ve.I(前)
死体を見ると、慈悲の心で祈りだす者たちがいる。その祈りの結果、死体が動き出したらどうなるだろうか。やたら細長い白いワンピースの女は泣きながら喜んでいた。何故かサンダルを履いている。
服が欲しいゾン子である。
二メートル近くはある、背も髪もやたら長い女は、ゾン子を近くの小屋に招待した。恭しく扱われて少し嬉しい。ふかふかの毛布を与えてくれた。腐った鯖の臭いがした。包まって暖を取る。
服が欲しいゾン子である。
シチューを作ってくれるようだった。びしょ濡れで打ち上げられていたゾン子の身を案じてくれたということなのだろうか。その心遣いに温まる。ほっこりとした笑みを浮かべて思う。
何より、服が欲しい、と。
それでも、暖を取れる小屋があるだけマシなのかもしれない。故郷では家とかなくてその辺でいつも寝ていたゾン子には、物珍しいものではあった。温かいシチューのいい香りが漂ってくる。ゾン子は毛布の中でもぞもぞ身体を揺らした。
小屋が消し飛んだ。
ゾン子は、奇跡的に無傷だった。外では巨大なゴリラが暴れていた。あの優しいのかおかしいのか分からない女は、シチュー鍋に砕けた自分の肉体を入れていた。いつもはあんまりしない失敗なのだと思う。
慣れない来客で、ちょっと緊張しちゃったかな?
だって、腐っても神様だもん。
(やべえ――――帰りてえ)
半裸の死体に涙がほろり。
◇
戦うはずがない。戦う義理もない。
馬鹿か。馬鹿なのだろうか。毛布に包まったままガタガタ震えていたゾン子は、必殺技を放った。
死体の死んだふりである。
カンパニーが産み出した化け物なのは一目で分かった。ヤケのヤンパチを起こしてはいけない。
死体だって、死ぬかもしれないのだ。それは思い知った。
(おいおいおいおい)
のっしのっしと去っていくゴリラを、さっきの女の仲間だろうか。白いワンピースの一団が取り囲んでいた。文字通り蹴散らされる。
(おいおいおいおいおいおい)
目を逸らすと、同じようなゴリラがもう一体居た。スーツの男を追いかけている。仲間がいるのか。あの場で戦わなくてよかった。心底そう思う。
(――――んや?)
ゴリラを黒い鎧の大男が追っている。またカンパニーの怪物か、と疑う。が、その戦い様には人の意志を感じる。戦士の立ち振る舞い、最近学んだものだ。
轟音。
小屋をぶっ壊したゴリラが誰かと戦っていた。あの怪物相手に悪くない戦いだ。余程の実力者に違いない。が、それ以上にゾン子は一緒にいる幼女が気になっていた。
(……幼女を連れて戦う奴は、だいたい何かある。オグンが言ってたな。主人公気質っていうヤバい能力を持ってるらしい)
ともあれ。
「ゴリラ討伐隊の職員さんが間に合ったか。これでこのエリアは安泰だな」
毛布に包まったままのドヤ顔。完全に油断し切った彼女から毛布が剥ぎ取られる。
「ああ……堪忍、かんにんしてつかあさ、いっ!?」
必要以上に身体を低くしたゾン子からは、それが見えていた。
ネコさんプリントの、お子様パンツ。
(うわ、うわぁ、うわ、マジか、初めて見た!?)
ベイエリアに着て、初めてテンションが上がる。モチベーションが湧く。ボルテージが吹き上がる。
「――――猫耳幼女だぁ!!」
身長は130センチくらいだろうか。歳は10とちょっとに見える。そんな猫耳猫尻尾の可憐な幼女がゾン子を見下ろしていた。
やや興奮したパンイチ死体が幼女に抱き着いた。柔らかく、ぬくぬく温かい。どこか、感動した。ベイエリアにはこんな素敵な住人もいたのだと、無邪気に信じ込んで。
脳味噌が腐っている彼女は、いつも考えが足りない。
幼女を連れて戦う奴は何かある。
裏返して、戦場に立つ幼女には何かある。
考えが――――至らない。
◇
―――大型目標捕捉。
―――4000点、1000点。
―――戦力分析、4000点に隙なし。
―――電波受信を感知、サポートも万全か。
―――結論、攻略不能。
―――戦力分析、1000点は手負い、知能不全。
―――点数を膨らませれば逆転の目もあり。
―――結論、攻略の余地あり。
―――確実な作戦遂行のため、潜伏を続行する。
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