第3話 眠る空は灰被り

——眠る。


世界の果てで一人きり。誰もいない籠の外で嘆く。ここはどこだと。


——眠る。


振り下ろされる死から逃げ惑う。壊れてしまった常識を疑って。


——眠る。


逃げ惑う日々に意味はない。そこに人はいない。だから戻ろうとしている。


——眠る。


降りかかる死に恐怖をする。籠の外の世界に恐怖する。それは当たり前のことだ。


——眠る。


結局何のために逃げ出したのだろうか。また、今日も戻ろうとしている。籠の中の暖かさに縋っている。


——眠る。


悪魔のような日々を生きる。地獄のような世界を見る。有ったものと無くなっていくものを見る。残骸に過去を見る。


——眠る。


生き残りたい。その感情が心を包む。どれだけ汚れたとしても生きたいのだ。幼すぎる少女が示した救いに縋りつくしかなかった。


——眠る。


なにをしたくて外に出たのだろうか。こんな限られた世界でも回っているじゃないか。わざわざ地獄巡りをするために外を夢見たのだろう。有ったものに夢を見たかったのだ。


——眠る。


籠の中の天国地獄は今日も変わらない。純粋な優しさと愛情で守られている。限られた範囲の世界。そんな中で幸福になって死ぬ。それがここで生きる人間の出来る事。


——眠る。


ここは監獄のようだ。楽園の皮を被った監獄だった。生き残りの人類のためじゃない、ただ一人のためにある監獄だ。鳥籠なんて甘いものじゃなかった。出られないのだ。ここからは出られないし連れ戻される。そういう風に出来ていた。


——眠る。


監獄を出た人間は少なかった。満足していたのだろう。無いような世界で輝く笑顔を見せている。諦めている。現状に満足している。けれどそれが正しい事だと思えてしまう。出られないのなら諦めて現状に満足すれば良い。そう、これは正しい事だ。正解なんだ。


——眠る。


意識は沈む。視界が霞む。眠るように息が止まる。満足することなく幸福になることなく諦めなかった結末が今だ。どうしても夢を見ていたかった。諦めたくなかった。ただ意地を張っていただけなのだ。そうして得たものは感謝もできない答えと理不尽な死だった。


——映る。


その笑顔は純粋無垢で真っ白だった。太陽のように明るくて暖かい子供のような笑み。消えかけの意識に問いかけるように答えは投げ出される。そして声も出せぬまま、悪役は退場する。悪い夢のようだった。見たくもない夢だ。けれど現実だ。だから与えられた結末を甘んじて受け入れた。


——答え。


ここは監獄だ。ただ一人の為の監獄だった—


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