第71話 本家姉妹の事情

「あれっ !? 王子もう来てたんだ!」

 姉妹3人は王子の出迎えに驚いた様子だったが、お互いに嬉しそうな笑顔を見せた。

「街に買い物に行ってたの?」

 王子が訊くと、

「うん、何しろ王子が来るんだからねぇ、今夜はご馳走だぞぉ!」

 お姉ちゃんたちはそう言って右手でVサインを作ってみせた。

 …その後、姉妹3人はヤイ叔母とさっそく夕飯の仕度にかかり、少しして集落内の雪かき作業から清吉叔父も帰って来て家の中に活気が戻ったのであった。

 ただし、東勝さんはまだ3月中は東京近郊に出稼ぎに行っていて不在。

 次女タマイは群馬県に嫁に行ったので、これが今日の全家族である。

「王子!…コーヒー飲む?」

 …夕御飯の仕度が一段落したのか、ミツイがそう言ったので、砂糖とクリープをたっぷりリクエストして淹れてもらう。

「…実は、この春でヨシコが高校が終わって就職するのと、トシコが中学を卒業して春から長岡の高校に行くから2人はこの家を完全に出ちゃうんだよ!」

 炬燵で王子とコーヒーを飲みながら唐突にミツイが言った。

「えぇっ !? 」

 王子が驚くと、ミツイは言葉を続けた。

「街の高校に通うのに竹之高地からじゃ無理だしねぇ…バスも来ないし雪が降ると全く動けないだろう?…」

 確かにその通りなので王子も頷くしか無かった。

「だからこの春休みが家族みんなが揃って過ごせる最後なんで、王子にも来て欲しかったって訳なの…!」

 …ヒサコの告白を聞いた時と同じように王子はちょっとショックを受けたが、顔には出さぬように努めた。…要するにここでもついにこういう時が来てしまったのである。


 …ところで長兵衛家のその日の夕御飯のメニューは、クリームシチューであった。

 はっきり言って王子の大好物である。

「凄~い!シチューだぁ…!」

「王子のために具材を街で買って来たんだよ~!」

「美味しいぞ~!」

 食膳の上にほわほわと湯気を漂わせるシチューの皿が並べられ、家族一同揃って笑顔の楽しい夕食である。

「…トシコちゃんは春から先はどうなるの?」

 クリームシチューをスプーンで口に運びながら王子が訊くと、

「長岡の街で下宿生活だよ~!」

 とトシコが嬉しそうに答えた。

 …王子はこの時ようやく気付いたのだが、彼女はやっとこの山中の集落から出て初めて華やかな都市の中に暮らすのである。

 年頃のお姉ちゃんにとって、それはとても嬉しく楽しみなことだったのだ!

 考えてみれば、今まで王子の家に住み込みで働いてくれてたお姉ちゃんたちも最初は皆そういう想いがあったのだ!

(そうだよな、そりゃ…!)

 トシコの笑顔を見て王子は心の中で呟いたのであった。

「さて、明日はみんなで裏山の向こうまでアズキ菜採りに行くよ !! 」

 御飯を食べながらミツイが言った。

「よ~し!じゃあ…王子も行く?」

 トシコが訊いてきたので王子は張り切って答えた。

「何か分かんないけど面白そうだから行くっ !! 」

「よしっ!それじゃあ明日は頑張るように !! 」

 …という訳で夕食の場は大いに盛り上がり、クリームシチューもみんなで平らげて竹之高地の夜は更けて行くのであった。


 …夜、布団を敷いてもらって就寝する時、王子にミツイが湯タンポを用意してくれた。

「ありがとう、ミツイちゃん…」

「フフ…王子、今夜はよく寝て、明日はしっかり頼むよ~!」

 ミツイの言葉に頷いて王子は股の間に湯タンポを挟んで眠りに就いたのであった。




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