3 そうです、ワタシがストーカーです②

☆☆☆


 その隙に、女の子がハンカチで口を拭いながら立ち上がった。


「ハア、ハア……。もう、トモエちゃんのイケズう」

「なにがイケズよ、まったくもお。毎朝毎朝、変態行為もいい加減にしてよね」


 ほとんど巴絵に並ぶくらいの長身と、ブロンドの長い髪に青い瞳の、絵に描いたようなアメリカン美少女。そして、バストサイズもアメリカンだ。


「そんなに変態変態言わないでよ。ワタシにだって、ちゃんと立派な名前があるんだから。

 聞け、者どもよ。我が名はキャンディ・キャンディ・ローエングラム・トランシルバニアーナ・ド・フランソワ二十三せ」 ボカッ!


 言い終わらないうちに、巴絵がキャンディの頭を殴った。


「あんたは自分の名前も満足に言えないの?! あんたの名前はキャンディス・マクガイア! ハンバーカー屋の娘でしょ!」

「ちがうもん! それは俗世の名前で、こっちがワタシのマナだもん!」

「あのねえ、真名っていうのは絶対に人に知られちゃいけない秘密の名前なのよ。

 それを他の人に教えるってことは、その人に一生服従を誓いますって意味なのよ? 判ってんの?」

「えっ、てことはウチはトモエのドレイ? うんわかった、アチキは一生トモエについて行くでありんす」

「いらない」


 冷たく言い放つ巴絵。


 キャンディは、今年の春に短期留学で日本に来たアメリカ人だ。

 親は世界中の誰もが知ってるハンバーガーチェーンの社長で、つまりは大金持ちのご令嬢。

 ジャパニメーションに興味を持ち、『アニメを代表とする日本のサブカルチャーは、アメリカ発B級グルメの代表であるハンバーガーと社会的ニッチにおいて共通点が多いことから、これを比較研究して将来のマクガイアグループの企業経営に役立てたい』という目的で日本にやってきた、要するにただのオタク。


 いや、ただのと言っては失礼かもしれない。

 この娘は、日本語をアニメとラノベのみで覚え、その他ゲーム、コミックから同人誌まであらゆるオタク文化をこよなく愛し、日本の掲示板に書き込みしたり本国では『ホームランゲージはジャパニーズ』というオタクサイトを運営したり、それでも飽き足らず、アキバに通いたいが為だけに、上の屁理屈で親を騙して留学してきたという、本物のキチ○イだ。

 おかげで日本語もペラペラ、流暢を通り越して胡散くさいレベルにまで達している。


「お前もよくやるね。そんなに巴絵のおっぱいが好きか?」

「ナデシコほどじゃないわよ」

「なんだと!」

「だってさあ。これ、ズルくない?」


 とか言いながら、キャンディが巴絵のおっぱいを指さし、いや、ズブりと指で突き刺す。

 それをパシッと払い除ける、巴絵。

 ついさっきあんな目にあったばかりだというのに、懲りずに痴漢行為を続けようとするその根性だけは褒めてあげたい。

 普通だったら、……いや、普通の人は最初から痴漢なんてしないな。


「ずるいって、何がだよ」

「ワタシ、日本の女の子はみんなナデシコみたいにおっぱいが小さいっ聞いてたからさ。こっちに来れば、男の子達はワタシにメロメロになって、ハーレム三昧だと思っていたのに。

 なんでこんなとこに、ワタシよりもでっかいおっぱいがあるワケ?」

「知るか! あたしみたいは余計だろ!」

「ああ憎い。この巨乳が憎いわ」


 憎い憎いと言いながら巴絵の胸に向かって伸ばした両手を、巴絵は無言で捕らえると、グイと捻り上げた。


「キャー、イタイイタイもうしません! どうもごめんなサイッ」


 キャンディは、両手の関節をキメられて悲鳴をあげながら「ごめんなサイッ」と言って頭を下げ、巴絵のおっぱいに顔をうずめた。


 うーむ、さすがだ。


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