第5話 真相
「ねえねえ美南、ちょっと、相談に乗ってもらっていい?」
美果はその日の晩、家に帰ると、早速美南に電話をかけた。
そして美果は、降霊術の結果から、直樹の手がかりを探しに、直樹の実家のある山北へ行ったことなどを、美南に説明した。
「そっか、大変だったね。
それでどうだった?直樹さんの手がかり、掴めた?」
「うん。それが、ね…。」
美果は、その日、直樹から久しぶりのメールが来たこと、またその内容を、美南に話した。
「えっ、そうなんだ。なんか、意外な展開だなあ…。
でも、直樹さんは美果がその、『象の公園』にいるって、分かったんだよね?」
「そうみたい…。」
「じゃあ、やっぱり直樹さんは、地縛霊かもしれないね。
それで、美果が自分の居場所に来たから、それに反応して、メールを送ったのかも…。」
「やっぱりそうかな?」
「とりあえず、明日その、象の公園に、行くしかないね!」
「そうだね…。
それで、一応美南も行ったあそこのおばあさんからは、
『心当たりの場所が見つかったら、あたしがその場所へ、交信の道具を持って行ってあげよう。』
的なこと言われたんだけど、おばあさんに、相談した方がいいのかな?
明日はあそこの小屋は休みだけど、特別に出張サービスはしてくれるみたいだし…。」
「そうだなあ…。
でも美果は、直樹さんから直接、メールをもらったんだよね?」
「うん…。」
「それって、その時は分かんなかった、ってか想定してなかったことだよね?」
「そうだね…。」
「それでその文面に、
『逢いたい。』
的なこと書いてあるんだったら、ひとまず美果が1人で、そこに行ったらいいんじゃないかな?
それで直樹さんに逢えなかったら、またおばあさんに、頼めばいいことだし…。」
「…それもそうだね、美南!ありがとね!
私、最近はホントにいっぱいいっぱいで、ごめんね。
でも私、美南が友達で、ホントに良かった!」
「何それ、大袈裟だよ…。
でも、こちらこそありがとう!
じゃあ明日、頑張ってね!」
「うん!」
美果はそう言い、その日の美南との電話を終えた。
そして、翌日、日曜日がやって来た。その日は美果の住んでいる所も、象の公園のある山北も快晴で、すっきりした天候であった。そんな中、美果が再び山北の象の公園に行くと、そこには、直樹が立っていた。
「久しぶりだね、美果。」
「直樹…。」
美果は、直樹の姿を見て、涙が出そうになったが、何とかこらえた。
「…元気だった、美果?」
「うん。元気だったよ。」
「…良かった。美果が元気そうで、何よりだよ。
今日は、美果に大事な話があって来たんだ。
美果、実はね…、」
「待って!」
美果は、直樹の言葉を遮るように、こう叫んだ。
「直樹、言わなくても分かってるよ。私たち、もうこれ以上、付き合えないんだよね?
でも、それでもいい。私、今日は直樹に、『ありがとう』って言いに来たんだ。
直樹と私が、これ以上付き合えなくても、一緒に過ごした私たちの時間は、かけがえのない想い出だよ。
それは、変わることがないから…。
だから、直樹、自分を責めないで。
私、直樹と出会えて、本当に良かった。
だから、直樹が本当は、『幽霊』でも、私は直樹のことが好き。
今までありがとう、直樹。」
「え、ちょっと待って?『幽霊』って、どういうこと?」
美果の話の途中まで、感極まっていた直樹であったが、「幽霊」の二文字を聞き、直樹は怪訝な表情をした。
「え、直樹は、幽霊なんじゃ…。
それとも、自分では気づいてないの?」
「いや、僕は幽霊なんかじゃないよ…。
ごめん、美果の話は後で詳しく聞くから、先に僕の話、していい?」
「う、うん、いいけど…。」
「実は、僕には、美果と付き合えない、理由があるんだ。
僕は、実は、『未来から』来てるんだ。」
「…えっ!?」
「今から話すこと、信じられないかもだけど、全部本当のことだから、よく聴いてね。
実は僕は、美果の暮らしている、2017年から91年後の、2108年、年号で言うと、『法化』20年から、タイムトラベルをして来たんだ。」
「2108年!?ホ、ホウカ?」
「そう。法化。
確か美果の住んでる時代は…、メイジ、タイショウ、ショウワ…、」
「平成だよ。」
「そう、ヘイセイだね!
