4 ララララブレター?②

★★★



 と、泣きそうになりながらチラリと隣の席を見ると、撫子の奴はブスッとした顔をしてそっぽを向いていた。


 ……なにそれ。

 この子ったら! 私がこんなにピンチだというのに! ララララブレターを貰ったというのに! 平気なの?! 興味ないの?!

 もおっ、許せない。なんて冷たい奴。冷奴、あぶらげ、がんもどき!!

 と、決して現実逃避などではなく、友人として有ってはならない友情レスな態度に正当な怒りを抱いた私が無言で罵り続けていると、こちらの視線に気づいたのか、撫子がいきなりジロリと睨み付けて来た。

 うひゃっ。


 慌てて目をそらし、そそくさと封筒を手に取る私。

 うわ、勢いで開けちゃったわ。

 うううー、緊張するぅ。ええと何々……


『拝啓、突然こんなお手紙差し上げてごめんなさい。私は……』



☆☆☆


 ちっくしょう、巴絵のやつ。

 封筒を置いたままニヤニヤしやがって。


 さっさと開ければいいじゃん。

 何さっきからこっちをチラチラ見てんだよ。

 自慢? 自慢なのか? これであたしに勝ったつもりか?

 あ、睨んだら目そらしやがった。

 読んでるな、何て書いてあんだろ……。別に興味ないけど……。


 巴絵は暫く無言で手紙を読んでいたが、やがて読み終わったのか、それを丁寧に畳んで封筒に戻すと、「はあーっ」と大きく溜息をつき、そしてガクッと机に突っ伏した。

 ん? どした?

 あたしが思わず身を乗り出しそうになると、巴絵はその姿勢のまま、手だけをこっちに伸ばして、封筒を差し出してきた。


「撫子おー、これ読んでえー」


 ハアッ?


「何言ってんのお前、人のラブレターなんか読めるわけないだろ」

「いいから読んで」


 声が暗い。手を伸ばしたまま、こっちを見ようともしない。

 何だってんだよ、いったい。

 仕方がないから、あたしも黙って手を伸ばし手紙を受け取る。

 たく、しょうがないなあ。えーと……。


『拝啓、突然こんなお手紙……、バレー部で大活躍している貴女のお姿が……』


 薄いピンクの便箋に、可愛らしい丸文字が並んでいる。差出人の名前は『舞島渚』か。どこかで聞いたような気がする名前だけど、誰だっけ? 下級生かな。

 あーあ、女の子かぁ。

 なるほどね、これじゃあがっかりするのも無理ないや。しょうがないから慰めてやるか。

 ……って、ん?


『……いつもいつも撫子様にくっついて……、キュートで天使な撫子様がどうしてあんたなんかと……』


 あれ? なんかこれ。


『……ちょっとくらいおっぱいが大きいからっていい気に……、でかいケツしやがって……、ふざけろてめえ。撫子様は私のお嫁に……』


 えっと。


『……放課後、琴岩神社で待ってるからな。バックレんじゃねえぞ……、敬具』


 ……。

 読み終わった手紙を丁寧に畳み、封筒に戻す。

 軽く咳払いをしてから隣の席に目をやると、巴絵はさっきと変わらぬ姿勢で、机に突っ伏したままピクリとも動こうとしなかった。


「あ、あのう巴絵さん? もしかしてこれって」


 恐るおそる声をかけたあたしに向かって、巴絵は顔を伏せたまま、地の底から聞こえてくるような暗い声で、答えた。


「……はい、果たし状でした」


 ……。


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