開店前の一コマ(納品のお話)

「ざいまーす。人生に疲れたブルドックみたいな格好してますよ竹鋸さん」


 おはようございます。早朝からセンスのえる例えですね。

 いや、今日の納品の量を見て、とうとう十二月に来るんだなあ……と。


「わたし新入社員なんで初めての年末なんですけど、何かマズいんですか?」


 とりあえず仕事着に着替えて倉庫に行きましょうか。十二月のドラッグストアの営業について話をしましょう……。



「ぎゃっ、商品が要塞のごとく積み上がっています! 何が攻めてくるんですか⁉」


 いよいよ年末商戦の開始ですよ。他の業界と同じく、ドラッグストア業界も十二月は一番忙しい時期なんです。

 納品量はじわじわ増えていたんですけれど……今日は格別ですね。ただでさえ狭い倉庫が、すれ違うこともままならない通路幅になりました。

 

 カイロを中心とした季節商材はもちろん、宴会シーズンに欠かせないドリンクや胃腸の薬、年末に向けての掃除用品買い揃え需要、スーパーに負けない価格の食品などなど……売り上げはもちろん、一日の客数もぐんと増えるので、大変だと思います。


「だからって、急にこれだけの量が入ってくるなんて。誤発注ですか?」


 間違いならまだいいのですが、今回の大量納品は『送り込み』なんです。


「送りこみって、各店舗での発注とは別に入荷する商品のことですよね」


 その通り。本部の仕入れ担当者バイヤーが仕入れた商品を、複数の店舗に振り分けて配荷するのが送り込み。もちろん拒否はできません。

 ドラッグストアに限らず、小売業では珍しくない仕組みです。


 新商品や季節的に需要の高い商品、話題の商品なら売りやすいのですが、たまに「これは微妙」と思ってしまう送り込みもありますね。おっとこれは内緒で。

 あとは一つの商品を倉庫を圧迫するほど大量に送り込んできたり……それが続くと、毎日がリアル倉庫番です。あ、倉庫整理に頭を使うって意味です。


「なんで本部は余すほどの在庫を確保しちゃうんですか?」


 大量注文によって買値に有利な条件を提示できたり、取引先からお願いされたりとか、いろいろ理由あるらしいです。昔、会議でそんな話を聞きましたが、現場の人間にはあずかり知らぬところ。

 店舗側としては、一日でも早く売り切るように工夫するしかありません。


 少し話がずれましたね。とにかく十二月は繁忙期はんぼうきなので、体調を崩さないように気をつけてください。

 なんて、おはようからおやすみまで働いてもらって勝手なお願いですけど……ハァ。


「ため息をつくと、幸せが逃げるうえに寿命が一年縮むらしいですよ」


 幸運の数値リアルラックもゲームプレイ中のアイテムドロップ率に影響しますからね、逃さないよう自粛しましょう。


 毎年のことですが、こんな日がいま以上に増えるかと思うと……最近は作品を読むのも滞っているし、明日からピヨリーナの第二話投稿も始めるのに……。

 さすがに十二月はカクヨムライフをスローペースにしないと、首が回らないかもしれません。



「竹鋸さーん、商品が多すぎて棚に全然並びません」


 でしょうね。じゃあ店頭や通路にも場所を作って展開していきましょう。広告ポップや見せ方、陳列場所の工夫で少しでも手に取ってもらえる売り場づくりが大切です。


「あとおまけつきが多くて、これも棚に並びません」


 おまけではなくて、本体と詰め替えのセット商品ですよ。

 年末だけの特別品ってわけじゃありませんが、やはり数は多い気がしますね。まあ売れるのは早いですし、目立つ場所に優先的に展開していきましょう。


「わたし実家暮らしなんで買いませんけど、ちょっとお得なんですか?」


 だいぶお得ですよ。そうですね……例えばこの洗剤、商品単体とセット品の値段を比べてみてください。


「バラバラに買うより100円くらい安いかな。同じ商品なのに……なんでです?」


 実は私も詳しくありません。ですが、セット品はお財布に優しい価格設定になっていることが多いかな。生活消耗品は必要経費なので、安く買えるのは嬉しいです。

 もちろん全てに言えることではなく、各店舗や企業によっても異なりますよ。


 基本的にこれらも送り込みで入荷することが多く、数量限定品のため、店舗で発注しても再入荷できない場合が多いです。


 セット品は洗剤に限らず、ハンドソープ、空間消臭スプレーなどもありますね。シャンプーとコンディショナーのセット品もよく見かけます。

 売れたらお終いなので、見かけたらラッキーだと思って購入を考えてもいいかもしれません。それくらい、買う側にとってはお得です。

 

「じゃあたくさん作ってくれればいいのに。そしたら人類はハッピーなのに」


 きっといろいろ事情があるんですよ。利益の問題とか、生産スケジュールとか。

 特に季節品は生産終了が早かったりするので、シーズン真っ盛りの時期に入ってこないことも多々あります。生産側も在庫を抱えたくありませんからね。


 夏の商品で、衣服に吹きかけるとひんやり涼しくなるスプレーとか、水にぬらして首に巻くと冷たくて気持ちいいスカーフとかあったじゃないですか。

 あのへんの冷感商材、八月にはもう生産終了して、ほとんどが入荷不可能でしたから。一番必要な時期なのに……私たちにはどうしようもないのですが。


「でもクレームは販売店に来るんですよね。こっちだって入荷したいっつーの!」


 他の店舗にあれば取り寄せもできるんですけどね。人気商品の場合はそれも難しいので、あまり期待をせずに声をかけていただければと思います。


 さて。そろそろ開店前のミーティングを始めましょうか。残りは営業中に片づけていきましょう。荷物で通路を塞がないように、スペースの確保をお願いします。


「了解ですっ! まだまだ未熟者ですが、忙しい年末に向けて頑張りますよ!」


 ああっ若さが眩しい、当てられて灰になりそうなくらい純粋! 私も新入社員の時はこんな活力に満ちていた……気がします。

 それが今は、ぎっくり腰に怯えながら荷物を持つ毎日。腰をやると大変なので、年齢に関わらずお気をつけください。これは切実な話です。

 

 2018年も残り一か月、体調に気を配りつつ乗り切りましょう。

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