第37話 お姉ちゃん達の休日と王子の服
日曜日はフミの店の定休日である。
お店が休みの日のお姉ちゃん達の最大の楽しみは、何と言っても東京のデパートにお買い物に出掛けることであった。
一方、小学生の王子は育ち盛り…着る服がすぐに小さくなってしまう時期である。
したがって、休みにお姉ちゃん達がデパートに行く時には、
「あんた達、悪いけど王子も連れてって何か適当な服を買ってやってちょうだい!」
フミがそう言ってお姉ちゃんにお金を預けて頼むことがよくあった。
お姉ちゃん達も喜んで買い物に王子を連れて行ってくれた。…なぜならフミは「お釣りは?」などと野暮なことを言わなかったからである。
その頃松戸にはデパートもショッピングモールも無かったので、ちょっと良い服を買うとなるとやはり東京へ出て、上野の松坂屋百貨店や浅草の松屋デパートなどに行くことが多かった。
お姉ちゃん達はデパートに行くとまずは自分の服やバッグなどを選ぶ。
若い娘達なので内輪どうしでそれが可愛いだのあれが素敵だのとキャッキャラ言いながら楽しそうな買い物だが、そのうち子供の王子はだんだん飽きて退屈してくる。
そうするとお姉ちゃんの1人が巧みに王子の機嫌を取り、あしたのジョーとか巨人の星などのアニメプリントハンカチを買ってくれたりした。…今になって思えばお姉ちゃん達は上手くチームプレーをとっていたのだ。
…そうして、それぞれ自分達の買い物を済ますといよいよ王子の服選びとなり、みんなで子供服売り場に移動する。
「これ、可愛いよね!」
「あれも素敵よ!」
「いや、王子にはこういうのが似合うわ!」
…お姉ちゃん達はそれぞれ見立てた服を持って来て、王子は試着室で文字通りの着せ替え王子様になるのであった。
試着してパッとお披露目するたびに、お姉ちゃん達も、
「お~っ!」
「良い感じ!」
「可愛い~!」
などと歓声を上げて楽しんでいた。
こうしてお姉ちゃん達が選んでくれた洋服は、確かにお洒落でなかなかセンスも良い物であったが、それだけに学校に通う日々の普段着には向かず、よそ行き用としてその後せいぜい2~3度着たら翌年にはもう小さくなって着られなくなっていったのである。
…結局、日常の服はフミが松戸の洋品屋で買っている物で済ませつつ、王子は走ったり転んだりしてしょっちゅうズボンの膝に穴を開けたりシャツが裂けたりしたが、別にそんなことは大して気にせず平気で破けた服を着て毎日を過ごす王子なのであった。
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