第4話 恐怖の練習期間

むにっとマシュマロみたいに柔らかいなにかを掴んでいる。

「んぁ」

力を入れると呼応するかのように声が出ている。

(なんだろう、夢、?)

「いつまで触ってるのよッッ!」

エレナに思い切り殴られた。

「いたたた」

「気づかないくらい小さくて悪かったわねっ!」

顔を真っ赤にして出ていった。

「悠ちゃん、こんなところにいた」

「ん、綾羽。どうした?」

「どうした?じゃないよ。ここエレナちゃんの部屋だよ?」

そう言われて周りを見渡すと可愛らしいぬいぐるみが飾られている。

「・・・」

「昨日、寝ぼけたエレナちゃんが悠ちゃんの手を掴んでどっか行ったんだよね。私もあの後寝ぼけてたから追いかけなかったけど。まさか独り占めにするつもりだったとはね」

あの後っていうのは恐らく紫峰院先輩と話した後のことだろう。

「なにをしてらしたんですか?霧宮くん、綾羽さん?」

リビングへ行くと鬼のような形相をした紫峰院先輩が立っていた。

「えっと、、どうしたんですか?紫峰院先輩」

「どうしたもこうしたもありませんよ?体育祭ももうすぐだというのに仲良く添い寝とはいい度胸ですね。霧宮くん、エレナさん」

「ぅく、あ、あれには事情が、、」

「ななななななな、ち、ち、違うッッッッ!@$☆♪€ajvk@」

紅潮し、やかんのように頭から湯気が出はじめ訳の分からないことを喋る。

「「「「壊れた」」」」

「壊れたエレナさんは置いておくとして練習を私が特別にメニューを作ってあげることにしました」

「あ、でも、、」

「やめておけ、あーなった千冬は止めても無駄だ。とことん最後まで付き合うしかないさ」

「は、はい」


朝ご飯と掃除を終え、寮を出ると体操服をきた紫峰院先輩が立っていた。

「あそこの山が見えますか?」

「「「「えっとまさかとは思いますけど」」」」

「はい、あそこまで走ります」

「「「「鬼だっ!」」」」

「鬼でも構いません」

「私も」

と言って綾羽と一条先輩が紫峰院先輩と走り去っていった。

「さ、さっきはごめん」

いつのまにか正気に戻って、隣を走るエレナに謝る。

「いいわよ、でもその代わり、、」

「その代わり、?」

「今度、ふ、二人きりでどこかに」

「うん、それで許してもらえるなら」

「破ったらアルフェシアの名にかけてあんたを一生生きていけないようにするから、覚悟しなさい」

「こわっ、、」

「やっと、デレたなのです。エレナちゃん」

「デレてないッッッッ!」

シャァァァッとエレナが可愛らしく猫みたいに威嚇する。

(それ、芽亜李には逆効果な気がするぞ)

芽亜李が可愛らしく威嚇しているエレナを携帯で連写した。

「璃世は確か陸上部だよね?」

「うん、でも得意なのは短距離だけど長距離はあんまし、、」

「僕もだよ。長距離は嫌だな」

「悠里くんと一緒だなんて嬉しいよっ!」

にぱぁと笑顔になった璃世が女神のように見えた。

(騙されるな、悠里。璃世は可愛いが男なんだっ)

「う、うん」

「が、頑張ってくださいなのですっ」

さっきまで争っていたエレナと芽亜李が折り返した。

「逃げたな」

「はぁはぁ、僕ももう限界だから帰るよ」

山の近くに来た頃には自分だけだった。

(そう言えば見覚えあるな、ここ)

このへんに住んでいた時によく遊んでいた公園に入る。

「「ここらへんでよくチフ(ハルくん)と遊んだな(遊びましたね)」」

隣を見ると紫峰院先輩がいた。

「「ーッ⁉︎」」

「まさかチフ?」

「えっと、もしかしてハルくんですか?」

携帯につけていたストラップのウサギを見せると紫峰院先輩もお揃いのウサギを見せる。

「ひ、久しぶり、チフ」

「は、はい、久しぶりです。ハルくん」

気まずい雰囲気になり、謎の間が空く。

「でも気付かなかったよ。僕の知ってるチフは引きこもって全然顔だしてくれなかったから」

「ハルくんはものすごくしつこかったですけど、毎日来てたじゃないですか。でも、ハルくんと初めて遊んでくれたのが本当に嬉しくて楽しかったです」

「うん、僕も楽しかったよ」

「ハルくんが急に転校したって聞いて悲しかったし辛かったです。再会できるなんて夢にも思わなくて、、」

「ごめん、心配かけて」

「本当ですよっ」

「そろそろ帰らない?日も暮れてきたし」

「そうですね」


寮へ帰えると全員ヘトヘトだった。

「二人とも何してたの?」

「「何もしてない」」

「じゃあなんで帰ってくるの遅いの?」

「いや、みんなが帰ってくるの速いだけ」

「かかっても三時間だよ?二人はもう四時間過ぎてる」

「じ、実は、、、」

さっき公園であった出来事を全て話した。

「「「「「幼馴染みッッッッ⁉︎」」」」」

全員が驚愕している。

「う、うん」

「はい、将来も誓い合いました」

「チ、チフ、それは余計っ」

「なっ、幼馴染みが他にもいたなんて、、わ、私だって悠ちゃんと風呂にだって入ったことあるもんっ」

「綾羽、張り合ってどうするんだよ」

「ぬ、ハルくんとお風呂、、、ハルくん今日一緒にその、、お、お風呂に入りませんかっ⁉︎」

「ダメに決まってるじゃんっ!何言ってんの⁉︎、チフ」

「この女とは入ったのに私とは入ってくれないんですね。分かりました、ハルくんを殺して私も死にます」

「怖っ。お、落ち着いて」

「じゃあ、入ってくれるんですねっ」

「だから、それはダメだって。普通に寮でそんなことしたら退学になるよ」

「そうですよね。諦めます」

チフがシュンと落ち込む。

「と、とりあえず明日の練習はみんなで考えよう。さ、流石に今回のは二日連続はちょっとね」

「ハルくんに嫌われたハルくんに嫌われたハルくんに嫌われたハルくんに嫌われたハルくんに嫌われたハルくんに嫌われたハルくんに嫌われたハルくんに嫌われたハルくんに嫌われたハルくんに嫌われたハルくんに嫌われた」

チフは隅の方で座り込み、呪文のように同じ言葉を繰り返し発している。

「はぁ、チフ。僕は君のこと嫌いになったわけじゃないよ。綾羽と入ったのは何年も前の話だよ?それに僕達は高校生だから一緒に入ったら間違いを起こすかもしれないし、ね?」

「う、、約束守ってくれるなら」

「ぐ、、」

「やっぱり嫌なんだぁっ!」

また隅で呪文を唱え始めた。

それから何時間もかけてやっと落ち着いた。

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