第67話 奥日光の宿
…華厳の滝を見た後は、再びバスに戻って中禅寺湖に移動。…湖畔の船乗り場から遊覧船に乗って湖を横断する。
中禅寺湖は湖面の標高が1200メートル以上という高原にあり、湖の北側には日光連山の主峰男体山 (標高2486m)がそびえているはずだが、今日は周囲の山々の中腹から上はみな雲に隠れていた。
…静かな高原の湖の上を静かに遊覧船は進み、静かな湖畔の森の陰からこっち来ちゃいかがとカッコーが鳴く船着き場に到着。
下船後はみんなで湖畔にある鱒の養魚場を見学。
…水族館と違って地味なので王子はすぐに飽きる。
さらりと養魚池の魚影を眺めて再びバスで移動。
…次の停車地は竜頭の滝である。
竜頭の滝は、ボサボサと木が生えたゴロ岩斜面の上から二筋の水が段々と落ちてくるもので、滝と言うよりは急傾斜の渓流といった感じである。
…滝の前にはカメラで写真を撮っている白人観光客のご夫婦がいた。
「ハロー!」
「ハウアーユー !?」
「ハバナイスデー!」
さっそく子供たちがかろうじて知っているカタカナ英語で声をかけると、ご主人が苦笑しながら、
「Hello,Thank You!」
と、流暢な英語で応えた。
「グッバ~イ!」
…という訳で立派に国際親善交流を果たした子供たちは、外国からの訪問客に笑顔で手を振りながら、またバスに乗って奥日光のさらに奥へと向かう。
周囲はまた標高が上がって、戦場が原の湿原の中、車は高原ロードを快走する。
…次にバスが停まったところは奥日光高原のさらに奥にひっそりと水を湛える湯ノ湖という湖だった。
「湯ノ湖」と言っても貯えているのは冷たい水で、王子たちは湖畔の遊歩道をてぷてぷと歩いていよいよ本日の宿に向かう。
…今日は5月も下旬だというのに針葉樹の木々が寒そうな湖畔の道のあちらこちらには残雪の塊りがあり、ひんやりとする空気の中をしばらく歩くと、ようやく前方に奥日光湯元温泉の旅館やホテルが見えてきた。
…王子たち修学旅行生の到着した宿は「南間ホテル」というところで、名前とうらはらに普通の和風旅館であった。
子供たちはクラスごとに割り当てられた部屋に荷物を降ろし、お茶など飲んでちょっと寛いだが、遊び盛りの小学生が旅先の宿で大人しくしているはずもなかった。
「温泉大浴場に行こうぜ !! 」
みんなさっそくタオルを持って我れ先に部屋を飛び出して行った。
小学生たちは宿の中でも元気いっぱいである。
みんなで温泉大浴場にじゃぶじゃぶ浸かってはしゃいだ後は畳敷きの大広間でお膳を並べてキャッキャラお喋りしながら夕食。
…大広間には檀上の板舞台があり、夕食の後ではそこでクラス別の演芸会をやって盛り上がった。
と言っても子供のやることなので、内容は歌謡曲をコーラスしたり、笑点の真似事で謎かけをみんなでやったりと可愛らしいものである。
…演芸会が終わって各自割り当ての部屋に引き上げると、すでに布団が敷かれてあった。
そこで今度は部屋仲間どうしで枕をぶつけ合って大騒ぎした後、大汗かいてくたくたになり、ようやく子供たちは眠りに就いたのであった。
…翌朝、王子たち修学旅行生は起床すると、宿の外へ出て旅館の家並みを離れ、高原の野道をぞろぞろ散歩して湯元温泉の源泉湧出場所を見学に行った。
…源泉に近付くにつれ、周囲に強く硫黄の匂いが立ち込めてきて、みんなの顔にちょっと緊張感が走る。
源泉は宿から10分ほど歩いた先の野原に四角い木枠の井戸 (湯殿) があり、その中に自噴していて、湯気がしゅうしゅうと吹き上がっていた。
湯殿の上には小さな妻屋根が付いていて、遠くから見ると壁の無い小屋のような感じである。
だがこの時の王子は何しろまだ子供なので特に温泉に興味がある訳でもなかった。
「タダでこんなにお湯が沸いてるなんて、温泉旅館は儲かるなぁ…!」
王子の感想は全く能天気なものであった。
…朝食を済ますと、宿の前から再びバスに乗り、旅館の女将さんや仲居さんが手を振って見送ってくれる中を出発。
車は日光市街に向かって湯ノ湖から戦場が原へと帰りのルートを快走する。
昨日は船で横断した中禅寺湖の水面を右手に見ながらバスは湖畔の国道120号線をずんずん進んで行く。
帰りも例によって乗り物酔いのトナミ君をゾンビ顔にさせつつバスはぐるんぐるんと大きく回転しながらいろは坂を下って行くが、今日は車内の半分くらいの子供たちが眠りこけていたので静かな道行きであった。
…旅行2日目の見学のメインは日光東照宮である。
駐車場でバスを降りると、みんなはぞろぞろ歩いて玉砂利の敷かれた境内へと入って行った。
観光地としてあまりにも有名な日光東照宮は、しかし実際に訪れて見ると絵はがきにあるほどはキラビヤカでなかった。
左甚五郎による軒下の飾り彫りの「眠り猫」「三猿」なども特に子供受けするものでもなかった。
「ま、観光地なんてこんなもんよね…」的な醒めた感想とともに王子は東照宮を後にしたのであった。
…東武日光駅からの帰りの電車の中から、フクダ君と往路のときに見た「おっぱい山」を探したが、なぜか帰路の車窓からは見つけることが出来ず、それがちょっと残念無念な旅の終わりであった。
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