その数だけ死んでも復活する。現在の技術では不死身を再現しきれなかった。

水のタリスマン、周囲の水分を操る。しかし、生物の体液には支配権を持たず、体外に出て支配権を失った時点で主導権を持つ。

怪力、肉体のリミッターを外して常人以上の身体能力を発揮する。



・装備


素手。頭蓋型ポンプ。



・口癖


死体を検分しちゃうよん♪



・作成者


ティアナ=O=カンパニー及びそのプロジェクトメンバー

彼女の功績で量産に成功している。







 クローン体は能力性質を引き継げるが、技術まではその限りではない。屍神の中でも特にタリスマンの扱いに長けているゾン子は、精霊の使役において圧倒的に有利なはずだった。


「くそっ、んだよこいつはっ!?」


 組手。

 クローンと本物の戦いに、タリスマン勝負を持ち込まない。格闘戦の技術はほぼ互角。


「いいもん着てるんじゃねえ! いいなぁ!」


 倒して剥ごう。俄然やる気が出てきた。

 手刀を敢えて受けて鮮血を刃に首をはねた。ワンピースが血で汚れないように血を操作し、嬉々として服を剥ぎ取ろうとする。が。


「止めろよ、変態」


 不死身の死体。

 怪力から放たれた蹴りが内蔵をぐちゃぐちゃにする。黒い血を吐きながら絶命するゾン子を、複製ゾンビが笑って蹴飛ばした。


「うわぁよっわぁい!」


 煽る煽る。

 直後、濁った警報音が建物全域に響いた。壁が砕け、スプリンクラーが無意味に作動する。あちらこちらで大惨事だった。

 全裸死体と青服死体が顔を見合わせる。



「「やべえ!!」



 これだけ水が溢れているのにあちこちから火の手が上がっている。警報が鳴り止まない。発電所の倒壊が目前に迫っていた。


「これ爆発するやつだろ!」

「あれか、制限時間までに脱出しないとゲームオーバーなやつ。確かにラスダン終わったっぽいしな!」

「え、じゃあこの右下の数字は残りリミットってことか!?」

「何だよその謎機能、偽物作ったやつバカなんじゃねえの!!」


 互いに足を掛け合いながら階段を駆け上がっていく。下はもう火の海だった。氾濫した下水があらゆるところから溢れだし、蒸発し、大量の熱蒸気に満ちていた。直に蒸し焼き、地獄絵図だ。


「上がってどうすんだ! 命綱なしのバンジージャンプか!」

「ばっか、本社ビルに跳び移るんだよ! あっちなら安全に脱出できんだろ!」

「そんなジャンプ力あるぅ!?」

「お前の頭蓋は旧石器か! タリスマンと大量の水があるだろしっかりしろよオリジナル!!」


 もう稼働しているサイボーグすら見ない。散らばっているのは崩れた残骸だけだ。

 火と水の追撃が下から迫る。でかい爆発が起きた。複製ゾンビが水蒸気を右手に集める。液体に凝縮し、気体に還元、噴出。ジェット噴射で死体二人がぶっ飛んだ。


「――おおぅ、何という頭脳プレー…………」


 若干ふらつきながらゾン子が回りを見回す。Z型サイボーグと戦った大部屋とはまた違う。何もない広大な空間が広がっていた。窓から見える景色は相当な高度だった。


「もういい、ここから翔ぶぞ!!」


 走り出したゾン子が派手にずっこけた。両足を抱え込むように本気で転ばせてきたのは複製ゾンビ。


「何しやがるっ」

「何って、釣った魚を捌くんだよ」


 にへら、と複製が笑う。どこかで見たような、少しムカつく笑みだった。抵抗しようとするゾン子の尻の穴を複製が滅茶苦茶にする。


「オラオラ、こっから水鉄砲ぶちこんじゃうぜ!」

「おいバカ、何か変なもん出ちゃうだろ!!」


 小型の水蒸気爆発。ペットボトルロケットのように吹っ飛ばされたゾン子が壁に叩きつけられた。再生する肉体は、しかし何かおかしいものを見ている。


「嘘、だろ……?」

「名称、屍神。この生物兵器をカンパニーの利益に貢献させるために、お前を解剖するんだよ」


 異世界死体・複製。合計十体。

 中央の複製が下品に笑った。ゾン子は事の大きさに青ざめる。


「やべ、レグ兄にバレたら――――」



「俺が、どうした?」







 投げつけた半月刀が複製を即死させた。飛び出していったのは異世界螻蛄。復活する前に頭部をくびり取り、血肉を啜る。代わりに自身の血肉を植え付けた。

 頭部の支配権を奪われ、再生した複製が即死する。もがくだけの首無し死体が出来上がり。放っておけばストックを使いきって活動を終えるだろう。


「え、あれ……?」


 火傷跡の男が無造作に前に出た。襲いかかる水流が大斬撃に切り裂かれ、その隙に二体当て身で怯ませる。その首が鉈のような手に寸断され、解体された。


「待って、待て待て」


 男は回収した半月刀で近くの複製の片腕を薙ぐ。悶絶するが、即死には至らない。男を狙った水咆を高密度外骨格が受け止める。


「違うだろ。その扱いはおかしいだろ。雑魚キャラみたいに蹴散らす相手じゃないだろ」


 姿勢を低くした男が砲撃手の首を飛ばした。復活まで数秒かかる。その間に虫人は一体解体していた。大津波と大斬撃が相殺する。


「それやられるとアタシが雑魚みたいじゃん。再生怪人みたいな扱いはやめてってば。ちょっと聞いてよねえ!」


 複製が三体距離を取る。虫人が拳銃を男に投げた。趣味じゃない、と呟きながらも的確に足を撃ち抜いていた。呆気に取られる近くの複製があっさり解体された。


「おいゾン子軍団ちょっとは根性出せよっ!!」


 片腕を失った複製を虫人が解体している間、男は二体封殺していた。的確に苦痛を与えてタリスマン発動を防いでいる。相手しきれないもう一体は早々に首を飛ばした。復活まで数秒の猶予がある。その間に封殺した二体が解体された。


「ああ、もうダメだ……何だこの謎の絶望感」


 動きを封じた四体まとめて虫人がすすり上げる。男は生首六つ引っ提げて荷物持ちといったところか。すぐに生首は十個に増えた。割れた窓から雑に投げ捨てられる。

 残ったのは、びくびくと痙攣しながらもがく十体の首無し死体だった。



「さて、脱出だ」

「ウン、オニイチャン」

「巻き進行すげえなレグ兄! あと誰が誰のお兄ちゃんだってぇ!? そのポジションだけは絶っ対に渡さねえぞっ!!」


 暴れる妹分を担ぎ上げて、男と白衣の虫人は飛び降りた。

 戦いの終わりは、どこか呆気ない。



「聞けよもうぅぅ――――っ!!!!」

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