第65話 ローカル駅のナイアガラ
…という訳で極限状態に達した子供たちを前にして、ついに先生は車両後尾の乗務員室の扉を叩いた。
この状況を打開するため、乗務車掌と話をしに行ったのである。
…しかしその両者協議の間も、子供たちは股間を押さえ、内股で地団駄しながら苦悶の表情で我慢を続けているのだ。
「先生…まだかな?」
「僕もう、うぅっ! 限界が近くなって来た… ! 」
…子供たちが耐え難きを耐えているうちにいよいよ耐え難くなってきた時、ようやく乗務員室の扉が開き、先生が出て来て車両の中央に立った。
「え~今、乗務車掌さんと話をしてきたので、みんなよ~く聞いて下さい!」
先生の発言に、子供たちは皆授業中にも見せたことの無い真剣な顔をしておとなしく耳を向けた。
「この電車はこの後、次の駅に臨時停車をします!…ただし、後続の電車の運行時刻との関係で、停車できるのは7分間だけです!…なお、駅のトイレがさほど大きくないとのことなので、男性用も含めてトイレ使用は女子だけに限定します!…男子については…」
…なぜか一瞬そこで先生が間を置いたので、男子らは固唾を飲んで言葉の続きを待った。
「…男子については、ホームから外に向けて小用を足すことを認めます!…今回だけ特別に許す!以上っ!」
最後はもう半ばやけっぱち気味に先生が叫んで、子供たちには安堵のどよめきが起こったのであった。
…そうするうちに間もなく電車の走行に減速がかかり、北関東の田園風景の中のローカル駅に車両は停まった。
…ドアが開くと、子供たちは一斉に車両から飛び出して、女子は駅のトイレに走り、男子は停車した島式ホームの向こう端にずらりと並んでズボンのチャックを下ろして勢い良く放尿を開始した。
「へぁ~~っ!…」
苦しみから開放された子供たちから恍惚のため息が漏れたこの時、小さな田舎駅のホームから、銀色に光るレールに見事な黄金色のナイアガラがかかったのである。
…用を足して車両に戻る時、王子がふとホームの駅名標を見ると、「とうぶかなさき」とあった。
(ありがとう、とうぶかなさき駅…今日のことは大人になっても決して忘れないよ!…)
鉄道旅が大好きな王子は、心の中で呟いていたのであった。
大きな危機を脱した6年生一行を乗せた電車は再び動き出し、ほどなくして鹿沼市駅を通過すると、車窓に山が迫って林間を進む。
進行右手には線路に平行して例弊使街道の立派な杉並木が見え、左手にはぽこぽこと連なる山々が並んでいた。
そんな中に王子は、クラスメイトのフクダ君と一緒に鏡餅みたいに丸く柔らかい稜線の山を見つけたのである。
しかも山頂に何か大きな木があるのかポチっとした突起のシルエットが乗っていて、要するに形状がおっぱいそっくりなのであった。
…それを見た男子2名 (王子とフクダ君) は、
「うひゃ~!ボイン山だ~っ!」
と叫んで子供らしく無邪気に大喜びしたのであった。
…のっけから大波乱の旅となったが、それでもお昼前に電車は終点の東武日光駅に到着した。
子供たちは改札口を出て、ぞろぞろと日光市街の目抜通りを歩く。
…日光の町は日光連山の麓にあり、市街の通りは全体的に緩やかな登り勾配になっている。
しかし今日はもやっとした薄霧がこの観光都市を妖しげに包んでいた…。
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