かゆい足を穏やかに(水虫治療薬のお話)

 洋服屋さんのショーウインドウには、早くも夏のアイテムが展開されていますね。「また夏が来るのか……」と季節を感じている方も少なくないかと存じます。

 

 流行に敏感なファッション業界のように、ドラッグストアでもワンシーズン先を意識した商品を展開しています。

 医薬品コーナーでは虫刺されに関するお薬と、水虫のお薬が代表的でしょうか。


 今回は後者を取り上げた話を書こうと思います。



「水虫って、ブツブツして足がかゆくなるやつ?」


 その通りです。ちなみに『水虫』という虫はいません。……あ、ご存知でしたか。


 じゃあなんで水虫と呼ぶのか?

 昔は、田んぼで作業する人がかかる病気だったのですが、当時の人たちは「水の中に虫がいるんじゃあ、そいつらが刺すから、水ぶくれができてかゆくなるんじゃあ」と思いこんで、水虫と命名したそうです。ある意味シンプル。


 水虫の正体は、白癬菌はくせんきんと呼ばれるカビの一種。

 こいつが皮膚に付着して、感染することでかゆくなっちゃうんです。

 高温多湿を好むので、夏や梅雨どきが繁殖期なんですね。


 水虫は全身に感染します。足だけじゃないんですよ。

 ただし、症状が現れた部位によって名称が異なります。頭なら白雲しらくも、体なら田虫たむし


 足の病気だと思われているのは、普段の生活でもっとも暖かくて湿った場所が靴の中だからでしょう。仕事中なんかはどうしても蒸れるんですよね。

 そして働いている人はなかなか病院に行く時間がない。だから市販のお薬でセルフケアしようと、ドラッグストアに来店されるわけです。



 水虫の治療薬ですが、2000年を過ぎたころと比べると、売り上げがだいぶ落ち着いているそうです。

 効き目ないからじゃありません。良く効くから治ってしまい、売れなくなったのです。なんとも皮肉な話じゃないですか……。


 まあ他にも、靴の通気性向上や、靴下の抗菌属性付与も大きく貢献しています。

 人類の対水虫装備は常に進化し続けているのです!



 では兵装の要である水虫薬のスペックを紹介しましょう。

 どの会社も「クリーム」と「液体」の2タイプを発売しています。基本的に成分は同じです。


 クリームタイプは標準型。

 足の指、足の裏、踵など場所を選ばず、ぐじゅぐじゅしたフィールド、カサカサしたフィールドのどちらにも適応できるオールラウンダー。

 初心者や、どのタイプを買えばいいのか迷っている人は、こちらがよろしいかと。


 液体タイプは浸透・集中型。容器がノズルになっている物が多いので、患部にピンポイントで攻撃できます。

 指の間などの狭い場所に突入しやすく、カサカサ状態や、水ぶくれの水虫に向いています。手を汚さずに使用できるのも利点。


 この他にはスプレータイプの放射型もあり、こちらは手軽さと攻撃範囲の広さが魅力です。


 それぞれに特徴がありますが、使いこなせなければ性能を発揮できません。格闘ゲームと一緒です(違う)

 そこでバランスの良いクリームを例に、使用方法を簡単に紹介します。


 白癬菌は自分のいる拠点から放射状に勢力を拡大していきます。そのため、外から内側に広く塗りこむと効果的です。菌どもに人類の英知を味あわせてやりましょう。


「Oh shit! 治ったと思ったら奴ら……まだ生きてやがった!」


 油断してはいけません。倒したと思っても、角質層の中で生きながらえているのです。殲滅させなければ、エイリアンシリーズ並みに長い戦いを強いられるでしょう。


 白癬菌は皮膚自体を防御壁とします。特に足の皮は厚いため、薬を浸透させるには時間と根気が必要です。


 足の皮膚が生まれ変わるサイクルは40~50日と言われています。

 そのため、従来の皮膚に感染した菌を完全消滅させるためには、多く見ても2か月間の戦闘期間を想定しなければなりません。

 辛い戦いですが、兵装の威力に間違いはありません。戦いの先には約束された勝利があるのです。諦めずに使い続けてください。


「争いは何も生まない。まず戦いにならない状態を作るべきじゃないのかい?」


 おっしゃる通り。感染しないのが一番です。

 最も有効な手段は「清潔な環境を保つ」こと。

 入浴時にしっかり洗うのはもちろん、履物の手入れも菌の繁殖を防ぎます。


「イヤァァァ! 菌がッ、菌が私の体にィィ!」


 落ち着いてください! 奴らはすぐに侵攻を開始するわけではありません。

 環境にもよりますが、菌の増殖には約24時間を必要とするそうです。

 だから一日一回、しっかりと洗って排除しましょう。



 五月の半ばですが、水虫治療薬をお求めに来店される方は少なくありません。


「水虫の相談をするのって、なんだか恥ずかしい……」


 声のひそめ方でお気持ちをお察しできます。

 私が接客させていただくときは、声量を落として会話し、直接的な単語は出さずにご説明しています。

 お買い求めになった商品は、外から見えない袋に入れる決まりなのでご安心を。


 水虫はセルフケアでも十分対処できる症状なので、かかってしまったと絶望せず、前向きに対応して夏を乗り切りましょう。

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