第27話 倒着!竹之高地
…という訳でサダジ一家は車を降りて、後は急な山道を徒歩で竹之高地に向かう。
サダジはまず赤ん坊をさっさと背負い、
「さぁ、行くぞ!」
と言ってずんずんと歩き出した。
荷室に閉じ込められていたフミとタマイはすでにヘロヘロだったが、もうとにかく気力を振り絞って山道を登るしかない。
…夏の草いきれの中をみんな無言で必死に坂道を上がって行くと、しばらくしてだんだんと大きく水音が聞こえて来た。
落差40メートル、太田川源流の不動滝の瀑布の音である。
…高龍神社下から約1キロ半ほどの道のりを踏み越え、ようやく王子らは不動滝の上に位置する竹之高地集落に入った。
集落の真ん中を流れる川沿いの細道から左に折れて50メートルほど行った突き当たりの家がサダジの実家、森緒本家であった。
「着いた~っ!」
…みんな口々に叫んで玄関に倒れ込むように入ると、ヤイ叔母とキノ婆ちゃんが出迎えてくれたが、あまりの一家の疲労困憊ぶりに驚いて、とにかく部屋で横になって休んでくれということになった。
実際、フミもタマイも王子もどっと疲れが出て、挨拶も抜きで横になると同時に全く意識を失い、そのまま長い昼寝に入っていったのであった。
…結局、到着初日は昼下がりまで一家でぐったりの王子らであったが、夕食時には本家4姉妹の顔も揃い、みんなの元気も回復して華やかな晩となった。
「うわぁ、王子!こないだまでちっちゃかったのに…すっかり大きくなったわねぇ !? 」
ミツイは久しぶりに再会した王子を見て言った。
「もう小学生だし、お兄ちゃんだからボク!」
王子はそう言っておどけて見せた。
「おぉ、偉い偉い!まぁいっぱい御飯食べて下さいな」
ヤイ叔母が笑顔で王子やみんなに御飯をよそった。
…晩御飯とお風呂の後、王子は2階のお姉ちゃん達の部屋で、一緒にトランプをやったり、少女漫画(マーガレットや少女フレンド)を見せてもらったりして寛いだ。
…という訳で、相変わらず王子はお姉ちゃん達にちやほやされ、楽しい竹之高地の夜は更けていくのであった。
…翌日になると森緒本家にはさらに親戚身内らが集まって来て、いっそう賑やかになった。
王子と、4姉妹の下2人トシコとヨシコ(虫亀おさわ家のヨシコとは別人)は、3人で集落の中心にある竹之高地小学校に遊びに行き、宿直室で五目並べやら花札などをして過ごした。
実はヤイ叔母がここの用務員の仕事をしているので学校には自由に出入りできたのである。
どっちにしろ夏休みなので教職員もいないし、車も入れぬ山間辺境の小さな集落なので学校も各住戸も鍵などかけることは無いのだ。
この頃の竹之高地小学校の児童数は三十数人、教職員は3人であった。その3人とも長岡の街からの通いの者で、竹之高地には今居ないのである。
…本家では、サダジの兄弟(王子の叔父さん)らが揃って、酒やらビールやら昼間から飲んで時事世間話をかんかんがくがくやっているので、子供は子供どおしで集まり楽しく遊ぶのが一番なのだ。
…そうして楽しい1日はあっという間に暮れて行き、山峡の地に宵闇が舞い降りて来るのであった。
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