ちなみに、一応補足だけど、僕の住んでいる時代は、
『‘08(H20)』
って、表記するんだ。
表記方法は、昔と変わってないはずだけど…。」
直樹は、ポケットからメモを取り出し、そのメモに数字を書きながら、分かりやすく説明した。
「ごめん。話を元に戻すね。
それで、2108年現在では科学が発達して、タイムマシンが発明されて、人類は簡単に、過去や未来に行けるようになったんだ。
そんな中、たまたま僕は、過去にタイムトラベルをしようと思い立って、2016年の日本の、自分の故郷の近くに遊びに来た、ってわけ。
そこで、僕は2016年の人々がやってるのと同じように、地下鉄に乗ってたんだけど…。
そこで僕は、はっとした。そこには美果がいて、他のみんなと同じように、地下鉄に乗っていた。でも、その時の僕には、美果が他の誰とも違う、特別な人に思えた。それで、美果の周りだけ、キラキラしたオーラが出てるようにも、感じられたんだ。
これが俗に言う、『一目惚れ』ってやつだね。僕は、今まで一目惚れなんてしたことがなかったから、自分でも、こんな気持ちになったことに驚いた。でも、そういう気持ちを、僕は止めることができなかった。
ちなみに、2108年の世界では、タイムトラベルをすることは自由だけど、旅行先で出会った人、僕から見て過去や未来にあたる人との交流は、原則禁止されているんだ。だから僕は本当は、美果に話しかけることはできない、そういう決まりだった。
でも、1度火がついた僕の気持ちは、止めることができなかった。
『僕は、この人のことが好きだ。でも、
『付き合って欲しい。』
なんて、無責任なことは言えない。ただ、僕は…、
この人と、話がしたい。』
僕はそう、思ったんだ。
でも、初対面の女性に、いきなり声をかけるなんてできないよね?そういうこと、得意な人もいるかもしれないけど、僕は得意じゃないから…。それで、『どうしよう?』って思ってると、たまたま美果が携帯を落とした。そして、僕はそれを拾って、美果に渡すことになった。
でも、その時も僕は、迷ってたんだ。美果に携帯を渡した後、美果のアドレスを訊くことはできるかもしれないけど、それはルールで禁止されている…。それに、もし、万が一僕と美果が付き合うことになったとしても、僕は、2108年の世界に、帰らないといけない。ということは、美果とずっと、一緒にいることはできない。そんな僕が、美果に声をかけるなんて、逆に美果を不幸にさせてしまうんじゃないか、ってね。
それで、僕は悲しい気持ちになった。せっかく出会えた人なのに、好きになった人なのに、僕はその人とは、一緒になるどころか、連絡を取り合うこともできない。そんなの、あんまりだ…。
待てよ?確かに、僕はこの人とは、付き合うことはできないかもしれない。でも、連絡先を交換して、少し話をするだけなら、問題はないかもしれない。本当はルール違反だけど、それくらいなら、許されるだろう…。僕はその瞬間、そう思って、美果に声をかけたんだ。
『すみません。突然で、びっくりするかもしれませんが…、
僕、あなたともっと、話がしたいです。
あなたの連絡先、教えて頂いても、よろしいでしょうか?』
ってね。
それから僕たちは、知っての通り、どんどん仲良くなっていったよね?僕は、美果といろんな話ができて、本当に楽しかった。だから、美果が勇気を出して、僕に告白してくれた時、僕は、嬉しかった。自分が大好きな人が、自分のことを、好きでいてくれる…。僕は、これ以上の喜びはない、そう思ったよ。
でも、それと同じくらい、僕は悲しい気持ちにもなった。せっかく両想いになれたのに、僕は、美果とずっと、一緒にいることはできない。僕は、美果から見て未来の世界に、帰らないといけない。それで、美果の笑顔を見る度、どんどん辛くなって…。
だから、中途半端に、『別れよう。』って、言ったんだ。
