vs.Z(決戦)
銃声は5発。
口径の小さい単発式のライフルなど恐れるるに足らず。水の壁が全方位防いでいた。勢いを殺しきれず、三発小石みたいな攻撃が頭部に当たった。痛いが何でもない様子を装う。
「……これで打ち止めか?」
腕を組んで尊大にしたり顔を浮かべる。Z型四機、ライフルを投げつける。忍者幼女が向かってきた。閃く忍者刀を手刀で弾き、背後から迫るもっちりした太ももを屈んで避ける。女装少年は格闘タイプか。
中々に業が深そうだった。
ゾン子の踏み込みに接近タイプ二機が小規模な津波から逃れる。頭部を殴打されてゾン子はつんのめった。ガンマン少年の豆鉄砲が直撃したのだ。
「痛ってえなあ!!」
高水圧、ウォータカッター。手近な機材が巻き込まれて倒壊する。手応えはない。薄暗さと物陰の多さがZ型に有利に働いている。
「はてさてなーて、かくれんぼかなぁ」
さっきから発電所の湿度が妙に高い。おかげでそれなりの水が補充できる。適当にウォーターカッターをばら蒔くと、当たりを引いた。おさげ幼女の首とテンガロンハットの少年の首が仲良く転がっていた。
ゾン子は確認のために跳ぶ。ミニスカートがまくれて熊さんプリントのパンツが全開になった機体にガッツポーズを上げると、妙なものが目に入った。
ガンマン風の胴体、その手に持つ爆弾のようなもの。
「ような、じゃねえ!!?」
爆発。
物陰に隠れながら爆撃でもしようとしたのか。爆風から逃れるように転がる。唯一の装備たるパンツに火が着いて悲鳴を上げた。速攻消化。ぐっしょりと濡れた下着にげんなりしながら顔を上げる。
忍者刀の白銀。
「うおっ」
まさに間一髪。濡れたパンツの水分をそのまま雑な水流にして叩きつける。小型の水流弾は、質量の小さいZ型を弾き飛ばした。
燃えて耐久値が削れたパンツがずり落ちる。
「ちょっまてよ!」
キム○ク風に言っても止まらない。何たって女装少年だ。妖艶な足技がゾン子の股間に直撃する。怯んだ死体にハイキック。横っ面を打ち抜かれてゾン子の身体が薙ぎ倒された。
「調子に」
頭蓋を踏み潰そうとする女装少年の足が死体に防がれる。そのままがっちり持たれて動けない。不死身の死体の、怪力無双。
「乗んなっ!!」
矯声とも呼べそうな悲鳴が響いた。死体が少年の片足を砕いていた。灰色の人工筋肉とセラミックの骨が剥き出しになり、白い血液がどくどくと溢れていく。
痛みに喘ぐ中性的な顔が、熱っぽくゾン子を見た。ややむらっと来てごくりと生唾を飲む。が、すぐに思い直して水圧でぺしゃんこにした。
(うっっわあ、ショタっこの色仕掛けにやられるとこだったああぁっ)
その隙は大きい。忍印の煙幕弾が視界を奪っていく。
「さすが忍者、汚い」
水のベールがゾン子を覆う。どこから攻撃が来てもこれなら防げるはずだ。防げなかったら大人しく死のう。
発砲音、2発。
そういえば、もう一体猫耳幼女がいた。ライフルの補充に向かったのか。ガチリ、と物音がした。その方向に、防御に使っていた水を投げつけた。狙ったことでは無かったが、その勢いで煙が晴れる。
「はっ――狙い通りだ!」
が、張れる見栄は張っておく。
投げつけられるライフルを裏拳気味に弾く。ずり落ちそうになるパンツを慌てて押さえた。
「おいおい」
右手にグリーンのゼータライフル、左手にイエローのゼータライフル。その他足元に何丁か。
猫耳幼女は両手にゼータライフルを構えていた。そして、使い捨てた後に足元のライフルを使うつもりだ。ライフルの使い方としてあれは正しいのだろうか。けれど。
「かっけー!!」
ロマンがあった。そろそろパンイチですらなくなりつつあるゾン子が目を輝かせる。発砲、2発。反動で幼女が転ぶ。あらぬ方向に逸れた弾が派手に機材をぶっ壊す。
横合いから1発。潜伏していた忍者幼女。
「ぐ――――っ」
パンツを押さえていた手で弾丸を弾く。片手が血濡れになるが、被弾のダメージは大したことが無かった。忍者幼女が肉薄する。
「待――っ」
血飛沫が花火のように弾けた。忍者幼女の全身に切り傷が入るが、ゾン子のパンツもボロ布のように切り裂かれた。
(やば、もう遊びに付き合ってやる場合じゃねえ!)
