第55話 サダジの高笑い

「あ~、怖かった!」

 …家を飛び出してきた王子たちは、北松戸の駅前広場の片隅に身を寄せ合っていた。

 外はまだ8月の西日が射していて暑く、みんなは駅舎の建物脇の日陰に移動して家の方を見つめた。

 だがしかし、家は見えてもその中の様子までは分からない。

「…マムシとお父さんはどうなったのかしらねぇ…?」

 …5分、10分と時間が虚しく経過するうちに、さすがに心配になってきたフミが呟いた。

「あんた達、ちょっと家の中の様子を見てきてくれない?」

 お姉ちゃん達にフミが頼んだが、

「嫌ですっ !! 」

 声を揃えて即答されたのであった。

 …しかしだからといってこのまま避難を続けていたところで何も解決する訳も無いのである。

 サダジの安否も判らず、家にも帰れず、ただ時間だけがずるずると経過して行く。

 …パニック発生から15分が過ぎた。

 結局、避難民たちは意を決してみんなで家に戻ることにした。

 …恐る恐る玄関を入ってダイニングに行って見ると、いったいどうやったのか、サダジはマムシの移し替えを済まして得意げな表情を浮かべていた。

「みんなの悲鳴に驚いて蛇が固まっているうちにチャチャッと移しちゃったよ!フッフッフ… !」

 そんなサダジの言葉にフミはむわむわとした、安堵と怒りと憎たらしさがない混ぜとなった気持ちを覚えたのであった。

「よし、じゃあマムシ酒を造るぞ!」

 サダジは張り切って宣言すると早速その作業に取り掛かった。

 と、言っても別に大したことをする訳ではない。

 移し替えたマムシの入っているビンの口から、焼酎をゆっくりと八分目くらいまで流し込むと、サダジはコルクの栓でビンの口を塞いだ。

 …完全密封されたビンの中の毒蛇はやがて苦しみ始め、ぐねぐねと身をのたうち回らせた。

 そして最後の断末魔の時に、喉の奥から紫色の球状の物体を、ベッ ! と吐き出した。

「マムシの毒玉だ!」

 サダジが言った。

 パチンコ玉くらいの大きさのその毒玉は、やがて焼酎の中にゆっくりと溶けて拡散して行くのである。

「…これであと一週間くらい寝かせれば飲めるぞ!」

 サダジはすっかり満足顔であった。

 マムシの毒は、例えば咬まれて血中に廻ると命をも落とす脅威となるが、こうして少量ずつ飲んで摂取すると有効な滋養強壮薬となるのだ。

 ちなみに、この酒造りの過程の中で、マムシ臭が気になる人は匂い消しのために赤紫蘇の葉を入れるので一般的にマムシ酒は赤くなるのだ。

「よし、上出来だ!ハッハッハッ!」

 一人悦に入ったサダジはゴキゲンに笑ったが、ふと気が付けば周りに家族は誰もいなかった。

 途中、マムシののたぐる姿がグロテスクで気持ち悪くなり、みんなそれぞれ自分の部屋に引っ込んでしまったのである…。


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