第4話

 サス


 死「昔昔のお話さ、とある死神がまだ見習いだった頃。そいつは卒業研修に行った。まああれだよ、インターンシップってやつさ、流行ってるだろ?今。(指パッチン)」


 ア「あれー?おかしいな、ここのはずなんだけど……私間違えたのかしら……」

 青「あの、どうかされましたか?」

 ア「いえ、大したことでは――」


 死「時が止まったのかと思った。死神が探していたのは声をかけた男で、あと10日の命だったんだけどこれがまあ、」


 死・ア「超タイプで」


 青「そんなに見詰められると照れてしまいます」

 ア「し、失礼しました、それではっ」

 青「待って!」

 ア「は、はい、何でしょう」

 青「お急ぎですか」

 ア「いえ、そういう訳では」

 青「では、お茶でもいかがですか」

 ア「えっ?」

 青「実は、あなたに一目惚れしてしまいまして……」

 ア「……実は、私も……」


 2人穏やかに笑う


 死「それから2人は付き合った。そりゃあ死神と人間の恋なんてご法度さ、たぶーってやつだ。でも、三日三晩より長く一緒に居た。気が合ったんだ、運命だった。だからこそ、死神が本当のことを言えたのは、彼の余命が3日になった所だった」


 青「そう、か……僕は死んでしまうのか」

 ア「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 青「いや、君のせいじゃないだろう?この一週間僕は幸せだった、死んでしまうんじゃないかと言う程に。本当に死んでしまうとは思っていなかったけどね」

 ア「……」

 青「幸せを感じられたのは、他でもない君のおかげなんだよ?……僕が死ぬまで、一緒にいてくれるだろう?」

 ア「はい……」


 死「2人はその3日のうちにやりたいことを全てやった。結婚式のまねごとをして、豪勢な食事をして、キネマを見た。海にも行った。そして最後の日、彼は花束を買ってくれた」


 青「僕の仕事は何か知っているかい」

 ア「書生さん?」

 青「そう、正解。僕は物書きだ」

 ア「とても物知りだもの、ぴったりよ」

 青「ありがとう。君にまたひとつ、面白いことを教えようと思って」

 ア「なあに?」

 青「君にプレゼントだよ」

 ア「お花!こんなに沢山?」

 青「綺麗だろう?彼岸花だよ」

 ア「彼岸花……ぴったり、ね」

 青「花にはそれぞれ花言葉というものがある。彼岸花は死にまつわる言葉がついてまわるんだけどね、素敵な花言葉もある」


 青「『また会う日を楽しみに』」


 青「僕は今日死んでしまうけれど、生まれ変わればまた出会えるかもしれない。だから、その日を楽しみにしてる。その時はまた、僕は君に恋をしてしまうだろうね」

 ア「でも、私が出会う時はまたあなたが死ぬ時じゃない」

 青「君と恋をするためならいくらでも死んでやるさ」


 青「だから、僕とまた出会って」


 死「死神それぞれには名前は無い。青年は死神にアネモネという名前を贈った。彼岸花の英名だ。それから少しして、彼は……(指パッチン)」


 通「どけ!おら!死にたくなけりゃ道空けろ!!」

 青「危ないっ」

 死「だめっ」


 ぐさっばたっ


 死「彼は、刺されて死んだ」


 青「僕はきっと、君を思い出すから。その時は、君の名前を呼ぶよ」


 サス


 死「昔昔のお話さ……彼女はそれから、立派な死神になった。それはもう、ヤケのように働いて、いつの間にか悲しい記憶に蓋をしようとした。……忘れようがないのにさ……」


 死「恋をするのは、幸せで、怖い……」


 指パッチン

 アネモネと青年はける

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