第38話 火事の後の天国と地獄

 …それからさらに季節が少しずつ流れて行き、王子が小学3年生になると、周りに大きな出来事が起きた。

 王子の通う松戸市立北部小学校に火災が発生して校舎の大半が焼失したのである。

 夜間に出火したので児童は校舎にはいなかったが、先生側からの連絡が間に合わず、何も知らずに王子がいつものように登校して来たら、木造の校舎はすっかり燃えて無くなっていて、無残な燃え殻の山に姿を変えていた。

 校庭には焼け焦げた匂いが流れていた。

 クラスの仲間の姿もちらほらいたのでお互いに顔を見ると、みんなどうして良いか分からない表情である。

「…これって今日から学校に来なくて良いってことかなぁ?」

「学校無くなっちゃったもんね…」

「先生が何か話をするんじゃないの?」

「そうだよ、先生はどこにいるんだ?」

 子供達も何だか勝手に興奮しつつわぁわぁ言っていたのであった。

 …そんな中、みんなの前に担任の先生がぐったりした顔でやって来て、

「皆さん!…昨夜、学校で火災があり、私達の教室も焼失しました!…そういう事情なので今日からしばらく学校はお休みとなります!…今後のことは先生から皆さんの保護者の方に連絡をしますので、今日はこのままみんな帰宅して下さい!」

 と話をしたのであった。


 …後日伝え聞いた話では、出火原因は不明ながら職員室付近での不審火とのことだった。

 しかし能天気な王子にはとにかく学校がしばらくお休みになったことが何より嬉しかった。


 …結局火事の後の休みは3週間に及び、王子は毎日家でテレビを見ながら楽しく過ごしたのであった。

 そんな怠惰で夢のような生活はしかしアッと言う間に流れて行き、授業再開の知らせがついに学校側から届いた。

 久しぶりに学校に行って見ると、何と校庭には急造のプレハブ教室がずらずらといくつも建てられて、王子達の授業はそこで再開されたのであった。

 机や椅子は新しいものに変わったが、急造プレハブ教室はいかにも安普請な代物で、陽の照る夏秋の日はひたすら暑く、木枯らしの冬の日はめちゃくちゃ寒かった。

 ただでさえ、学校が好きでもない王子は特に冬の凍える寒さの教室がイヤでイヤで耐え難いほどであった。

 手足の指には霜焼けができ、唇は乾燥して切れて通学は辛かった。

 …毎日怠惰にテレビを見て過ごした天国のような生活から、一転してこんなプレハブ授業の地獄のような毎日になるとは子供の王子には全く予想外のことであった。

「この地獄のような教室の授業はいったいいつまで続くんだろう?」

 王子がそんな絶望感にうちひしがれているうちに、しかし季節は冬からだんだんと春に向かって移って行き、寒さも少しずつ緩んでいった。


 しかし、その春にはさらに王子の予想もしなかった全く新しい出来事が待っていたのである。

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