第62話 笑う捜索隊

「サダちゃんを探せ~っ!」

「お~っ!」

 …と気勢を上げたいところを深夜なので自重して、静かに捜索隊は発進した。

 トラックの助手席に座った佐藤さんの指揮で、先ほど上野から社宅までタクシーが通ったと思われる道筋をゆっくり走りながらの捜索を開始する。

 …この頃はコンビニもファミレスもファーストフード店も無かったので、都内でも深夜の時間帯はひっそりとして暗かった。

「…だけど、走行中のタクシーから人間が消えるって、本当にそんなことがあるのかなぁ?…どうも今一つ信じられないぜ…」

 荷台の若い社員がボソッと呟いた。

 しかし同じく荷台に乗ったさっきの広光さんがそれに応えて、

「俺はそのタクシーに同乗してたんだ!…どういうカラクリで消えたかは解らないが、サダちゃんは確かに俺に続いて車に乗ったんだ!…俺の方が余計に信じられないよ」

 と言うのであった。

 助手席の佐藤隊長が窓を開けて荷台の隊員たちに、

「とにかく、何か発見したら知らせてくれ!すぐに停車するから!」

 と叫んだ。

 …トラックが会社の前の通りをゆっくりと隅田公園の方へと進んで行くと、荷台の隊員から声が上がった。

「倒れている人影を発見!」

 それを受けて、

「よし、ストップだ !! 」

 佐藤隊長が車を停めると、隊員らが荷台から飛び降りて人影の方へ走って行った。

「サダちゃんか~っ?」

 佐藤隊長が叫ぶと、確認を終えた隊員が戻ってきて報告した。

「ごろ寝してた浮浪者でした…!」

「…チッ!」

 隊長ガッカリである。


 …結局1回目の上野までの移動の間にはサダジを発見できなかった。

「…ルートを変えてもう1往復してみよう!」

 佐藤隊長がそう言って、トラックはあえて少し横道を進むことにした。

 …車は言問通りから千束の商店街に入って、中の通りをゆっくりと流して進む。

 真夜中なので各店舗はシャッターを閉めていて辺りは暗い。…その中を捜索隊員たちは眼を凝らして周りを見ながら進んで行く。

 …なかなかサダジを発見出来ぬまま佐藤隊長の気持ちにやや焦りが浮かんできた時、

「倒れている人影を発見!」

 再び荷台から声が上がった!

「よし、行くぞ!」

 トラックを停めて今度は全員が車を降りて目標物に向かって走る。…商店街の中、交差点の道路隅に倒れていたその人影は…!

「サダジさんです !! …こんなところに落っこちてた!…」

 発見者の若い社員君がいち早く顔を確認して叫んだ。

 佐藤隊長はしかし急に不安を覚えて、(ケガは?…無事か?) という懸念が胸中をよぎったが、みんなでサダジの様子を覗き込むと、

「…くか~……」

 何とサダジはイビキをかいて熟睡していた。

「………!」

「……… !?」

「…フフフフ!」

「アッハッハッハ!」

「ワッハッハッハ~!」

 …その幸せそうな寝顔を見た隊員たちは何とも言えぬバカバカしさに可笑しくなってしまい、真夜中の街角で大笑いしたのであった。

 …「よし、回収っ!」

 という訳でサダジは隊員らの手によってトラックの荷台に回収され、ひっ そりと寝静まっている社宅に戻ると、建物内のサダジの部屋の前の廊下にそのまま寝かされたのであった。

「…風邪ひくといけないから、誰か毛布でもかけてやってくれ!」

 佐藤隊長がそう指示して、隊員が対処した後、任務を終了した捜索隊は解散となった。


「…ということがあったんだよ、王子!…サダちゃんは凄いヤツさ!そんな中で最後までグ~スカ寝てたんだぜ!だから夜中のこんな事件を当人は未だ知らないはずなんだ!可笑しいだろ !?…君はお父さんのことを、ただ一生懸命働くだけの面白味の無い男だと思ってるだろうけど、けっこうとんでもない事をやらかすお茶目なところもあるんだよ!フフフ…」

 佐藤さんは得意げにそう言って笑った。

「…はぁ…」

 王子とフミはやや脱力気味にそう応え、うすら恥ずかしい気持ちになったのであった。


 …結局佐藤さんはサダジに会えぬまま帰って行った。

 その際フミは申し訳無さそうに、また今度休みの日にでも寄って下さいね!などと言って見送ったが、王子に「取って置きの話」を伝えた佐藤さんはとても満足そうな表情であった。

 …車内からサダジ消失の謎については佐藤さんが次のような推理を述べた。

 ①飲み屋が終わる時間帯はタクシーの稼ぎどきなので運転手は皆車を飛ばす。

 ②3人を乗せて交差点を高速で右折した際、後席左側のサダジはドアに押し付けられ、その時指先がドアレバーにかかった。

 ③遠心力によってドアが開き、サダジ転落。

 ④右折後運転手はハンドルを戻し、反動でドアが閉まる。高速コーナリングでタイヤが鳴き、ドアの閉まる音は気付かれなかった。

 …「ボクの生まれる前から…」

 王子は胸中でため息をつき、フミと顔を見合わせてお互いに苦笑いしたのであった。


 夜になってサダジが配達から戻ったので、フミが佐藤さんが訪ねて来たことを伝えると、

「そう !? …なんだ、待っててくれれば良かったのに…佐藤ちゃんは飲んべえでなぁ、ヘベレケになって酔い潰れた後昔は俺がよく世話を焼いてやったんだよ!フフフ…」

 サダジはそう言って笑うのであった。





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