5 放課後の対決①

☆☆☆


 そして、昼休み。


「ねえ大生ぃー」

「なぁにぃ? 撫ちゃあん」


 あたしは机の上にあごを乗せたダレた恰好で、大生に声をかけた。

 巴絵は部活の打ち合わせに行ってるので、暇だ。

 大生も前の席に逆向きに座り、同じように机にあごを乗せてあたしと顔を突き合わせている。

 普通、男子とこんなに接近したら、恥ずかしくてドキドキしそうなものなんだけど、相手が大生だと全然そんな気にならないから不思議だ。


「巴絵ってモテるよねえ」

「そだねえ、モテるねえ」

「まあ、うちの学校のスターだもんねえ」

「そだねえ、スターだねえ。

 容姿端麗で頭脳明晰でスポーツ万能でバレー部のエースで。それでいて気取ったところがないし。あと巨乳だし。

 正にスーパースターだよねえ。モテないわけがないよねえ。放課後の体育館は、毎日見物客で一杯だもんねえ」


「でもさあ、今まで巴絵にコクってきた奴って一人もいないじゃん?」

「当たり前じゃん」

「なんでじゃん?」

「おめーのせいじゃん」

「は?」

「は? じゃねえよ。スーパーガール柊巴絵、誰もが憧れる美少女に、誰一人としてコクろうとしないのは何故か。それはともちゃんが既に壬鳥撫子の嫁(笑)だからさー」

「おまっ! それはっ!」


 思わず跳ね起きた。それは禁句だろっ!


「子供の頃の冗談だって言いたいんだろ?

 あのなあ、そんなこと言いながらお前らずっと、いちゃいちゃしっぱなしじゃん。誰が見ても熱々ふーふで入り込む隙なんかないんだよ。

 ついでに言えば、撫ちゃんにコクる奴がいないのも、同じ理由だね」

「へ?」


「へ? じゃねえよ。どうせ気にもしてないんだろうけど、撫ちゃんファンもいっぱいいるんだぜ」

「な、なに言ってんだよ馬鹿。そんなのいる訳ないだろ」

「照れるなよ、可愛いから。

 ともちゃんに勝るとも劣らない超絶美少女で、しかもバスケのポイントゲッター。

 試合の時の撫ちゃんってホントかっこいいぜ。あんなの見せられたら、誰だっていっぺんでファンになっちゃうって。

 何でちゃんとバスケ部に入らないの?」

「だって、めんどくさいもん」


 実はこのあたし、試合の時だけバスケ部の助っ人をやっている。

 体が小さいのを逆に利用して敵のディフェンスをすり抜け、隙間を突いてシュートを決めるのが得意のパターンだ。

 でも練習嫌いで持久力がないので、ラストの1クォーターくらいしか出場しないのだけれど、そのせいで何故か『四中の最終兵器』などと言われてしまっている。

 そんないい加減なことで、毎日真面目に練習してる正式部員達は怒らないのかというと、うちのバスケ部にそんな高級なプライドを持ってる奴なんか一人もいないから、全然OKだ。


「俺の見たところ、学内での人気はともちゃんの方がやや優勢、でも学外ファンは撫ちゃんの方が多い。

 これは何故かと分析するとだな、よその奴らは撫ちゃんの外見ばかり見てて、残念な中身を知らないからなんだな。あっはっは」

 ボカッ。


「ぶぶっ!」


 あっはっはと笑う大生の頭に、グー一発。アホ男が口を押えて悶絶する。


「痛ってー。おま、机にあご乗っけてるところを殴ったらダメージ倍増だろ。舌噛みそうになったじゃないか」

「噛み切ればよかったのに」


「とにかく、撫ちゃんもともちゃんに劣らずモテモテなんだよ。

 でもみんな根性なしでともちゃんに遠慮してんの。堂々とコクってるのは俺だけ」

「二人目が現れたみたいだけどな。どうすんだよお前、ライバル出現だぞ」

「おやあ、俺の事心配してくれてんの?」


 嬉しそうにニヤニヤすんな。

 あれ? 巴絵の話をしようとしていたのに、いつの間にかあたしが大生に口説かれてるみたいになっちゃってる。なんでだよ、もう。


「ばーか。大体お前はさあ、何で巴絵じゃなくてあたしなの? 一体あたしのどこがいいってんだよ」

「んー、控えめなとこかな」


 胸を指さしながら言いやがった。


「どういう意味だてめえ! まあ、どっちにしろあたしはお前なんか眼中にないよ」

「そんなあ。俺は別に撫ちゃんをともちゃんから横取りしようなんて思ってないんだよ。二番目でいいの。

 なんなら子作り担当ってことで」


 ボカッ!

 舌、噛み切れっ!


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