第54話 恐怖!突然のMパニック

 帰りのボンゴ1boxの走りは快調だった。

 …以前苦労した上越国境の山岳地帯も今回は新しい道路が完成して楽しいドライブである。

 外からの風を窓から受け入れ、サダジはゴキゲンに車を飛ばして行った。


 竹之高地を早めに出発してきたこともあって、関東エリアに入っても大した渋滞は無く、北松戸までおよそ300キロの距離をほとんど一気に走り抜けて、夕方前にボンゴ1boxは家に到着したのであった。

「お帰りなさ~い!」

 車が着くと、すぐにヒサコらお姉ちゃん達が家から出て来て迎えてくれた。

「ただいま~!」

 と、言いつつ王子はしばらくぶりの我が家に何だか戸惑いを感じていたのであった。

「昔から竹之高地の子」でいるような気分が、まだ咄嗟に修正できないのである。

「…ところでマムシは大丈夫かな?」

 車から荷物を降ろしながらも、サダジはよほどその毒蛇が気にかかるらしく、途中でマムシビンを大事そうに抱えると、ダイニングに持って行ってテーブルの上に置いた。

「イヤッ!蛇 !? 」

 お姉ちゃん達が突然のマムシの出現に驚いた。

「お父さん!…どうするの?その蛇!」

 …とりあえず一段落するとフミが言った。

「他のビンに移す!」

 サダジはそう答えると、台所から空の一升ビンを持ってきた。

 マムシには独特の生臭い匂いがあり、そのままマムシ臭の着いたビンで造ると生臭い酒になってしまうので、まず別のビンへの移し替えが必要なのである。

 家族が不安げに見守る中、サダジはマムシビンの口に差してあった枝を抜き、2つのビンを横にして口と口を合わせた。

「よしっ!移れっ!」

 サダジがビン内の毒蛇にそう言ったが、マムシは動かずに不気味な舌をチロチロと出し入れするだけだった。

「そんな蛇がお父さんの言うことなんか聞くわけ無いでしょっ!」

 フミが呆れたように言った。

 サダジは今度はビンを縦に合わせてみた。…ちょうど砂時計のような格好である。そうすればマムシが下のビンに落下移動となるはずと考えたのである。

 しかし実際のマムシは上のビンの中でトグロを巻いているためなかなか思うように落下しなかった。

「くそっ!」

 …業を煮やしたサダジはマムシビンを持って上下左右に揺さぶった。

 すると中の蛇のトグロが解け、マムシの頭がビンの口からニュルンと出たと思った瞬間、みんなの見ているテーブルの上に毒蛇はボタッ ! と落ちたのである。

「ギャーーーッ !!!!」

 途端にお姉ちゃんとフミと王子の悲鳴が家の中に響き渡り、サダジを除くみんなは顔をひきつらせつつダッシュで玄関から我れ先に外へと脱出して行ったのであった。


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