でも、
『このままではいけない。』
僕はそう思った。本当のことを言ってしまったら、美果を傷つけるだけかもしれない。自分が美果を振って、美果に嫌われた方が、楽かもしれない。でも…、
それはお互いにとって、良くない。
僕はそう思って、美果に本当のことを言おう、そう思ったんだ。
話を聞いてくれてありがとう、美果。
大好きだよ。」
「そう、だったんだ…。」
美果は、直樹から告げられた衝撃の真実を、頭の中で噛み砕こうとした。直樹の話は、びっくりするような内容であったが、何とか美果は、理解することができた。
そして直樹は、直樹が以前、(2016年現在の世界で)借りていたマンション、(直樹はそのマンションを、2016年の世界での拠点にしていた。)また象の公園が、過去と未来をつなぐ時空の窓口になっていること、タイムトラベルは、その時空の窓口を基準にして行われること、そしてその時空の窓口の1つである象の公園に、美果がたまたま入り、直樹の携帯にそのことを知らせる着信が入って、直樹は美果がその場所にいることを知ったことを、簡単に美果に説明した。
「なるほど。だから山北ニュータウンを私がいくら探しても、見つからなかったんだね。
あと、象の公園が、直樹の言ってたのとは違って新しいのも、これで納得。」
「そうだね。
ちなみに山北ニュータウンは、僕が生まれる少し前に作られた、って聞いたよ。つまり、美果にとってずっと先の、未来だね。
あと、象の公園は、美果の暮らす時代から、僕の時代まで、ずっと存在してた、ってことだね。まあ、何回かは改修されてるだろうけど、オンボロなのも無理はないよ…。」
「じゃあ、直樹は私と出会ってからずっと、この世界、私にとっての現在の世界で、あのマンションで過ごしてたの?」
「いや、そういう訳じゃないよ。
僕も仕事があるから、美果にとっての未来の世界で仕事した後、現在の世界に来て、美果と逢ったりすることが多かったかな。
だから着替える時間もなくて、スーツ姿で美果の所に行ったこともあったよね?」
「うん…。」
「それで、2016年現在の世界の拠点として、時空の窓口にもなっているあのマンションを借りて、その部屋でも過ごせるようにしてたんだ。
まあ、あのマンションで寝て、それから未来の世界に出勤、ってことも多かったね。」
「そっか。そうなんだね。
私てっきり、直樹が幽霊なのかって、思ってた。」
「それなんだけど、美果は何で僕が幽霊だ、って思ったの?」
「だってそれは、スマホである記事を見て…。」
そう言いながら、美果は、はっとした。
「…直樹、ちょっと質問があるんだけど、
直樹は、2108年、その、法化20年の、何月何日から、ここへ来たの?」
「えっ、それは…。
1月、30日だよ。」
と、いうことは…。
美果の中で、嫌な予感がした。
『ここ、象の公園も、直樹の前のマンションと同じ、時空の窓口だ。』
そう思いながら美果は、スマホを取り出した。
そして…、
美果のスマホには、以前直樹のマンションで見た記事が、再度載っていた。
「直樹、これ見て…。」
―【未解決事件】
山北ニュータウン一家殺人事件
犯人は未だ逮捕されず、逃走中。
詳細:,08(H20)、4、1 山北ニュータウンに住む、
高浜良幸(たかはまよしゆき)、和子(かずこ)、直樹(なおき)さん一家が、殺害された事件。現場は荒らされており、警察は、強盗目的の殺人事件として、捜査中。―
「これ、直樹の家族?」
直樹は、美果の携帯を見た瞬間、言葉を失った。そして、直樹は何とか声を絞り出し、こう言った。
「…これ、僕の家族だ…。
と、いうことは、
2108年、法化20年4月1日、僕にとっての2ヶ月後に、
僕たち一家は、殺される…!?」
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