番外編〜アラビアオリックスとトムソンガゼル〜

「お前!どっから来た!」


彼女との出会いは、かつてこのちほーに迷い込んできたかばんやサーバルの時とほとんど同じものだった。


へいげんで一人ふらふらと歩き回るフレンズ。私とどこか似ているような、そんな見た目をしている子。

何より、どうにも間の抜けたような顔付きが嫌でも記憶に残る子。


「おー!腹筋われてるー!カチカチだー!」

「ふふひぃ!?ばっ、触るな!おい、こいつ大将の所に連れてくぞ!」

「あ、ああ……」


大将の元に連れて行ったその子は、トムソンガゼルというフレンズだそうだ。

さすがに大将に睨まれた時は固まっていたけれど、少しも経たない内に部屋から大将とケラケラ笑って話しながら出てきた。


「へー!さばんなからここまで!」

「なんかねー!ロードランナーと鬼ごっこしてピューって逃げてバババーって跳ね回ってズドドーってやってたらね、ここまで来てたの!」

「あははは、なんだそりゃ!」


「大将。そいつどうします?」

「どーするって……さばんなに送ってあげるのが一番いいんだろうけどさ。キミどうしたい?」

「あ、ちょうちょ!しかもデカイ!」

「ウォオホォー!しかもキレーな紫色だなぁ!」

「大将?ちょっと大将!……ウガアアアア!!話が進まん!!」

「落ち着きなよオーロックス……」


トムソンガゼルのペースにすぐ乗ってしまう大将にオーロックスはお手上げ。

側から見てる分には無邪気で可愛らしい子ではあるんだけどなぁ……


それから何のかんのでトムソンガゼルは結局城に居着いてしまい、ヘラジカ達との勝負にも加わるようになっていった。

たまに一人でどこかに行っちゃう時があるんだけど……


「たすけてぇ〜!」

「何やってんの!?」


ある時は森の中でも一際高い木に登って降りられなくなり、ある時はいつのまにか地面に出来ていた穴に埋まり、ある時は川に流されたりと、とにかく目が離せない。

オーロックスに叱られてしゅんとしたのも束の間、どこかに走り去ってはトラブルに巻き込まれる。


叩かれようが蹴られようがヘラジカ程ではないにせよ豪胆な構えで突っぱねるあのオーロックスが、今私の目の前でげっそりとした顔でため息をついて「やべえよ……あいつマジでやべえよ……」と弱音を吐いているのは正直びっくりだ。


「アラビアオリックス……お前、あのトラブルメーカーとの相手して疲れないのか?」

「疲れるに決まってるだろ。でもさ、見た目が似てるからか、なんだか放っとけないんだよね」

「そういうもんかねぇ……」


それからトムソンガゼルと一緒に過ごす時間がそれとなく長くなり、ニホンツキノワグマから「あんたら姉妹?」と言われたりする事もあった。

まあ、嫌ではないかも。


「ねーねーオリックスー」

「ん?」

「アダ名付けていーい?」

「アダ名?」

「だってアラビアオリックスって名前長いんだもん」


突然のアダ名付け。いやまあ確かに自分の名前って他のみんなの中でも長い方だとは思ってたけど、ほんと急に来るなこの子……


「別にいいけど……」

「んじゃーねー、んー……オリックス?だと被っちゃうなー。アビー?なんかしっくりこない……リックス?かわいくないなー……」


アダ名か……


トムソンガゼル。


その名前を聞いた時から、なぜか初めて会った気がしない。

姿が似てるからとか、そんな単純なものじゃない。なにかこう、もっと昔からこの子の事を知ってたような……すごく不思議な感覚。


もしこの子にアダ名を付けるとしたら……


「きーめた!今日からアラビアオリックスはラビラビで!」

「ラビラビ……」

「ア“ラビ”アオリックスのラビからとって、ラビラビ!いーでしょ?」

「そうだな……なあ、トムソンガゼル。実は私もな、お前のアダ名を考えてたんだ」

「え、ほんと!?どんなどんな!?おしえて!」


ルル。


半分無意識だった。気付いたらこの名前が思い浮かんでいた。

この名前を口にした時、ルルは急に黙り込む。

嫌だったか……?


「…………ラビラビ!!」

「おわ……ど、どうした?」

「ぼくね、ぼくね!そのアダ名、初めて聞いた気がしないの!」


おっと……もう誰かにこのアダ名で呼ばれてたのか?でも、この反応……


「何でかな?何でかな!?なんだかすっごく変な気分なんだよ!」

「……他のアダ名がいい?」

「やだやだ!ルルがいい!ぼくがルルで、アラビアオリックスはラビラビで!それがいっちばんいいって思うの!」


すごく必死だな……そんなに気に入ったのかな?

いや、でも妙な感じだ。ルルとラビラビ、確かに私も初めて聞いた気がしない。

それどころか、ずっと前にこのアダ名で呼び合っていたような……


でも、このアダ名以外は絶対にないなっていうのは私も同じ。

この子もきっと、私と同じ気持ちになったんだろうな。


「……じゃあ決まりだな。改めてよろしくね、ルル」

「いっひひ……ラビラビ!よろしくね!」

「あ、でも考えなしに走り回るのだけはカンベンしてくれ。オーロックスもだいぶ参ってたからね」

「うっ!?そ、それは……ごめんなさい」


落ち込んだり笑ったり、ほんとに忙しい子だな。

まったく、色んな意味で目が離せないよ。


ちなみにその後、他の仲間たちにもルルはアダ名を付けようとしたが……


「ライオンはオラオラ!」

「なにそのサルっぽいアダ名」

「オーロックスはオロオロ!」

「やべえよ……俺そんなにオロオロしてんのかよ……やべえよ……」

「ニホンツキノワグマはキツキツ!」

「なんか変な意味に聞こえるからやめて!?」


とりあえず同じ言葉を二回繰り返せばいいとでも思ってるんじゃないか、この子。


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