vs.Z(児戯)
幼児型サイボーグ。
サイボーグをどこまで人間に近付けられるか、という課題はこんな結末に落ち着いた。幼児型セクサロイド。戦闘用に開発されたアルファベットシリーズの中に何故そんなものが混ざっているのか。
戦闘用か。
その愛くるしい見た目は相手を油断させる。小柄な体躯と体内無線は諜報活動に適している。
だが、弱すぎる。叩けば泣くのだ。
愛玩用か。
親しみ、愛を受けるための器か。サイボーグでありながら性行為を可能とするその身は、人間と家庭を築けることを示唆していた。
だが、凶悪すぎる。無邪気な悪意だ。
では、どうなのか。そんな矛盾を孕んだ存在が人間とでも言い張るのか。答えは単純。
単なる開発者の趣味の産物だった。
そういうものが、いつだって技術の最先端を行くのだ。
◇
「――しゃらくせぇ!!」
小さな子どもが悲鳴を上げている。それで足を止める人間もいれば、喜んで耳を澄ませる人間もいる。
ゾン子は取り敢えずぶっ壊す死体だった。
「弱い! 弱さが爆発し過ぎている!!」
野球帽のやんちゃそうな男の子。おしゃまなワンピースの女の子。眼鏡の気弱そうな男の子。全身網タイツの女の子。バニースーツの男の子。
それらが、両手両足頭部胴体バラバラになって混ざり合っていた。パンイチの女の子が高らかに笑う。
「――――おっと」
忍者な幼女が忍者刀で斬りつける。振り下ろしざまに蹴り飛ばしたゾン子は頭を下げた。銃弾がすぐ頭上を通り抜ける。
水のタリスマン。水の刃が大雑把に散らばった。
「んや……?」
真上。
短パンマッチョボーイが頭上から奇襲を撃つ。ゾン子が左腕を上げて防御した。所詮幼児の力、大したことはない。と侮る。
みしり、と骨が砕ける。
「ぅが――!?」
痛い。怯んだ死体の喉が忍者刀にかっ捌かれた。鮮血が噴水のように噴き出した。一瞬で脳に血が途切れ、視界がブラックアウトする。
数秒。
目を覚ますと、少年少女たちはどこにもいなかった。
◇
『Z』ゼロ――――途中スコア。
追加撃破対象、1。
反撃者5000点×1=5000点
合計、11000点
被害状況、深刻。
0番エリア内の下水が逆流。すぐに甚大な被害が発生するものと思料。
◇
ルール説明。
スケッチブックに可愛らしくデフォルメされた紙芝居。白く塗った顔を黒く縁取るマントの少年は、ページを捲った。
何となくゾン子は体育座りしていた。
――こんなポイントゲームは嫌だ
サイボーグに虐殺される一般市民がデフォルメされて描かれている。左下の男だけ何故か劇画タッチだった。
というかミトコンちゃんだった。
――何故か殺害目標より乱入者の方が高得点
左端のパンイチ少女はゾン子だとして。デフォルメされた他の絵は。
発電所が揺れた。彼らも激戦の渦中にいる。
――こんな反撃者は嫌だ
ぐちゃぐちゃの死体がデフォルメ化されていた。左下の稚拙な数字は何だったか。
――やたらカモだ
反撃者のポイントは倒したサイボーグの数に比例する。結構な高ポイントだ。チョロくて倒しやすい異世界死体で稼げば、このポイントゲッターバトルを制するのも夢ではない。
という文面がやたら達筆でスケッチブックに書かれていた。
――こんなゾンビは嫌だ
スケッチブックの最後のページを開く。すごい飛ばした。
――ずっとパンイチ恥ずかしい。
芸人風の少年が顔を隠して、そっぽ向く。
ブチリ、と嫌な音がした。
「好きでこんな格好してんじゃねえええぇぇぇええ――!!!!」
その叫びは、きっとそれなりに遠くまで響いていただろう。もしかしたら誰かの耳に入ったかも知れない。
水のワームがにゅるりとZ型を飲み込んだ。サイボーグなのに空気を求めてもがき苦しむ。
水圧で潰れた。
「そこか――――っ」
慌ててスケッチブックを落とすバスローブ幼女。まだ続ける気だったか。
追い付いたのはすぐだった。そもそもぶかぶかのバスローブは逃げるのに不向きだ。裾を踏んですっ転ぶ幼女に馬乗りになる。
「おぅっ、と」
ポカポカ殴られてちょっと怯んだ。思わぬ反撃だが、所詮児戯に等しい。体重を乗せて身動きを封じる。
そして、気付いた。
(このバスローブ……結構サイズあるぞ)
自分でも着られるくらいに。
にまぁ、と死相に喜色が浮かぶ。
「おら、暴れんなっ! バスローブが脱がせづらいだろうが!!」
怯えた表情で抵抗する幼児型セクサロイド。バスローブの下は全裸だった。
(え……うわー、こんなになってんだ……えー、ナニコレすげー技術!)
無駄な感心がタイムリミットだった。足音に反射的に振り返る。
男が駆け付けていた。しかもちょっとイケてる感じの。もしかしたら他の反撃者かもしれない。
ヘルプを申し出ようと、口を開いて。
「――――――」
自分の今の格好に気付いた。
パンツだけの半裸女が、全裸幼女のバスローブを馬乗りで剥ぎ取ろうとしている。それをチョットイイカンジな男に目撃された。
首から上がぐっと熱を持つのを感じた。
「――――――っっ!」
短い悲鳴の後、追い剥ぎゾンビは身体を隠しながら駆け出した。
お兄ちゃん子で、野生児なゾン子は、男に対して微妙に免疫が無かった。死体にも羞恥心があるのだ。恥を知らない性格だとしても。
「うぅー、なんだってんだよぅ…………っ」
若干涙目で曲がり角に飛び込むゾン子。
残されたバスローブ幼女(半脱ぎ)は、その後出くわした反撃者と何かあったのかもしれない。Z型の情報網では、彼が高ポイント所持者なのは分かっているはずだ。
狩るために動くか、それとも助けられた恩で懐くか。
それは、別の物語である。
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