vs異世界国産香草使用七面鳥
カウントダウン。冷ややかな機械音に眉をひそめる。死体のくせしてお腹が空いてきた。二度目の戦闘実験。その相手の名前だけは研究者の一人から聞き出していた。
十。
それでも、名前しか教えてくれなかった。敵は未知数。でなければ実験とやらの意味が無いらしい。異世界生物の生態、その戦闘方法、効率的な駆除の方法の検証、および確立。死体の自分が戦っても果たして参考になるのか。けど、チラリと見えた他の連中も大概だった。ゾン子が右手を開く。名前が長くて、忘れないようにマジックで書いておいたのだ。異世界国産香草使用七面鳥。
五。
国産って、どこ産だよ。
トーゴか? ベナンか? ガーナか? それともナイジェリアか? ゾン子は頭を抱えた。地理は苦手である。
三。
まてよ、と思案する。この国産がどこ産なのか分かれば、この謎研究所の素性も少しは分かるかもしれない。おしりをふりふりしているスカラベちゃんを思い返した。ここの化け物たちは、屍神の戦力として加えるに申し分ない。
二。
実験と言っていた。きっと、完全支配の手筈は整っているのだろう。きっと。飛んだ災難か儲けものか。
一。
「やいやいトリ公! 俺様が死体を検分しちゃうよん♪」
故郷のアルマジロと一緒に転がりながら考えた決め台詞とともに降り立つ。
大きさは同じくらい。足が短く、全体としてでっぷりとしたイメージ。その目の哀愁が一瞬写った。
「もっが――――っ!?」
イキリ勃つオスが、有り余る勢いそのまま少女に突進を仕掛けた。
◇
「おっご、うぐ――――っ!?」
オスの固いモノが少女の口にねじ込まれる。声がうまく出ない。じたばたと手足を振って右往左往するが、どうしようもない。七面鳥。ご馳走としてポピュラーな食材。自ら捕食者の口に飛び込むとは、何ともアクティブで心意気のある食材だ。
生きたまま、丸ごとでなければ。体長145cm、体重9kg。
「んん、んぅぅ!!」
うまく咀嚼出来ない少女に、オスは自らの固い
(これ、『喉に餅が詰まった老人』状態じゃねぇか!! 誰か掃除機持ってこいよチクショウ!!)
ようやく、事態は把握したか。無理矢理引き抜こうとするが、酸欠で力が入らない。オスの固い
「ぁ、ん――あん、そこ、ぁ、だめぇ、ん」
色っぽい吐息(血混じり)を上げながら死体少女は身をよがらせる。
(そんな、そんなトコ――――攻められ、たらっ)
昇天してしまう。というか、した。喉の奥を突き破られて、ゾン子の身体がびくりと跳ねた。
そして、死体少女も終わらない。
「ぅうおあいあーおんぉぁんうっあぁあう!!」
(フードファイターゾン子ちゃん復ぅ活!!)
しかも、フードファイターモードだ。9kgもの大食いを敢行せんとその目に炎が宿る。フードファイターモード、ゾン子。そんな設定は無い。
「おぅあ!」
七面鳥のケツを両手で押し込み、流し込む。食道が不気味に広がった。
(僕の食道が広がっていくぅぅぅう!! 自分の可能性にオラわくわくすっぞ!)
真上を向いてがに股で不気味なステップを踏むゾン子。その大口からは七面鳥のケツと足が飛び出し、じたばた暴れている。そのケツを怪力で口に押し付け、白目を剥きながらフードファイターは踊る。呪われそうなタップダンスだ。
「クワアアアアアアア――――!!!!」
生命の躍動の、苛烈なぶつかり合い。鳴かないはずの鳥が鳴いた。
(泣きてえのはこっちだよっ!!)
胃が不気味な煽動を始めた。突き破られ、二度目の死亡。
ぴくぴくと痙攣しながら赤い泡を吹く死体の口から二本足が伸びる。時折ぱたぱた空気を叩いていた。散々な屍神が胃液マシマシで復活する。ぼて腹をバンバン叩いた。
「いただきますだ、こんチクショウ!」
ようやく口が自由になってゾン子が雄叫びを上げた。何がどうなったのか鼻から七面鳥の足の指がひょこひょこ揺れている。散々押したケツが丁度口の中に。丸呑みは味気ない。折角だから豪快に咀嚼する。
「こ、これは……っ!?」
ゾン子の背後で雷がピシャリと落ちた。鳥の産声が木霊する。広大な草原がはさりと広がる。爽やかな風。そこで多くの七面鳥が走り回っている。走って、走って走って。やがて一頭、二頭とちぎれていく。最後に残った七面鳥が翼を広げて逞しい雄叫びを上げた。
イメージ映像である。
「このジューシーな肉質! 濃厚な毛根! 嘴のアクセントがぴりっと辛い! この脳味噌、弄くり回されまくっていい具合に腐ってやがる! 早すぎたんだ! オイオイこの肉はどうしたよ! 蕩けるような脂身がとろとろぶるるん! 仕舞いにゃ骨! 固い!」
妊婦のように腹を膨らませたゾン子は、満足顔だった。
「こりゃあ、こんなもん食わされたら…………言うしかないっ!!」
実験終了。対象の生命活動の終了が確認された。低いブザー音の後、フードファイターゾン子は言った。
「ごちそうさまっ!!」
◇
『お疲れさまです。実験への御協力感謝致します』
ゾン子はお腹いっぱいで頷いた。それでも、ちょっと物足りないものがある。迎えに来た白装束の男に向かってしなを作った。
「デザート欲しい。うんとあんまいの」
「はて、そうですか?」
実験の報酬。それが何だったか度忘れしたが、デザートをねだるくらいの我儘は通るだろう。体内が焼けるように熱いので、ひんやり冷たいアイスとか欲しいものだ。両手の人差し指をくるくる回しながら、ゾン子はにたりと昏い笑みを浮かべた。
しかし、渡されたのは練乳である。付箋で『甘い。味付け用』と書かれている。
「在庫がダブついていてですね。どうですか、もう一「マジかよざけんなもういらねぇよぉ!!!!」
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