5 放課後の対決②

★★★


 そしてそして、放課後。

 私は嫌がる撫子を無理やり引っぱって、神社に向かっていた。


「ねー、何であたしまで行かなきゃなんないのー? 呼び出されたの巴絵だけじゃんかあー」

「うるさい。元はといえばあんたのせいなんだから、つべこべ言わずに来なさい」

「やだよぉ。あたし、後ろで隠れてるからねー」

「まったくもお、何で私があんたみたいな豆腐娘のために、こんな目に合わなくちゃいけないのよ。ホント、あったま来ちゃうわ」

「なんだよ、豆腐娘って」

「なんでもいいわよ」


 手紙には一人で来いって書いてあったけど、撫子には責任取ってもらわなくちゃだわ。

 私が撫子にくっ付いてるですって?

 冗談じゃないわ。誰が好きこのんでこんな子と一緒になんかいるもんですか。たまたまよ、たまたま。

 そんなに撫子が好きなら、本人に直接言えばいいじゃないの。

 撫子と付き合いたいってんなら、どうぞどうぞ。こんなの熨斗つけてくれてやるわよ!


 琴岩神社は、学校のすぐ隣にある古い神社だ。

 竜野宮市は古い城下町で、我らが竜野宮第四中はそのお城の本丸跡に建っている。この神社は、城の鎮守の役を担ってきた由緒正しい神社だ。


 境内に着くと、相手はもう先に来ていた。この女が……。


「こんにちは、あなたが舞島さん? お手紙どうもありがとう」

「どういたしまして、柊先輩。来てくれて嬉しいわ」


 この子が舞島渚、1年生ね。ふん、結構かわいいじゃないの。


「で、舞島さん? 私に一体なんの用かしら」

「手紙に書いた通りよ。先輩みたいな人が撫子様にくっ付いてるのが、許せないの」


 その撫子様は、私の背中に隠れて後ろを向いている。この娘は全然気が付いていないようだ。


「くっ付いてるって? どういう事かしら」

「分からないの? いっつも撫子様の後を追っかけてるでしょ?」

「はん?」


 撫子の後? 追っかけ?

 まあいいわ、とりあえず言いたいだけ言わせてあげましょう。


「それに、聞きましたよ。先輩は撫子様の嫁なんですってね。なにそれ、女同士で恥ずかしいと思わないの?」


 じゃあ、お前はなんだ。


「いつか言ってやろうと思って、こないだからずっと先輩の後つけていたんですけど、今日こそはっきり言わせてもらいます」


 えっ? それってまさか。


「あのストーカー、あんただったの?!」

「ストーカーなんかじゃないです、失礼な。

 いいですか、撫子様は学校の宝、みんなのものなんですよ。

 それなのに、先輩がいるせいで撫子様にお近づきになりたくてもなれない人が沢山いるんです。

 はっきり言って迷惑、邪魔なんですよ貴女は。とっとと消えてください。

 撫子様は貴女なんかに渡しません。私の嫁にするんです!」


 みんなのものじゃなかったのかよ。

 あーどうしよう、すっごい腹立ってきた。


「だいたい何なのよ、その品性のカケラもない馬鹿でかいおっぱいは。

 その邪魔な肉塊のおかげで、撫子様のお姿が隠れてしまうじゃないのよ。私があのお姿を写真に収めるのにどんだけ苦労してると思ってんの?

 ほんっとに邪魔!

 図体もデカいし、ケツもデカいし! きっとウンコも牛みたいに!」


 ブチッ。


 舞島渚のわめき声を聞きながら、私は静かに右脚を上げた。

 そして相手を見据えたまま、つま先まで一直線に、頭の上へとまっすぐ伸ばす。

 このまま振り下ろせば、この娘の脳天を直撃だ。


「っ……!」


 舞島渚が私の脚を見上げ、息を飲んだ。


「どうしたの、舞島さん。続けて?」

「え、えっと……」


 言葉につまる、舞島渚。

 私は気にせずゆっくりと足を下げると、今度は相手の顔の正面に持って行った。


「おしゃべりが止まったわよ。もう言うことはないの?」

「えっと……。あ、あの……、先輩……」

「なあに?」

「パンツ見えてます。青のシ」 ドカッ!


 気付いた時には、もう右足を蹴り出していた。

 舞島渚は格闘ゲームみたいにクルクルと回転しながら吹っ飛んで行き、10メートルほど向こうに転がった。

 それを見た撫子が、慌てて駆けて行く。

 ふん、あんなの放っとけばいいのに。


「馬鹿っ! なんてことすんだ、この暴力女!」


 撫子が、舞島渚を抱き起こす。


「大丈夫? あっ、鼻血出てる!」

「撫子様? どうしてこんな所に……。私のこと心配してくれるんですね。嬉しい……」


 鼻血をダラダラ流しながら、撫子にしっかと抱きつく舞島渚。


「ああ、いい匂い。撫子様大好きです愛してます一生ついていきます子供欲しいです。

 はああ、撫子様に抱かれるなんて夢みたい。……渚、しあわせ」


 いい根性してるわ。


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