第5話 中途半端で諦めたがり
僕は臆病だ。約束も果たせず世界を眺めている。約束を守るという簡単な事も出来ず夢のような場所にいる。
手にある銀色の意味を知っているからこそ僕は彼女を撃つことができないのだ。十年も覚悟を決める事も出来ない。それが正しい事だと思えない。悪役を殺す弾丸を放つ事を心が否定する。悪役なのに英雄の彼女を殺すことは僕にはできない。
こうやって理由を並べても変わらない現実に文句の一つくらい言っても良いと思う。
停滞した世界の空は灰色に染まっている。雨が降るわけでもなく晴れるわけでもない中途半端な空。この世界にはピッタリだ。
太陽の在り処を僕は探す。雲に隠れた太陽を見る僕は探す。無駄だと分かっているけれど探す。中途半端なままが嫌だった。何様のつもりだと自分に問う。自分が一番中途半端なのに。
振り切った正義は悪だと誰かは言った。犠牲を気にしない正義は悪そのものだと。
なら犠牲を気にする悪は正義なのだろうか。悪人にだって正義はあるはずだ。それを信じて悪人になったのだ。
なら、この世界はきっと間違ってる。大衆の意見が正義でありもしない定義に則った悪が悪なのだ。
結論の出ない問いのようなものだろう。正義も悪も初めから無いようなものなのだから。
間違った答えを出すのは嫌いだった。子供の頃から間違っていることが嫌いだった。間違えないことが正解だと思っていたからだ。それが間違いだとは気づきもしなかった。誰かを間違えてると決めつけていた。自分の物差しだけで測っていた。間違いを強要していた。
だから僕は臆病になった。この引き金を引くことができるのだろうか。今、彼女の額に当てている銃は震えていて、まるで撃てそうにもない。
「ねぇ、ショーゴ。これは間違ってないよ。正しい事なの。悪役は倒さないといけないでしょ?」
「…何でティティはそんなに死にたがるの?」
この問いに彼女は当たり前のように言葉を並べた。
「だって、私は悪者で悪役なんだもの。それなら早く死ななきゃね」
「ティティ…」
彼女はきっと普通の女の子なんだろう。少しだけ間違えただけの女の子。
そんな彼女を僕は殺す。彼女の為に殺す。
そう覚悟を決めた僕の目を見てティティは微笑んだ。
「ショーゴ…私ね?あなたのことが大好きなの」
「……この場面でそれはずるいよ」
「でも、今しかないし」
僕たちは笑っている。こんな中途半端な世界で本当に笑っている。
「じゃあね、ティティ」
僕がそう言うと彼女は笑顔で
「じゃあね、ショーゴ」
そして僕は引き金を引いた。震えは収まっていて外れることはなかった。白銀色の弾丸はティティの頭を撃ち抜いていた。
僕はティティを寝かせて、その隣に銃を置く。
「じゃあね、ティティ」
僕は最後の別れを言うとその場から去っていった。
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