勝負を決する。
倒れる忍者幼女を捨て置いて、猫耳幼女に標準を合わせた。全裸の死体が勢いよく踏み込んだ。水のレールが一撃を補強する。
「大」
遊び。ゲーム。
ゾン子は気付いていない。本気で、形振り構わず勝ちを狙いに来る執念を。そのためならば、手段を選びはしないことを。
「斬」
手刀。水のレール。鎌鼬。
目前にズタズタの忍者幼女が飛び出してきた。が、このまままとめて切り裂ける。
「激ぃぃ――――!!」
振り抜く手刀は、徐々にスピードを落とし、そして、振り抜けない。
それでも破壊の余波は忍者幼女をバラバラにした。彼女が捨て身で放った注射器が死体の首筋に光る。
猫耳幼女はにゃあと鳴いた。
「――――――勝った」
◇
不死身を殺すことは、小型サイボーグでしかない彼女たちには不可能だった。しかし、無力化する手段ならば存在する。
前回の戦闘実験でそれは証明された。薬物中毒により思考と動体を奪う方法。対象を殺さず無力化する筋肉弛緩剤。元は捕縛・拷問用に配備されていたものだが、その効果は存分に発揮された。
「これで、18000ポイント。足りなければ、チマチマ稼げばいい」
便利な死体で得点稼ぎ。子どもの悪知恵が残酷な計画を編み出した。作戦コード、死体蹴り。標的のクリーンな再利用。
「……そこまでして、勝ちたいのか…………?」
こんな、ただのゲームに。そんなものに何の意味があるのかゾン子にはさっぱり分からなかった。だって、どちらにしろ結末は決まっている。
殺されるのは、この一回きりだ。復活すれば薬は抜ける。その時が猫耳幼女の終わりだ。コード、ゼロ。打ち止めだ。
「勝ちたい!」
それでも、目を爛々と光らせてにっこりと笑う姿はどこまでも純粋だ。真っ直ぐな視線が死に体の死体に突き刺さる。
「Zチームにはすごい倍率が掛けられているんだって。大穴だね。誰も期待してないから誰も賭けてくれなかった。でもね、だからこそ勝ちたい。勝ってあたしたちを認めさせるの。たくさんたくさん誉めてもらうの。だから、ここまでずっと作戦を練った。勝つための方法を考えた。お姉ちゃんしかいないの、このゲームを勝つためには。でも、ここまで来たらもう大丈夫。あとはお姉ちゃんを殺すだけ。大逆転、だよ。Zチームが勝つと困るお兄ちゃんたちもいるみたいだけど、それでも勝ちたい。あたしたちは、勝つんだよ!」
「……そうかい」
うすら寒い感触だった。真っ直ぐな目は、しかし何も写してはいない。単なるカメラのモニターがあるだけだった。
そこには、魂が宿っていない。
破壊しよう、とゾン子は思った。重たいライフルを投げ捨てて忍者刀を向ける幼女型サイボーグを。このゲームは、ここで終わりだ。終わらせる。
「アタシの、敗けだ」
勝ちたい。その執念は本物だ。大人しく殺されよう。どちらにせよ、手詰まりだ。殺されて、復活して、破壊しよう。いつもの通りだ。
――――ピー
「………………え?」
不吉な電子音。手足の赤い輪が点滅する。鳴動する。
カタ、カタ。時計の針のような音が。異変に気付いたのはゾン子も同じ。猫耳幼女の様子が尋常ではない。身体の内側を着火されたという違和感にその身を震わせている。
(これ、火薬の匂い……?)
Zチームが勝つと困るお兄ちゃんたちがいる。
さっき、猫耳幼女はそう言っていなかったか。開催者自身が、ゲームをぶち壊そうとしている。
「おい、まさか」
「いや、ねえ、ちょっと、だってこんなの、こんなのって――っ」
「走れぇ、速くこっちだ!!」
這いながらゾン子が叫んだ。
怯えに満ちた顔を向ける幼女。関節部位から煙が上がった。もう数秒の猶予もない。右手の人差し指、辛うじて動かせたのはそれだけだ。
(と、ど、け――っ)
骨が粉砕してもお構い無し。リミッターを解除した怪力が死体を数メートル飛ばした。煙を上げる猫耳幼女を押し倒すように抱き締める。
「なん、で…………?」
「大番狂わせ、大逆転は、女のロマンってな……二丁ライフル、格好良かったぜ」
爆発。
その指向性は徹底的に内側に集約され、機体の内部を焼きつくした。そんな自爆とも呼べない自滅用の爆破は、それでも、密着していた少女の命を確かに焼いた。
◇
完全復活して薬物も抜けたらしい。素っ裸で落ち着かない。目の前には幼女の残骸が転がっていた。その中から、奇跡的に無事だった猫耳を取り出す。
ほんの出来心で頭に乗せてみる。全裸猫耳は変態度マックスだった。
「………………」
顔を真っ赤に染めて猫耳を外す。誰かに見られたら即死ものの羞恥だった。発電所の喧騒はすっかり収まっていた。
静寂、とは言い難い。ゴゴゴゴゴと妙な水流の音が聞こえる。さっきから湿度が上がっている原因のようだった。下水が氾濫を始めている。直に大惨事だ。
「……ちくしょう、誰かやらかしやがったな? 反撃者の中の誰かだろうな」
大正解である。
何にせよ、脱出しなければならない。出口を探さなければ。小さな足音。
「……まだ何かいるのか」
男だったらどうしよう、殺すか、と思っていたゾン子だが、現れたのは女性だった。青いワンピースを着た、青白い少女がこちらを見ている。
二人は口を揃えて言った。
「「お前…………誰だ?」」
◇
『Z』ゼロ――――最終スコア。
撃破対象、?。
反撃者??000点×?=?????点
合計、?????点
集計が待たれる。
被害状況、発電所倒壊秒読み。
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