第7話 ザ・サークル デイヴ・エガーズ =著 

デイヴ・エガーズ『ザ・サークル』吉田恭子=訳、早川書房、2014、

ISBN978-4-15-209511-4


以前、このエッセイに書いた『ベストセラーコード』でアルゴリズムがニューヨーク・タイムズのベストセラーリスト入りの可能性100%という結果を出した本だという本書。


(あらすじより抜粋)

世界最高のインターネット・カンパニー、サークルに転職したメイは才気あふれる同僚たちに囲まれて幸せな会社生活を送りはじめる。しかし、サークルで推奨されるソーシャルメディアでの活発な交流は、次第にメイの重荷になっていき……

人間とインターネットの未来を予見して世界を戦慄させた、笑いと恐ろしさに満ちた傑作小説。




正直な感想をつらつらと書いていきます。もし本書のファンの方がいましたら、すんません、先に謝っときます。笑って許して。


この作品、ぶっといです。辞書か! ってくらいでして、ページ数だと500越えです。読めるかなぁと心配したんですが、読みました。とはいえ、アルゴリズムが100%だといったという前評判がなければ、数ページでやめたんじゃないかと。


これは普段読まないジャンルだからというのが大きいので、現代舞台の人間ドラマが描かれているお仕事小説が好きな方は、冒頭から面白いんじゃないでしょうか。


私は数ページで挫折しかかり、いやいや読むんだよ、と踏ん張り、三分の一くらいで面白くなってきたかな、となり、半分を過ぎたあたりで面白いじゃん、となり、読後は、読んでよかった、となりました。


一番の感想は「こわっ、ホラーじゃん」ですね。ホラーですよ、これ。たぶん。


なにが怖いって、異常な世界が描かれてるんですが、よくよく考えると世の中の流れってこうなろうとしてるんじゃ、いや、すでにこうなってるんじゃ……っていう恐怖ですね。


ざっくり内容説明すると、(ネタばれしているかも)


メイはいい大学を出たものの地元のぱっとしない職場で仕事をしていて不満。そこに大学時代の友人でハイスペックガールなアニーの紹介で彼女が働く「サークル」という今一番熱い、最先端の会社に転職できることになり、両親も大喜び。


サークルはオフィスをキャンパスと呼んで、社員を大切にする理想的な会社。メイが「すごい、ここは天国だ」と冒頭で思うほど充実した恩恵があり、無料で最先端の試作品や発売前のジーンズなんかが貰えたり、毎日、パーティ三昧などなど。


で、メイを取り巻く男たちがいて、それぞれが様々な形でストーリーに絡んでくる。特に恋愛(?)関係になる三人の男がいて、この人たちとの絡みがだいたい三分の一進んだあたりで出てくるので面白くなってきたなと思ったわけです。



一人目は素敵だと思ったら変態だったメガネ男。二人目は謎のレモン男。三人目は元カレのでぶ。


読者からすると、元カレが通常の感覚の持ち主なんですが、メイからすると野暮ったくて時代遅れの偏屈野郎に思える。鹿の角でシャンデリアを作っているという、自然と自由を愛する男ですが、のちに野人とあだ名されて……


メガネは登場するたびに残念さが増していくんですが、メイのことを崇拝している節があり、彼女にとっては徐々に都合のいい男化していくが、いかんせんいい人なんだろうけども……という欠点あり。


もう会いたくないっとメイもなるんですが、彼が過去の辛い経験をもとに開発した防犯システムが認められ、重要人物になっていき、同僚から色目を使われるようになると、メイもその気になって来るという、そこんところが笑える(?)


謎のレモン男は、たぶんこの人の正体は○○だろうな、と思いながら読んでいると……まぁ、その通りなんですが、そこの謎よりも、メイが彼の正体に気づくのだろうか、気づいたらどうなる? っという関心で興味を引っ張っている印象。


アニーとの友情や両親との関係などが、物語の進行に合わせて変化していき、メイの中で、正義や責任、貢献や人類愛、プライバシーと知る権利、自由と身勝手、秘密と嘘などなどに翻弄されていくさまがリアルで、読んでいて狂人であるはずの人物の発言に納得してしまいそうになるのは、私もいよいよ危ないのかもしれない。


やがて来るという「完全化」した世界とは平和な世界なのか、それとも……


自身に付けられるランキングに一喜一憂したり、相手を不安にさせないためにマメな交流に気を使ったりといった箇所が「笑い」の部分なのだろうけど、なかなか笑えないのが、出版から四年ほど経っているからなのかな、と思うとぞっとする。



ネットを介してのコミュニケーションに必死になっている人と、まったく関心のない元カレのような人とでは、本書を読んだ感想が違ってくるだろうな、という内容でした。分厚いですが、読んで損はないと思いますよ! 

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